第9話 リゴスへの道 3


 そうこうしているうちに、村の衆がそれぞれ刃物を持ち出してきたので、「どうするのか」って聞いたら、復讐のためにトオーラをばらばらにするんだって。今までに、村人が何人も喰われているからと。

 で、村の外のあちこちに撒いて、他のトオーラへの教訓にするんだ、と。

 うーむ、果樹園でカラスがぶら下がっているようなもんかな?

 近頃、とんと見ないけど。

 

 でも、この巨体、さすがにちょっともったいなかったので、毛皮を持って帰れないかって聞いたら、許してもらえた。

 狩った4人で1人1つずつ、いいって。

 仕留めた者の権利として、認めてくれるそうだ。

 なので、気絶中のルーが皮ということにして、俺が大腿骨(蓄波動機の記録筒だ)、トプさんが鋭い爪を、ヴューユさんが長く鋭い牙を手に入れた。

 トプさんは、ダーカスの強い人10人に爪を分け与えて、強さの象徴にするって。レンジャー部隊の徽章みたいなもんかねぇ。

 ヴューユさんは、牙をそのまま短剣にするって。ダーカスの、筆頭魔術師の象徴になるって。

 

 そんな話をしてたら、ようやく、トオーラを倒せたんだって実感が湧いてきたよ。



 「あれっ、今日はお祭りですか?

 随分とにぎやかですねぇ。

 もしかして。なんか美味しいものとかあります?」

 場違いに、のほほんとした声。

 王宮書記官さん、あんた、只今到着、ですか。

 随分と、遅いお着きで。

 「えっ、なに?

 なんかありました?」

 みんなの視線を浴びて、狼狽してる。

 

 アンタを助けるために、俺たちは命を賭けたところなんだよっ!

 今っ!!



 − − − − − − − −


 食事の用意されている建物に戻って。

 崩れ落ちそうなほど、王様がほっとしているのが解る。

 「無事で戻るとは信じていたが、これでは寿命がいくらあっても足らぬ。

 この1年で、10年分も働いたが、さらに今晩だけでもう1年老いた気がするわ。

 『始元の大魔導師』殿、少しは自重していただきたい」

 「申し訳ありません」

 「なれど、書記官を救ってくれたこと、感謝の極み。頭が上がらぬわ」

 「いや、4人いたからできたことです。誰が欠けても、生きて帰れませんでした」

 「『義によりてトオーラを倒し者』の称号を4人に許そう。

 そして、困ったことに4人とも、もはや銀貨などでは報いたことになるまい。

 必ずなにかの形で報いるゆえ、今は一時保留としてくれぬか」

 「もったいないお言葉でございます」

 と、これはトプさん。


 王様、続ける。

 「先ほど、話は聞いた。

 トプ、徽章は王室が責任を持って、トオーラの前爪の数10個を作ろう。

 そして、最初の1つは、余自ら、永世のものとしてトプに渡す。

 残りの9つは、トプの判断で任命せよ」

 「御意」


 「筆頭魔術師殿。

 牙は2本ある。

 それを短剣とすることについては、やはり王室が責任を持とう。

 1本は、ダーカスの筆頭魔術師が持つものとしてふさわしかろう。

 もう1本は、筆頭魔術師殿、そなた個人が持つのが良かろう。

 そのようにしてくれるな?」

 「御意」


 「ルイーザ。

 そのトオーラの毛皮、余にくれぬか?」

 「御意。ご自由に」

 「毛皮の手足の部分、これから末永く、玉座を飾ることになろう。

 王宮の者を襲おうとした魔獣が、どのような末路を辿るかを示すためにな。

 そして、胴の広い部分だが、これは寝台に仕立てようぞ。

 その寝台をそちにつかわすゆえ、婚姻の儀ののちの初夜の床とするが良い」

 「御意」

 おうおう、ルー、耳どころか、首筋まで真っ赤じゃねーか。

 って、俺もか。

 こっちの世界は、赤ちゃん生まれるのは、純粋にめでたいことだからね。だから婚姻もめでたいし、初夜もめでたい。だから、それを寿ぐために、このくらいはみんな平気で言う。

 価値観が中世的で無神経かもしれないけど、俺としては取り繕う項目が少なくて済んで、いっそ気が楽。



 「『始元の大魔導師』殿。

 トオーラの骨は、蓄波動機のためのものであろう。

 それでは、何一つ報いたことにならぬな」

 「寝台のみで十分に報われております」

 「それでは足らぬと申しておるのだ。

 では、そうだな、まだ間に合うであろう。

 トオーラの耳を切り取り、ルイーザにつかわそうではないか」

 「耳……、で、ございますか?」

 「『始元の大魔導師』殿の世界では、女性は耳を付けるのであろう。

 余は知っておるのだぞ」

 はっ!?

 何の話!?


 ぎぎぎぎって感じで首を回してルーを見ると、ルー、同じ速度で反対側を向きやがった。

 「ルー、どういうことだぁ?」

 声を低くして聞く。

 「『始元の大魔導師』様の世界には、『始元の大魔導師』様のように異なる世界に召喚されるというような話が多数ございました。

 なにか解るかと思い、持ち帰る書籍の中に加えさせていただいたのでございます」

 ルー、そっぽを向いたまま答える。

 こいつ、どれだけ目的外のものを荷物の中に仕込んだんだ?

 そっちは創作、こっちは現実だぞっ!


 王様、俺の反応を無視して続ける。

 「いずれも読んで見れば、興味深いものではあった。

 あまり統治の役には立たなかったがな。

 で、どうだ、『始元の大魔導師』殿。

 世界を渡る者は、そのような獣の耳を付けた女性と結ばれることが多いようだな。また、どうやら行商を行う者も、獣の耳を付けた女性と結ばれるらしいな。

 まぁ、ヤヒウの耳ではあんまりかと思っておったが、トオーラの耳であればよかろう?」

 「……もーいいです。なんでもいただきます。

 ルー、せっかくいただくのだから、これからの道行きで加工し、リゴスで付けて歩くがいい」

 丸投げ。

 もう、どうにでもなぁーれ!

 だ。

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