第17話 話し合い 2


 「ですが、1つ判ったような気がしますな。

 『始元の大魔導師』殿が、我々をも救う対象としたことが……。

 『始元の大魔導師』殿の常識からしたら、命がけで円形施設キクラを守る存在すら違和感があったのでしょう。

 我々が心配していたような、恩義で縛るような意思ではないということですな」

 「はい」

 うん。言葉に出して確認してくれると、判りやすくていい。

 きっと、こっちの言質を取るつもりもあるんだろうけど。裏なんかねーから、好きほど言質を取るがいいさ。


 じゃ、次はこっちの番だ。

 「では、こちらからも1つ、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 「ほう、なんでしょうかな?」

 「魔術師の律を変えろとは言いませんが、運用についてちょっとだけ見直しをお願いできませんか?」

 「と、いいますと?」

 「天然自然に起きることは、魔術師の律の外と聞きました。

 あくまで人為で、前にこの世界が滅びたときのような事態を繰り返さない、それが律で、また律の根拠と聞いています。

 で、ですが、円形施設キクラの管理と、魔素流が来たときの対応の自動化を私は成し遂げています。

 さらに、この方法は洗練できます。もっと安全に、魔術師の手を借りずにできるようになるんです。また、複数の円形施設キクラの間の相互制御すら可能になります。

 この装置を、私は魔法に依らず開発できると思っています」

 ヤバい。

 俺、言い切っちゃったよ。できるかどうかは自信ないのに。


 「さて、1年掛けて私がそれを開発したとしても、そこに意味はあるのでしょうか?

 やはり、訪れし者の私は神様じゃありませんし、物事のきっかけに過ぎません。理想の実現は、この世界の方たちの手で行った方が良いのではないでしょうか?

 そうなると、円形施設キクラの改良というか、いにしえの形をとりもどすのは、最終的には魔術師さん達にしていただいた方が良いと思うのです。

 ただ、律との兼ね合いで、魔術師さん達が自縄自縛になってしまうかもと思います。

 ただ、それは実は可怪しな話です。

 この世界を救うことを、魔術師さん達が妨害してしまうことになりかねないからです。

 でも、そのような意思がないことは解っています。

 この世界の滅びの繰り返しを避けたいという、目的も理解しています。

 今、こちらの王宮では、政軍魔学の独立について、話がされています。それに沿って、律の運用の見直しを検討していただけませんか?

 そして、さまざまな開発とそれに伴う研究も、共に進めていただきたいのです。

 お願いいたします」

 そう言って俺、頭を下げたんだ。


 「『始元の大魔導師』殿。頭をお上げください。

 参りましたね。

 あなたは国王に匹敵する地位のお方。しかも、その実績はどの王よりも大。

 その御方に頭を下げられてしまえば、それは王命以上の重みを持ってしまいます」

 そう言ってから、間が空いた。


 なんか、言い足さないとかなーなんて思ったところで、一番偉い魔術師さんが話しだした。

 「『始元の大魔導師』殿の仰ることは解ります。

 また、我々に仕上げをせよというのは、身が引き締まる思いです。

 ですが、我々も『始元の大魔導師』殿の業績を盗むつもりはありません。

 そのあたりの関係は、王宮での話がまとまったら、それに沿って決めさせていただければと思います。

 ただ、我々も律を超え、我武者羅に世界を救う努力をすることをお約束します」


 俺は、再び頭を下げた。

 「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 「いや、『始元の大魔導師』殿。

 あなたに礼を言われると、ますます我々の立場がない」

 「いえいえ」

 妥協点が見つかったというより、「律を超え」と言ってもらえた時点で、こちらの意が通ったんだよね。


 まぁ、実のところ助かった。

 この人達が協力してくれるのであれば、この人達にこそ、いろいろ考えて貰おう。

 この世界に未だ不案内の俺と、この世界全体にネットワークを持っている大組織じゃ、開発するための基礎力が違いすぎるからね。

 ま、俺は、楽ができればいいよ。って言うと、あんまりかなぁ。



 「『始元の大魔導師』殿、となるとですね、もう1つ、このことについて話を通す必要がある組織があります。

 魔法の使用頻度からすると、我々よりも実はギルドの冒険者の方が問題なのです」

 冒険者が?

 まぁ、彼らも魔法は使うけど、その素質は魔術師の足元にも及ばないんじゃなかったっけ?


 「依頼によって、トオーラ退治とかに魔法を使うからですか?」

 「いえ、一番の問題は、治癒なんですよ」

 「治癒って……。

 正規の魔術師さんが無償で病人の治癒を行っている中で、闇で治癒の依頼がギルドに出ることなんてありえないのでは?」

 「この場では、ちょっとルイーザ殿には申し訳ない話ではありますが……。

 我々は、病人に対しては無償で治療をしています。しかし、精力回復だの、遺産相続のごたごたのために1日延命して欲しいとかの治癒魔法は面倒見きれないというのが実際のところです」

 治癒魔法をバイ○グラに使うのかよ……。


 人のごうってのは、つくづくと深いなぁ。他人の寿命を縮めてまで、やることなんかなぁ。それとも、そうまでして跡継ぎを作らないといけないパターンの方かなぁ。


 なんか、さ。

 一気にこの世界が、俺の元いた世界に近づいた気がするよ。

 まぁねぇ……、この世界が理想郷じゃないのは知っていたけどさ。ダーカスにいたときは、こんなこと、考えもしなかったよ。

 そもそもギルドのハヤットさん、いや、それ以前にラーレさんやヴューユさんのところのメイドさんに、その依頼は提出しにくいだろうしなぁ。


 「で、そのような依頼を受けて、寿命を縮める冒険者もいるということですか……」

 「そうなんですよ。

 今の状態のまま、魔法の半分とは言いませんが、3分の1が闇で使われていると、円形施設キクラの整備は思いも寄らない副作用を生むでしょう。単発の魔素の盗難くらいならば良いですが、最悪、円形施設キクラ自体の密かな乗っ取りも考慮せねばなりません。

 その対応策はあらかじめ考えておく必要がありますし、そこにはギルドに噛んで貰う必要があるでしょう」

 あーあ、問題ってのはいつもこうやって複雑になるんだよね。

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