第16話 話し合い 1


 いよいよ本題の話し合いだ。

 その前にそれぞれの出席者で紹介しあった。俺達一行は、ヴューユさんが紹介してくれた。

 さっきあいさつした人、この世界の魔術師の中で、一番偉い人なんだそうな。


 ただ、見ていて辛い。

 若いんだよ。

 魔術師は歳を取れないって本当なんだねぇ。一番偉い魔術師なんて言えば、長ーく白いあごひげなんて連想するけど、そんな歳にはなりようがないみたいだ。

 それから、ルーが「ダーカスの前の筆頭魔術師の娘」という紹介で、ちょっと場がどよめいた。ルーの親父さん、ひょっとして、有名人かも?

 あの歳まで生き延びた規格外の人だからね。ここで留学していたときに、伝説の1つぐらいは残していたかもしれないね。

 それとも、割りと最近までこの街にいた、ルーのお母さんの方かな?



 で、話し合いの前に、ご機嫌取りってわけじゃないけど贈り物をした。コンデンサ、本郷の治療で予想外に魔素を使ってしまったけど、まだ満タンなのが3つあったので、1つを残して、2つをリゴスの魔法学院に寄付することにした。

 最年少の魔術師さんとデリンさんの待遇も、より良くなって欲しいしね。

 ま、誠意ってヤツだ。


 ここにコンデンサを渡すのは、これを分解して再構成する自由を与えたことになる。これからどんどん作られるだろう円形施設キクラに設置されるコンデンサ、俺の工房だけで賄えるはずもないからね。独占しようとは思わないよ。



 一番偉い魔術師さんの、隣の席の人が口を開いた。

 「『始元の大魔導師』殿に感謝申し上げるとともに、それでは話を始めたい。

 まず、魔素というものを我々と異なる方法論で捉え、我々の律に反しないままに状況を変えたことについて、我々は歓迎する。

 さらに、『始元の大魔導師』殿自らが、我々と異なる方法論、つまり科学技術と申されたか、その力の制限を申出されたことについても驚きを持っている。

 一番最初にお聞きしたい。

 『始元の大魔導師』殿の本質とはなにか?

 『始元の大魔導師』殿の内のなにが世界を救おうとし、その挙げ句にその権勢をまでを投げ出させるのかをお聞きしたい」

 ……なんて答えよう?

 辛いのとか、悲しいのとか見ているのが嫌だ。それだけだからね、俺の動機。

 なんか、素直に話して、納得して貰える気があまりしない。こういうときにはもっと現実的というか、欲張りな動機が必要なんだろうなぁ。


 「んーーと、なんて言いますかね……」

 「お答えが難しいと?」

 「いや、難しくはないんですけど……」

 嘘を吐くのは苦手だ。

 だいぶコミュ障は克服できたと思っていたけど、即時に嘘が思いつけるような、そんな角度はまだ全然ダメだな。


 「それをお尋ねになって、どうなされるおつもりでしょうか?」

 ルーが助け舟を出してくれた。

 ありがたい。考える時間が稼げるよ。


 「我々も、『始元の大魔導師』殿の善意を信じたいが、動機が判らないでは信じるに信じられぬのだ。

 『始元の大魔導師』殿の本意を知ることで……」

 そこまで聞いたところで、ルーがぴしゃりと遮った。

 「お話になりませんね。

 『始元の大魔導師』様の行動は、善意によるもの。

 その善意を信じるために善意の理由を聞く。

 しかし、善意に理由などありましょうか?

 純粋な善意だからこそ、理由などない。

 お聞きしましょう。

 あなた達も、溺れている人を見たら助けると思います。

 では、その理由をお話しいただけませんか?」

 

 一番偉い魔術師さんが口を開いた。

 「ルイーザ殿。

 言いたいことは解る。

 だが、ことはこの世界全体の未来に関わること。

 あやふやなままではよくない。

 『始元の大魔導師』殿の行動が善意であるならば、その善意の理由はともかくとしても、根源を知りたい。

 なぜ、そのような思いを抱かれておるのかと」


 うん、それなら答えられる。

 「私の元いた世界、元いた国では、いろいろな矛盾もありましたし、不幸な人もたくさんいました。

 でも、それでも、魔素流が地を焼くようなことはなかった。

 10歳に満たない子供が、夜まで働くなんてこともなかった。

 冬や初春に、食に窮することなど、まったくなかった。

 誰もが質はともかく毎日食事をし、入浴し、子供の頃には教育を受けています。

 この世界だって、かつてはそうだった。

 これからだって、そうできる。

 そう思っているだけです」


 「元いた世界がそうだったから、この世界もそうしたいと?」

 「それは違いますね。

 この世界はこの世界で、良いところがたくさんある。

 それをなくしたくはない。

 それに、元いた私の世界では、魔法はなかったんですよ。

 単純に、『良いから導入しよう』で話が上手くいくはずがない。

 ただ、それでも、流れる涙の総量は少なくできるはずなんです。

 私は、それでいいんですよ」

 と、そこまで話して、もう1つ、言い訳を思いついた。


 「あ、あともう1つあります。

 私の世界では、金が価値があるんです。誰もが金を欲しがる。

 で、この世界では、一番価値がないものが金ですからね。

 もう私の価値観、ぐずぐずですよ。

 この世界で、価値があるものは私にはそう見えない。

 この世界で価値がないものは、私には宝物に見える。

 そうなると、なにを欲しがって良いのやらすら判らない。

 さっきの涙の総量とか、美味しい農産物とか、そんなので判断するしかないのです」

 どよめきと、そこから漏れる笑い。

 そんなもんだと感じて貰えれば、それはそれで成功。

 まぁ、裏がないことでも、あるように見せなきゃいけない場面だってのは理解したからね。



 「なるほど。

 『始元の大魔導師』殿の真意、解りました。

 我々が一番恐れているのは、『始元の大魔導師』殿がこの世界の王の中の王となる野望を抱き、そのために無辜の民が泣くことなのです。

 そのおそれはどれほど低くても、無視はできない。

 その点において、我々は『始元の大魔導師』殿に敵対する可能性があるのです」

 「そうですか。

 じゃあ、なんなら呪いでも掛けときます?

 私が、皇帝とかになろうとしたら発動するヤツを。

 名前、知ってるでしょう?

 一応名乗りますけど、鳴滝っていいます」

 この世界の王の中の王になんか、俺、なりたくないもんね。

 呪いでも掛けてもらっとけば、なれない理由ができていいとすら思ったよ。


 したら、魔術師さんたち、深刻な顔になった。

 「あのですな、『始元の大魔導師』殿。

 我々も絶対的な神ではないのですよ。

 危ないから、あらかじめ呪っておくなんて、そんな非道なこと、できるはずがありません。

 だから、苦労しているのです」


 そか。

 ま、未来が判ったらそれは神様の力だ。

 そこまでは魔術師さんたちでも判らないと。

 持っている能力は俺からしたらとんでもない質のものだけど、同じ人間に過ぎないってことかぁ。

 しかも、あらかじめ呪いを掛けておくようなこともできないというのは、人権意識もあるってことなんだろうな。



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半球の屋根を組み合わせた建物、こんな形を考えています。

https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1324478497943769088

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