第18話 話し合い 3


 「解りました。

 それでは、ギルド本部との調整はどうしましょうか。

 この足で、行きましょうか?」

 我ながら、ちょいとフットワーク軽すぎだけど、そう提案してみた。


 「その前に、1つよろしいでしょうか?

 先程、『始元の大魔導師』殿の申された、複数の円形施設キクラを制御する方法とは、どのようなものなのでしょうか?」

 「ブルスで発見された、いにしえの円形施設キクラの法具を見ました。

 中身は、金と賢者の石、そして『魔術師の服』と同じような、冷たい金属にも感じる布が重ねられていました。

 冷たい金属にも感じる布は、賢者の石に触れても金にならず、また召喚と派遣をしても、その転移に影響されない物質のようですね。

 その詳細は私には判りません。

 ただ、これが、魔素の流れを制御していると私は考えました。

 賢者の石の大きさによって、魔素流への耐圧が変わるようですし、金から布へは魔素が流れても、布から金へは流れないようです。まぁ、金は導体ですから、問題は賢者の石と布ですね。

 これは私達の世界の電気の技術では、半導体と呼ばれるものに相当するのでしょう。ならば、同じように増幅機能も持たせられるでしょうし、魔素の流れる量を制限することもできるでしょうね」

 とりあえず、解っていることを答える。


 「『魔術師の服』は、いにしえの『始元の大魔導師』達が作り上げ、代々受け継がれてきたもの。その詳細は、ここに残されてきました。ですが、それを再度作ることは詳細を知る我々を持ってしても能わず、どのような技が足らないのかすら判らないのです。

 いわゆるその材料をどこまで突き詰めても、ここにいるこの魔術師ラーゼスが極限まで素材の純度を高めても、どうしても上手くいかない。

 それができれば、仰る半導体の研究も進むでしょう。

 なにか、『始元の大魔導師』殿にご教示いただけないでしょうか?」

 はあ。

 俺に判るかよ、そんな難題。


 でも、ラーゼスさんって名前は、前にもどこかで聞いたぞ。

 その人が、昔から残された文献に沿って努力していてできないのに、俺がぽんと解決できるわきゃねーだろ。


 でも……。

 でもさ、なんか引っかかったというか、記憶の表面に引っかき傷をつけられたんだよね。極限まで素材の純度を高めたって言葉が……。

 「どれほど純度をあげても、ダメなんですか?」

 「ええ。

 使用する水も蒸留に蒸留を繰り返し、試薬は溶かしては再結晶化させ、とことんまで材料の精製を繰り返してもダメなのです」

 あ、今答えてくれた人が、ラーゼスさんかな。


 そこで、一気に思い出した。

 「では、そこに、制御された形で不純物を足してみてはいかがでしょうか」

 半導体の作り方だよ。

 精製して精製して、そこにちょこっと不純物を入れるんだよね。

 高校のときに、なんかの授業で聞いたぞ。


 半導体は、P型とN型の2つのタイプがある。

 魔素の半導体も、2つのタイプがあるとしたら、1つは賢者の石。もう1つが、人為的に作られた布なんだろう。

 となると、作り方も似ていて不思議はない。

 「えっと、精製したメインの材料ですけど、不純物によって性質が変わると思います。

 同じ材料で、不純物によって固くなったら賢者の石、柔らかくなったら『魔術師の服』の布になるんじゃないかな、ひょっとして……」

 「……」

 「……」

 なに? この間は。


 ばたん。

 ラーゼスさん、ドアを乱暴に開けて、部屋から出ていっちゃったよ。

 「な……、なにかマズイこと言っちゃいましたかね?」

 「違いますよ。

 ラーゼス、たぶん一週間は自室から出てこないでしょう。

 また、強引に食事をさせなくてはならないわけだ。

 これで、『魔術師の服』が実現したら、『始元の大魔導師』殿、『始元の大魔導師』という存在は、我々が予想していたよりも遥かに恐ろしい存在ですね。まるで預言者よげんしゃのようだ」

 

 えっ……。

 今のでヒントになったのかな。

 なったのならいいけど。

 で、予言者よげんしゃって、なにがよ?

 未来なんか判んないぞ。



 「その上でですが、魔素を流したり流さなかったりすると、どこがどうなるというのですか?」

 これについては、元いた世界から本を持ってきているからね。

 船便で運んでおいて貰う荷物の中に、入れておいたんだ。

 だから、そのページを開いて、魔術師さん達に回した。

 「んと、私の元いた世界では、電気というものを使用して、このような考える機械を作っていました。

 魔素でも同じように、その増減によってこのようなAND、NAND、OR、XNOR、NORの論理構造を作ることができるのです。

 これをたくさん組み合わせると、どの条件のときにどうするっていう回路が作れるのです。そして、この流す流さないという性質がそのままスイッチとして使えるのです。

 魔素流がいかに強くても、その分大きな賢者の石を使えばいいわけですし、ね」

 「……魔素を使って考えるところは、いくら小さくても構わないと。そして、その結果を増幅させて、大きな切り替え機能を制御するわけですね」

 「そうです、そうです」

 さすがやな、魔術師さん。ひと目で理解したのかよ。

 魔術師になること自体は才能でも、リゴスのここはその中でも選り抜きの人達たがらなー。頭脳も最高峰なんだろう。


 「これ、今、ちょっとだけ貸していただけませんか。

 写します」

 「どうぞ。

 進呈します。

 私より、あなた達の方が話が早いですからね。

 そもそも、私は魔素で言えば末端経路の専門家で、考える機械のことは詳しくないのです」

 「……いえ、いにしえの『始元の大魔導師』達が考える機械を作ったということが、どうしても解らなかったのです。

 文献は残されていても、もともとの増幅や、切り替えという概念ができていなかったので理解しきれていなかった。

 これと併せて、すべての文献の洗い直しです。

 『始元の大魔導師』殿。

 あなたは我々の知に革命をもたらしたのです」

 えっ、そんな大層なもんだったの、アレ。

 なんか、ざわざわとしてきて、魔術師さん達がやたら興奮しているのが分かる。

 ま、あとは任せたー。



 「こちらから、もう1つ提案がありました。

 これは、極めて微妙なことなので、お話するかどうか最後まで躊躇っていたのですが、ここまでのことをしていただいたら、躊躇してもいられません。

 ルイーザ殿。

 『始元の大魔導師』殿を守ろうという意思、今までの実績、ともに見事なものです。

 通過儀礼イニシエーションを受け、正規の魔術師になられる意思がおありであれば、前例を破り、ここでの儀式を行う準備があります」

 「それって、魔術師が世界征服して、代々続く王朝を開いてしまう危険があるんでしょう?」

 俺、思わず聞いてしまう。

 で、ルーの実績の中には、ときどき逃げ出そうとするのを俺が後ろ襟首掴まえていたのがあるのは、黙っておいてやろう。


 「『始元の大魔導師』殿。

 あなたはすでに、領土を持たないだけで、王位についたのも同じ。

 これから科学技術という、学の代表となられることも想定されている。

 ならば、その妻になる者が魔術師であり、代々続いたとしてもなんの問題もない。

 王が魔術師としての才能がある場合、王家の断絶と魔術師の律が対立するわけですが、王家の断絶を防ぐことの方が優先されるのです」

 俺が王で、王妃がルーだからってか。

 あー、もう、初めてではないにしても、こう形に示されるとくらくらするな。


 さ、ルー、あとは君の意思だ。

 夢を果たすがいいさ。


 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


論理回路、です。

リンクフリーとはいえ、ありがとうございます。


https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1325224405862023168

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