第14話 補修工事


 リゴスの街中に、仕入れとか遊びのために散らばっていた、俺の配下の航海担当も王宮に帰ってきた。

 「なんでお前ら、鉄砲玉みたいに、出たら戻ってこないんだ?

 子供じゃないんだから、きちんと連絡取れるようにしておけよな」

 そうお小言を言って……。

 言ってから、鉄砲玉の追加説明をした。ここには鉄砲なんてないからね。なんか締まらね話だなー。

 

 で、俺も歩いてみて解ったよ。

 ちょっと目を離すと、すぐにはぐれるルーを掴まえておくのに疲れた。

 この街は、中毒性がある。

 ここで暮らしたい。

 そう強く思ってしまう、なにかがあるんだよ。

 活気があって、100年後も人々が元気で生活しているって気がする。

 ダーカスがいくら頑張っても、まだそこまでの域には達していない。

 ルーのお母さんが、ダーカスで耐えられなくなったときに、ここに逃げたという理由がよく解る。ここならまだ、人間の世界に夢を持てるんだ。


 元の世界の東京とかを知っている、俺ですらそう思う。

 この世界の人にとっては、どれほど眩い街であることか。


 って、まぁ、配下の航海担当も、前にリゴスの王様を迎えに来たときは、イズーミで引き返していたからね。初リゴスだから、帰れなくなるのもよく解ったよ。

 解っても、お小言を撤回できないのは立場上辛いけどね。


 連中には急いでの仕事がある。

 魔素が充填されたコンデンサが、1つでも多く欲しい。まさか本郷の治療で、20個もコンデンサが空になるとは思わなかったからね。

 リゴスを下った河口の街、イズーミに急行して貰って、そこに停泊している船で、風を強めに起こして突っ走って貰って、コンデンサをダーカスから届けて貰わないと。ダーカスの魔術師さんが、1人船に残っているはずだから、不可能ではないと思う。とはいえ、最速で5日くらいは掛かるのかなぁ。

 エキンくんも、同行して貰った。コンデンサの扱いに信用できる人に行って欲しかったからね。




 で、とりあえず俺は、リゴスだけでなく、円形施設キクラ補修の担当になる各国の連中全員を引き連れて、リゴスの円形施設キクラに向かう。

 補修を実地で行いながら、同時にいろいろなテクニックを覚えて欲しいからだ。メモが取れるよう、羊皮紙や藁半紙も用意できるだけ持った。

 リゴスの王宮の書記官さんと、魔術師さんも一緒だ。


 ダーカス以外の円形施設キクラは、初めて見たよ。

 見事に規格化されていたんだなぁ。

 施設としては、ダーカスのものと寸分違わない。ただ、いくつか、ジャンパー線が渡っているところに違いはあった。立地条件への最適化をするために、ちょこちょこ調整する機能だ。


 まずは、文様に塗ってある絶縁体をこそぎ落として貰う。

 人数の威力だね。ぐいぐいと仕事が進む。

 その間に、俺、床下に潜って、状況を確認する。

 うーん、ここもダーカスと違わない。デジャ・ヴュ感があるほどだ。

 1つぐらい、いにしえのコンデンサが残っていてもいいんだけどなぁ。見てみたいもんだ。

 とりあえず、昨日使った空のコンデンサ20個、すべてを繋いでおこうか。手本を作っておかないとだからね。

 たとえ今は20個しかないコンデンサでも、魔素の充填さえできれば、あとはここの魔術師さん達がよろしくやるだろうさ。


 文様の絶縁体が剥がれたところで、文様の本体である導体のチェック。

 熱でひび割れていたり、欠落した部分があれば、金を埋めて補修する。

 あんまり勢いよく叩き込むと、導体の素材がばらばらと落ちてきてしまうので、手加減しながら埋め金をして貰う。

 このあたりはもう、ルーに任せておけば、きちんと現場監督をしてくれる。


 それから、はしごを用意してもらって、屋根に上った。

 ちょっとため息が出たよ。

 危ないところだった。

 風化が進んでいて、室内から出てきた導体が、ところどころ切れている。ダーカスでもそうだったから驚きはしないけど、リゴスの街の繁栄が、こんなあやふやなものの上に成り立っているんだからなぁ。

 もう数本か減ってしまったところに魔素流が来たら、残りの導体では魔素を流しきれずに炎上していたかもしれない。

 そうなっていたら、このリゴスの街も炎上して終わりだった。


 こういうのは、きちんとしておかないとだからね。

 リゴスの王宮の書記官さんと魔術師さんにも屋根に上って貰って、現状を共に確認した。

 で、リゴスの金細工の職人さんと、鉄の加工ができる人にも状況を視認して貰った。で、屋外配線を補修するのには、太さが大切って、全員のいる前で何回も念を押した。

 ゴーチの木のゴムを、その太い純金の線に被せることも念を押した。硫黄を混ぜるレシピも、きちんと伝えたよ。

 急いで製作してくれれば、俺がリゴスにいる間に、工事できるってのも伝えた。


 ダーカスで、円形施設キクラから配線を作る工房まですべてを見た、リゴスの技術者もここで働くから、この屋上に避雷針アンテナを建てられる日も遠くないだろう。そして、その恩恵はリゴスの他の街、イズーミとパムカにも及ぶ。

 おそらくは、パムカあたりが農業の街なんだと思う。そこで安全な土地が増えて、農業生産が4倍になったら、さらに発展にブーストが掛かるだろう。


 もっとも、アンテナを立てるとしたら、まずは鉄鋼生産のための太陽炉からだから道程は遠い。だけど、それでも屋外の配線の補修まで済めば、この街の安全は確保される。そしたら、数ヶ月から半年を目処に工事をすればいい。

 ま、数ヶ月に収められると、春の種まきの時期に間に合うだろうけど、その辺りはもうリゴスの王宮の判断だ。



 リゴスの王宮の書記官さんが立ち会っていたけど、最後は打ちのめされたような顔になっていた。

 「これだけの技と試行錯誤を、ダーカスは無償でリゴスに渡すというのか?」

 そう聞かれたら、「そうだ」って答えるしかないじゃん。

 「王と相談し、この対価は必ず形としてお返しする」

 「ダーカスは、民の心の王道楽土を目指します。

 リゴスは、現実での民の王道楽土を目指して欲しい。

 その2つが救われれば、民は自らの考えに従って、そのどちらかで永劫に安心して暮らすことができます」

 そう答えておいたよ、俺。


 だって、最初から技術供与は無償って決めていたからね。ここで、リゴスが対価を払ったとなると、エディとブルスの両国が大変になってしまう。

 ま、それでもくれるものは拒まないけど。

 ダーカスの王様も、その辺のスタンスは一緒だ。でなきゃ、ウハウハなんて喜ぶもんか、だ。


 で、埋め金が終わったところで、全員で再チェック。

 1つでも間違いがあったら、街がなくなるぞって脅して、だ。

 あとで、リゴス産のゴーチの木の樹液でゴムを作って、この文様の上に塗って貰う。


 それから、次は床下。

 将来的にはコンデンサもリゴスで自国生産するだろうけど、最初の数千個はダーカスから輸入することになるだろう。

 それをどう繋ぎ、どう安全を確保するか、それを説明する。ヒューズの概念なんかは単純だからね、簡単に理解してもらえたよ。

 今繋いだ、20個を最初のクラスターにして、あとは真似て欲しいって。

 で、それらのすべてを図に描いて、写して貰ったよ。

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