第24話 もう1つの決意 2


 1つ深呼吸をして、自分の意志が揺らがないことを自分で確認して、話す。

 「私は、この大陸を離れようかと考えています。

 本郷にダーカスとこの大陸を任せられれば、安心してルーと船で他の大陸に渡れます。

 他の大陸でも、円形施設キクラの寿命は尽きかけているでしょう。

 いや、すでに、円形施設キクラを失い、流浪の原始人化しているかもしれません。彼らにも、手を差し伸べる必要があると思うのです。

 今はこの大陸も、この中の復興だけで精一杯です。ですが、次の世代になる頃には、行き詰まりを見せるでしょう。

 そのときになって、他の商売相手を探すのでは遅すぎます。

 この大陸と歩調を合わせるように、他の大陸でも発展しておいて貰わないと……」

 ついに決意として、口に出してしまったよ。


 本郷じゃない方がまずは外国に行くってのは、仮面ラ○ダーと違っちゃったけど、まぁ、いいじゃん。


 王様、額に手をあてて俯く。

 ひょっとして、悲しい?

 てか、いつもより暗くないか、雰囲気が。

 「『始元の大魔導師』殿の大公位、これもすでに話ができている。

 その意、解った。

 存分に活躍されるがよい。

 ただ、ルイーザ、そちはどうするのだ?

 あえて確認するが、『始元の大魔導師』殿の言うことに従い、海を渡るか?」

 「魔法学院から、魔術師になれるというお話をいただいています。

 それをお受けし、上位魔法の許しを得てからお供したいと考えています。

 私は、どこまでも、『始元の大魔導師』殿にお供します。

 我が王よ、是が非にもお許しを」

 きっぱり。

 相変わらず、ルーには迷いがない。

 ……ルー、ありがとうなぁ。

 


 「場合によれば、私が各王に話しましょう。

 ダーカスはどの国に対しても中立。また、侵略されたら撃退するけど、自らが他国に攻め込むことはない。だから、『始元の大魔導師』はダーカスにいる、と。

 本郷についても、これは変わらない、と」

 そう、王様に提案してみた。

 でも王様は、あっけなく断ってきた。

 「いや、不要。

 そのくらいの交渉は、王として余が纏めてみせようぞ」

 そか。

 それは助かるなぁ。


 「よろしくお願いいたします」

 「なにを言うか。

 これは、王として当然の務め。

 ただ、『始元の大魔導師』殿。

 他の大陸に渡る船には、各国すべての出身者を乗せねばなるまいよ。

 他の大陸での利権の取り合いが、必ず絡むからの。思っておられるほど、自由な航海にはならぬかもしれぬぞ」

 「そんなもの、海で嵐に一回会えば、団結するでしょう。

 平時には、ばらばらで構わないと思っています。

 むしろ、その競争で他国を救うことが加速するならば、望むところです」

 「確かにそれはそうかもしれぬ。

 まぁ、ルイーザもいることだし、うまくいくことだろう。

 だが……。

 『始元の大魔導師』殿の故国はダーカスぞ。

 それは忘れずにいて欲しい」

 ……王様、やっぱり、いつもと違う。

 絶対、違う。

 表情でなく、口調が弱気。


 「我が王よ、感謝いたします。

 ですが、今生の別れでもありますまいに。

 本郷と交代で、この世界をあまねく安全な場所としましょう。

 そして、私は必ずダーカスに戻りますゆえ、ご懸念なく」

 「まだまだ先の話だと言うのに、辛くなってしまったわい。

 まだ、エディとブルスにも行かねばならぬというのに」

 あ、これはダメだ。


 「我が王よ、それは、ホームシックと呼ばれるものにございます」

 「……?」

 「どれほど徳を積もうと、故郷が恋しいのは人としてのさが

 まして、我が王は、初めてダーカスを離れられた。故郷を思うは当然のこと」

 「『始元の大魔導師』殿が、異なる世界から来られ、耐えられたものを余が耐えられぬ訳がない」

 ……基準が俺かよ。

 てか、ケロ□軍曹でも、ホームシックにかかってたよなぁ。小隊の誰か、かもだけど。


 「それほど耐えてませんよ、私は。

 元の世界でも、それなりに旅はして馴れてましたし。

 帰れぬものと思っていた時間は案外少なくて、その後は実際に帰りましたし。

 むしろ、私よりルーの方が大変でしたよ。

 共に私の世界に行ったあと、こちらに召喚される前に、『ようやく帰れる』って、落ち着きのなさと言ったら……」

 「そのようなものなのか?」

 「いにしえの文献にも、そのような人の強く切ない思いは多く記されております。

 私の世界でもっとも有名と言ってもいい、高僧の三蔵法師と言われる人ですら、『自分の国の食べ物が食べたい』と外国で泣いたそうです。そして、それは『優しく情があるからだ』と言われたのです」

 「なんと……」


 うろ覚えだけど、徒然草だっけ。

 古文の時間にこの話を教わったとき、孫悟空の話とのあまりのギャップに驚いたんだよね。だから、覚えていたんだ。

 で、たぶん、徒然草は、この世界に持ち込まれてない。

 俺、古典はほとんど入れなかったと思うし、ルーが入れるとも思えないからね。


 「我が王よ。

 じきに、ダーカスからの直行便が着くでしょう。

 新品のコンデンサを、運べるだけ運べと頼んでいますから。

 おそらくは、ダーカスの香りも運んでくるでしょう。

 そして、我が王よ、遠くない日数の後、必ず帰れることは決まっていることです。

 そして、帰ったのちは、今のお気持ちも旅情の一つとして、懐かしく思い出されることでしょう」

 気休めみたいなもんだけど、ま、落ち込んだ人には、「頑張れ」とは言っちゃいけないんだったよねぇ。


 「『始元の大魔導師』殿は、まことに『王友』に相応しい。

 なるほど、この寂しさをも楽しめ、か。

 面白いのう。

 また一つ教えられたわ」

 「御伽衆が必要であれば、ダーカスから同行した者もおりましょうに」

 「いや、まさかに臣下に弱みは見せられまい。

 『優しく情があるからだ』と取る者ばかりではない。

 だが、よい。

 はや落ち着いた。礼を言う」

 いえ、どーいたしまして。


 「『始元の大魔導師』殿、リゴスの円形施設キクラの修理の状況はどのような?」

 「順調です。

 あとはリゴスの育った技術者で、他の2つの円形施設キクラの修理は果たしうるでしょう。

 コンデンサのみ、引き続き輸出の必要がありましょう。

 ただ、ダーカスの工房の在庫も、サフラとの国境近くの円形施設キクラに設置するために出払ってしまっております。

 でも、日々生産もされておりますから、ありたけを運んでもらうよう、お願いしてあります」

 「なるほどな。

 では後顧の憂いはない。

 コンデンサがダーカスから届き、その設置が軌道に乗るのを目処に、エディに移動しよう。

 なので、余の名前で魔法学院に一定額の寄付を行う。

 『始元の大魔導師』殿、ルイーザの魔術師への参入秘儀、見届けてくれよ」

 「はい。

 ありがとうございます」


 「ルイーザ、良き魔術師になるのだ」

 「……はい」

 ルーも、いつになく神妙に答える。


 ああ、この王様、どこまで落ち込んでいても、最後は人のことに気を使ってくれるんだなぁ。

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