第23話 もう1つの決意 1
ルー、扉を開けて、そろそろっと戻ってくる。
さて、どうしようか。
ここで唐突に、「可愛い」なんて言ったら、そりゃあさ、わざとらしさ120パーセントだ。
「じゃ、そういうことで、本郷、奥さんに手紙書けよな。
送るときにまた、送り先のイメージについて話すから。
じゃ、王様んとこ行ってくるな」
そう言って、ルーの腕掴んで連れ出す。
その俺の背中に、本郷の声が投げられる。
「じゃあ、手紙、書くよ、俺。
お前も頑張れ」
「おう」
そう答えて、戸を閉めた。外で待っていた介護の人が、入れ替わりで本郷の部屋に入る。
ありがたいことだ。
本郷、手紙書くかぁ。
これも1つの決断だなぁ。
ダーカスの王様に割り当てられた部屋に向かいながら、ルーに話しかける。
「なぁ、ルー。
その耳の件だけど……」
「はい」
「120パーセントだな」
「120パーセント?
分母と分子はなんでしょうか?」
「えっ……」
「それが判らないと……。
なんの話でしょうか?」
「わ……、解かれよな!」
「判りませんよっ!」
「えっと……。
解っていただけると助かるのですが……」
「分母と分子の説明をしていただけると助かるのですが……」
くっ。
だめだ、循環している。
これ、負けるパターンだ。
「……その耳のあるなしに関わらず、か、か、かっ、かかかかかか……」
「エモーリんとこの、壊れたからくり人形ですか!?」
「すー(深呼吸、はー(深呼吸、すー(深呼吸、はー(深呼吸」
「ナルタキ殿、なんだっていうんですか?」
「ルー!
為替のカ!
わらびのワ!
いろはのイ!
いろはのイ!
以上!」
「為替ってなんです?
確か、経済用語でしたよね?
『わらび』ってなんですか?
なんでまた、急にそんな、支離滅裂なことを……?」
あー、分からなかったかぁ。
だけど、なんで、こんなにハードルが高いんだ。
テレと気まずさで、つらたん。
でも、声出して口を大きく動かしたら、それでも抵抗感が薄れた。
「ルー、可愛い。
耳付いてて可愛いけど、なくても可愛い」
するんと、口から出た。
出してから、耐えられなくなった。
人生が辛い。
もう、さっさと殺して欲しいわぁ。
「……い、いざ言われると、緊張するんですね。
って、えっ、どうしたらいいんだろう?
『そんなことないです』ってのは違いますよね。
あれ、あんなに考えていたのに、あれ、なにも頭に残ってない、あれ、あれ、もっとなんか言うことがあったはずなのに、あれ?」
真っ赤になって、わたわたしているルーを見ていたら、ようやく、余裕が持てた。
「また、あとで、きちんと言うから。
言った方も、言われた方も、辛くなるとは思わんかった。
綺麗で可愛いって、それだけ言いたかっただけなのにな……」
「今、始めて実感が湧きました。
ナルタキ殿は、私にだけは言ってくれなかった。
ラーレも、ユーラも、デリンも、ヴューユさんとこのメイド達も、王宮の女性書記官も、みんな綺麗とか言う中で、私だけは言って貰えなかった。
……辛かったんですよぅ」
「ルー。
ルーとだけは心が結ぺたと思っていて、そうなると、綺麗とか、可愛いとか、口に出して言う方が不純な気がしたんだ。
なんか、えっちの対象としてしか見てない気がして……。
可愛いと、思っていないわけじゃなかった。
口に出せてから思ったけど、コレ、別に不純でもなかったかも……。
一番……、一番可愛いいと思っている」
ルー、俺にしがみついてきた。
「嬉しいです。
本郷さんに感謝します」
「えっ?
さっき本郷と2人で話した中身、バレてる?」
「逆に、なんでバレてないと思いました、ナゥム?」
「うるさい」
そう言って、ルーの背に手を回す。
がちゃ。
ドアの開く音。
「あのな、余の部屋の前で、聞こえがよしに愛を語るのは止めて貰えんか。
それはそれで、こっちも辛いものがあるのだぞ」
……あ、王様。
あああっ。
王様の後ろで、トプさんが思いっ切り目を逸らしていた。
− − − − − − − −
「とりあえず、魔法学院、ギルド本部の報告は聞いた。
こちらからも伝えておこう。
リゴスの王と、約束が成った。
ダーカスの開墾人材の、制度としての呼び戻しは厳に慎むということだ。
どちらの方が良い国かを判断するのは、個々の人々だ。
人々の流動化は行っていくが、これからはリゴスでさえ人材の不足の時代が来る。従って、人材の取り合いが起きる。
それについては、人を留める制度ではなく、国としての魅力で行うということだ。
これからは、戸籍制度なども必要となろう。住民の登録もする必要も生じてくるだろう。だが、それは、各国同時に発効すべきであろうし、それまでは、自由にさせようということだ」
王様、よくよく見ると、疲労の色が濃い。
連日ぶっ続けで会議、そして決断、だもんな。
王様の一番辛いところは、どこにも逃げ場がないことだ。
お疲れさまです。
「リゴスの職人さん達から、ダーカスの新設の
やはり、
ダーカスに比べて、リゴスの職人さん達はより専門化、個別化されていて、見ておいた方がいいと考えた職人さん達がたくさんいます。
今のお話と併せて考えると、その職人さん達をうまく引き止められれば、ダーカスの技術もさらに上がるでしょうし。
また、このあたり、今から仕込めば、観光地としても成立させられるかもしれませんね」
この辺りは、本業の報告だ。
「うむ。そうだな。
まずは、来る者は拒まずから始めないとな。
去る者は追わねばならないだろうが。
だが、総じて、事態は好転している。
話は、もう1つある。
ホンゴウ殿のことだ。
この数日でも、かなり回復されたと聞いた。
身の振り方は決められたのか?」
「元の世界に残してきた、妻子に手紙を書くそうです。
その結果によって、考えたいと」
そか、本郷の身の振り方も考えなきゃなんだけど、あいつ自身はここに残るとしたら、どう考えるのだろう。
「現在、水面下で熾烈な綱引きが起きている。
ダーカスで『始元の大魔導師』を2人も持つのはおかしいと言うのが、ダーカス以外のすべての国の意見だ。
そして、現にリゴスいることもあって、リゴスはホンゴウ殿を手放す気を持っていない」
「私も、考えがあるのですが……」
「『始元の大魔導師』殿。
それはどのような?」
前々から、なんとなく考えていたことだけど、今の本郷の話を聞いたら決意として口に出しておこうって思ったんだ。
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