第15話 魔法学院
おおよそ
さらに、蓄波動機を応用すれば、ヒューズよりも安全なブレーカーだって作れるって。
俺も考えているけど、本来はこの世界全体で考えるべきことだし、その方が課題解決のスピードアップもできるって話した。だから、リゴスの魔法学院で、その辺りも研究してくれって。
もっとも、魔術師の律というか、タブーに触れない範囲で、だけど。
ここにはまだかなりの数の魔術師がいるし、その中には蒸留とか、魔術から科学に片足を踏み出しつつあるオリジナルの技術もあるらしいからね。
それに、俺はまだ、電気と魔素の厳密な違いを理解できていない。
魔素に伴う電気のふるまいを、間接的に観察しているだけだ。
魔素を直接測る方法もないし、俺は魔術師ではないから魔素を感じることもできない。つまり、その本質をまったく理解できていないんだ。
だから、この先、ダーカスに戻って、余裕ができたらモーターなんか作ってみようと思っている。で、その電気をヴューユさんにどう感じるか、観て貰いたいよ。
それが上手く行けば、この世界は魔素に加えて電気を応用して得られる恵みも実現できるだろうさ。
俺達が
ま、政軍魔学間のルールなんて、1日や2日で決められるもんじゃない。
おまけに聞こえてきたのは、政も三権に分ける議題があるみたいだから、そりゃあ時間が掛かるでしょーよ。それぞれのお国の事情ってのもあるだろーし。でもってそれが、お互いのケーススタディになるだろうし。
まぁ、ここで作られた原案や検討過程が、エディやブルスでも利用されるだろうから、しっかりと作ってくださいな。
ティカレットさんも、切りなく忙しいようだ。
リゴスの職人さん達、腕がすごく良いみたいだ。
売るだけでなく、買う方向でも商談が山積み。
売るもんなんかないんじゃと思っていたサフラですら、短期間で商品になりうる物の発見があった。だから、これから行くエディやブルスの商館とも話が尽きないみたいだ。
で、この辺りの話のなにが難しいって、本人たちが売れるものだとはまったく思っていないこと。思っていないから、「なにか輸出できるものはあるか?」って聞いても、「ない」って返事になってしまう。
ニシンや鮭ですら、あんな扱いだったからね。
細かく聞き取りをしないと、すべてがゼロ回答になってしまう。つまり、交渉には、お互いに悪気なく時間がかかっている。
ただ、まぁ、こうなる予想はついていた。
リゴスでこういう話の積み上げができれば、エディやブルスでの打ち合わせはもっと楽になる。
その利点もあることから、リゴスで時間が掛かることは最初から容認されている。ダーカス一行の旅程の予備日は、全部リゴスに当てられていたし。
で、これによる利害はリゴス側も一致している。リゴスと、他の国との交易に使えるルールでもあるからね。「ダーカスは信用できる相手」と、見られているのは大きいよ。
そんな、誰もが忙しい中で、ヴューユさんも当然のように忙しい。
「1日、付き合って欲しい」って言われて、俺、魔法の最高峰の世界に行くことになった。
石造りのひときわ大きなドーム屋根の建物が、魔法学院だった。
とはいえ、この魔法学院という言い方も、どうやら正しくはないらしい。魔素石翻訳でそのように訳されてはいるけど、学校のように教える機能、大学のように研究する機能にとどまらない役目を負っているからだ。こういうとき、魔素石翻訳は、結構、表現にゆらぎが生まれるんだよね。まぁ、話を聞けば聞くほど俺の世界にはないものだから、翻訳自体が無理だし、造語の能力までは魔素石翻訳にはないんだろう。
本来、ここの一番大切な役割は、魔素流来襲の予測。
そして、それを各国の魔術師に通知すること。
その絶対的な関係のもと、すべての魔術師の統制をも行っている。
ダーカス・サフラ戦争において、ヴューユさんの魔法が切り札になった。
魔法は、魔術師という個人に世界を滅ぼすほどの力を持たせることになる。だから、魔術師にはノブレス・オブリージュが課せられ、人々のために働いている。
そして普段は、その国の秩序を守ることを行動の根本としている。その国の王様の命令にも従う。
でも、世界征服したいから他国を滅ぼせとか、大量虐殺をしろなんて命令には従わない。
ここは、そのような魔術を使う者の、自制と相互監視の総本山でもあるんだ。学校という単純な場所じゃない。
ヴューユさんとルーと3人で建物に入ったら、いきなり拍手で迎えられた。
あまりのドーム天井の高さに、拍手の音が反射して、天から降ってくるみたいに聞こえるよ。
魔術師さん達が整列している。
てか、俺には外見で魔術師さんかどうかの区別はつかないからさ、そうだとは思うんだけどね。
「『始元の大魔導師』殿に、リゴスの魔術師からごあいさつ申し上げる。
この500年で最大の、魔術師と魔素に関わるパラダイムシフトを成し遂げた御仁に!」
「えっ、あ、あー。
こちらからも、ごあいさつさせていただきます。
この世界を、身を挺し、守り続けたすべての魔術師さん達に、心の底から敬意を表します。
ただ、私個人としては、魔術師さんだから、無条件に命を差し出すべきという状況に賛同はできません。
なので、良かれと思ってしたことが、かえって魔術師さん達のご迷惑になっていることもあるかと思います。
ですが、ここでお会いすることができました。
忌憚のないお言葉をいただけると幸いです」
なんとか、そう返した。
近頃、あいさつが多いような気がするよ。どきどきするわぁ。
「ダーカスの前の筆頭魔術師殿と、現の筆頭魔術師殿から詳細は聞いております。敢えて誤解を生じるかもしれない言い方をさせていただきますが、愚直なまでに我々を含む世界を救おうとするお姿に、感動を禁じえません。
『始元の大魔導師』殿のお言葉を賜り、魔法と、『始元の大魔導師』殿の持ち込まれし科学技術が、この先も蜜月の関係であり続けるよう祈っております。
それでは、こちらへ」
そう促されて、大広間から、そこに接続されている小部屋に誘導された、とはいえ、小部屋と行っても20畳くらいの広さはある。
古い木造りのテーブルと椅子。
どちらも、100年くらいは使っていそうで、角が丸くなっている。
そこに全員で腰掛けた。
これだけで、なんか話しやすくなるよね。
さて、話し合いだ。
俺が、『始元の大魔導師』である以上、この場は避けられない。
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