第19話 ギルド本部
「ここで、夢がかなうって、そんなお話をいただけるなんて……」
ルー、半ば絶句している。
「よかったじゃん」
そう、ルーに声を掛ける。
「『始元の大魔導師』様。
このお話、ありがたいのですがお受けできません」
「えっ、そうなの?」
「私の気持ちとしては、受けたいと思うんです。
でも、今の私の立場は、『始元の大魔導師』様と王と魔術師の三者を繋ぐ者です。私が魔術師になったら、この役目は果たせません。
そして、この役割はまだまだ必要なんです」
決意、かな。
いつにないほど、きりっとした顔になってる。
そか。
まったく、コイツは……。
たまには、自分優先でもいいだろうに。
「申し訳ありませんが、今のお話、本人はこう言ってますが、状況が落ち着くまで保留にしていただくことは可能でしょうか?
あくまで、今でないとダメなお話でしょうか?
なんとか、保留でお願いできないでしょうか?」
「『始元の大魔導師』殿。
我々は、お待ちしておりますよ。
ルイーザ殿との再訪をね。そして、いつでも儀式はできるようにしておきます」
俺、また、頭を下げたよ。
横でルーも、頭を下げてたよ。
とりあえずその後、ギルド本部へは、魔術師の一番偉い人と一緒に行こうってことになった。
結局、俺達はダーカスに帰らなくちゃならないから、「次の機会に」ってならなかったんだ。できることはすぐに片付けておかないと、ってね。
「これから行くけど、ギルド本部の偉い人いますか?」ってお使いが出て、20分くらいで戻ってきてくれた。
で、ギルドの総組合長さんがいるっていうから、魔術師の一番偉い人、お供の魔術師を加えて、俺とルーの4人で行ったよ。
ギルドの本部って言うからさ、楽しみにして行ったけど、まさかのバザールの場末のワンルーム。しかも、大して広くない。
「どういうこった」と思ったら、リゴス支部が別にあるから、依頼と請負の話は全部そっちなんだそうな。
なので、セキュリティのしっかりした小さな空間があれば、偉い人の居場所である本部はそれでいいんだと。まぁ、そう言われてみればそうだけど、それでも期待しちゃっていたからね。ダーカス支部の100倍ぐらい賑わっている姿をさ。
で、簡単なテーブルと椅子に案内されて、さっきの魔術師の総本山と比べると、まぁ、相当に見劣りする。
でも、よくよく考えてみれば……。
ルーはギルドのことを、この世界の闇と評していた。
この世界で、次男三男、次女三女以降に生まれたら、ギルドで冒険者登録をして仕事を請け負わないと生きていけない。そして、危険な仕事の依頼を受けて、がんがん死んでいくって。
ダーカスではハヤットさんの尽力もあって、もう誰も死なせてない。けど、ここではまだ、従前のとおりだろうな。
そか。
ギルド本部の偉い人は、その命がけの仕事の報酬から、一定割合で差っ引かれる手数料で収入を得ているわけだ。
実際にはその手数料の大部分は冒険者たちに還元されているけど、要らぬ誤解から非難されちゃたまらないもんな。そりゃあ、本部も華美に見えないように作るだろうさ。
ギルドの総本部長という人は、ダーカスのハヤットさんに負けないほどのごりごりのマッチョだった。
ケナンさんと同じで、現役にしてミスリル
ただ、ハヤットさんと違うのは、頭髪に男性ホルモンの影響が強すぎないことかな。
まず、初対面のあいさつを交わして、『始元の大魔導師』殿に会いたかったと言われて。
その次に、ここに来た理由と、それに伴う懸念について、魔術師の一番偉い人が話してくれた。
魔素の闇利用が増えては困る、貯蔵できるようになった魔素の闇取引も困るって。さらに、その闇取引のルートができてしまうと、そのマーケットが一人歩きを初めて自己増殖してしまう、と。
したら、ギルドの総組合長、低い声でしれっと言った。
「言いたいことは解りましたが……。
ならば、売ればいいんですよ、魔素を。
使うなと言ったからって、使わないでは済まない。
魔素を使う目的によって良い悪いを決めても、悪いとされた方がそれで諦めるわけもない。
闇に潜るのが怖いならば、すべてを合法化して、陽の当たるところに引きずり出せばいい。金額が明示されていれば、闇のリスクを負うより、買う方に走るのは自明です」
ああ、そういう考え方もあるか。
でも、魔術師さん達の顔色が変わった。
「我々は、商売でこの世界を守っているわけではない!」
そりゃそーだ。
こっちの言いたいことも解る。
怒りもあるだろうけど、線を引いておきたいってのもあるだろうしな。
「そんなことなんて言っては失礼ですが、でも、そんなことはこの世界の誰もが知っています。
あなた達魔術師に、治癒魔法を有償化しろなんてことは言ってませんよ。
『始元の大魔導師』殿のもたらした、コンデンサというものの話は私も聞いています。それによって、余剰の魔素が初めて生まれた。それの利用についての話ですよね?」
「ですが……」
魔術師さん2人は、納得し難いって顔だ。
「有償化という言葉に拒絶感を覚えるのは解りますが、魔素を詰めたコンデンサを、良い目的だと話す相手に無償配布するのですか?
悪い目的だと話す相手には渡さずに?
おっしゃっていることに、現実感がまったくありませんよ。
我々ギルドは、若者を死に追いやり、そのピンハネで成り立っている組織です。
でもね、その分、現実的に考えるんですよ。
人は嘘を
嘘を見破れないならば、嘘を吐かせないルールにするしかないんです。
違いますか?」
うーん、説得力はあるなぁ。
ルーが妥協案を出した。
「じゃあですよ。
コンデンサを渡さず、魔素の店頭売りならどうなります?
魔法を使うことによる生命力の喪失というリスクを温存させたとしたら、店頭で魔法を使うしかなくなる。
そうなれば、よろしくない目的には使えない」
「ダメでしょうねぇ。
それを奪おうって人間に対しての対策という意味では、無意味です。まぁ、ルイーザ殿の案で、リスク自体は下がるでしょうけどね。
今まで、
今はまだ少数ですが、それに気がつく人間が増えたら、それでお終いですよ」
くっ、そりゃそーだ。
魔素ってのは、俺の世界の電気に相当するんだよな。
俺の世界では、それを売るには、電池という方法以外には、送電線……。
「
金線の末端には、魔素の使用量が判る装置を付けるのです」
そう案を出してみた。
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