第35話 惨状
晩餐会のあとのあいさつが始まった。
まずは、ブルスの若い王様からの、先日の
さらにはの話で、ダーカスを見習って公衆浴場を作っているんだってさ。
そのあとには、ダーカスの王様からの、晩餐会と歓迎を感謝するってことと、よい関係を結び2国間で発展を共有したいという話があった。
まぁ、決まりきった内容とも言えるけど、こういうのは形式が重要だからね。
で、エディのときみたいな腹芸はもう嫌だけど、ブルスの方がそういうの、なさそう。
なんていうのかな、純朴。
やっぱり、最大の国家であるリゴスに国境を接してないし、エディとの国境は渡るのにも苦労するほどの大河、ダーカスとの国境は火山だから、なにをするにも安心していられるんだろうね。
で、宗教も独自色が強いし、割りと貧しい国とも見られている。
侵略される心配もなくて、独立独歩で他国をあまり意識しないでこれたってのもあるんだろうなぁ。
でも、だ。
貧しいってのは、どうもイメージ先行なんじゃないかな?
他国と比べて食糧生産が、牧畜に加えて海産物の供給もあるという複線化がされているというだけで、俺からすると随分と豊かに見える。
その証拠に……。
商人組合のティカレットさん、妙に元気だ。
エディでは、買うものも売るものもあまりないって借りてきた猫みたいに静かだったのに、晩餐会のお料理を見てからあちこちに声を掛けまくっている。
やっぱり晩餐会って、その国なりの贅を尽くすから、産物が判るよね。
サフラでもそうだったけど、海産物はこの世界では高く売れる。しかも、ブルスではサフラとはぜんぜん違うものが獲れる。
ただ、保存方法はブルスじゃ、凍結なんて無理だからね。だから今までは、あまり貿易の対象物にならなかった。俺も正直言って、塩するぐらいしか思いつかない。
って、秋田県名物がなかったっけ、そういうの。
塩して、漬け込んで、液を取るんだよね。
そうそう、ナムプラーとか言わなかったかな?
でも、これ、ルーは知らない。俺も、生春巻きでナムプラーは食べたことがあるかなぁ、ぐらいなものだ。
んー、で、秋田県のはナムプラーじゃなくて、しょっつるだっけ?
良く知らないことってのは、記憶が混乱するね。
そうだ、思い出したぞ。
平たい顔族が食べる「ガルム」ってのもあったっけ?
って、これ、輸出できるんじゃないかな。
さっそく提案しとこう。
− − − − − − − − −
晩餐会のあとにティカレットさんが言うには、この国の職人さんの技は、あまり見るべきものがないそうだ。
ただ、向こうが見えるほど薄い布は、他の国では作れないと。
あと、曲がりなりにも漁が成立しているのは凄いと。
ダーカスとの国境では、トールケの火の山のブルス側でやはり硫黄が取れるだろうし、どうやら鉄鉱石までが相当取れるらしい。
だから、ブルスには売るものはある。そして、他の技術はないから、工芸品はブルスに運んでくれば売れる、と。
こういう不均等の存在こそが一番商売になるって、ティカレットさんに力説されちゃったよ。
でも考えてみれば、
今まで、流通から取り残されてきた国なんだよね。
未だ見つかっていない、もっと良い商品だってきっとあるはずなんだ。
ともかく、俺は俺の仕事をしなきゃだ。
翌朝、俺はルーとこの国の技術者と一緒に
この国の
で、海辺の見晴らしの良いところに、この街の
中に入って……。
なんじゃ、こりゃあーっ!
俺だけじゃない。ヴューユさんもルーも絶句している。
……よく炎上していなかったな。
劣化がひどすぎて、木の壁の所々が炭化している。
文様もぼろぼろに劣化している。
なんでここまで酷いことになっているんだろ……。
今まで見た中でも、飛び抜けて酷いというか、目も当てられない。
廃墟感さえ漂っている。
文様に被せられた絶縁体は、ほぼ焼けて剥げ落ちている。
修繕を重ねても重ねても、雨漏りも止められないらしい。全体的に、そのせいか焦げ臭く、同時にカビ臭い。
「この国、次の魔素流で滅びても不思議はない。
なんでここまで劣化を……」
そう聞くと、一緒に旅してきたこの国の技術者も、ブルスの魔術師さんも口を揃えてこう答えた。
「魔素流だけでなく、夏は2日に1度は雷が落ちまくるんです。今の季節でも、5日に1回くらいは……。
できる限りのことはしているんですが、そのたびに……」
あ、雷……。
そういえば、俺、ダーカスで夕立を経験してないや。
そか、雷か。
タチ悪いなぁ。
避雷針を立てれば、きっと魔素流もそちらに落ちてしまう。
で、魔素流の流れる先が水でなければ、やはり炎上だ。
けど、立てなければ、
あとは、避雷針を立てておいて、魔素流がくるときは倒す。
それしかないかな。
で……。
ということは、数日以内にはまた雷が来るんだよね。
「避雷針になる金属の棒を探せ」って俺が言い出したら、ブルスの技術者達も魔術師さんも含めて、てんやわんやの大騒ぎになった。
まずは金属の棒の太くて長いの、そんなもの、あるはずもないと。
作ろうにも、とりあえず金はあるけど太陽炉はないし、細工物ならまだしも、長大な棒を作る技術がない。
ましてや、ダーカスでやったように、鉄の棒に金をかぶせて錆止めと強度を両立させるなんてこと、望むべくもない。
ここで、完全に行き詰まった。
これからみんなで修繕をしても、激しい雷雨で元に戻ってしまう。これじゃ、賽の河原みたいだ。
かといって、修繕をしないわけにもいかない。
もっと早く言ってくれればとは思うけど、彼らはこれはこういうものだと最初から思い込んでいたんだろう。人は、自分がアタリマエと思っていることは言わないからね。おまけに、他国の整備が追いついている
で、唸り声をあげて頭を抱えてしまった俺に、助け舟を出してくれたのはルーだった。
「ダーカスの船、帆柱の高さ結構ありますし、あれ、『始元の大魔導師』様が金の太いケーブルを先端から垂らしてましたよね。帆柱が燃えても困るし、帆が燃えても困るって言いながら。
あれ、使えるんじゃないかと。
船をこの
……ルー、すげーいいところに気がついてくれたなぁ。
そうか、船があったかー。
で、言われてみれば、そんな仕事もしたな、俺。
船は、可動式の避雷針だよー。文字どおりの助け舟だなぁ。
これで、短期間には安全が確保できる。
問題は、船をいつまでもここに着けておくわけにはいかないこと。
早急に起こしたり倒したりできるだけの強度を持つ、しっかりした避雷針が欲しい。
とりあえず、ブルスの街を挙げて捜索は続いているけど、見つかる気がしない。
あとは、船を危険に晒すけど、金の太いケーブルを船から外してしまって、それを流用することだ。
ただ、船が落雷で燃えちゃったら困るから、早急にダーカスに戻って、修理してきてもらわなきゃだ。
また、その際に避雷針をエモーリさんの工房に発注するにしても、完成して納品までには相当に日が掛かるからね。
2艘ある船の活用も含めて、なんか良い方法を考えなきゃだ。
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