第6話 サフラからの出発
翌朝。
ゴーチの木の群生地に、ミライさんとルーと記録係の王宮書記官さんとで向かう。
ちょちょいのぱっぱで、ほら元気、にするのだ。
結果はもう、言うまでもないけどね。
サフラの人達も、たくさん来てくれた。
明るい朝日を浴びたサフラの光景は、ダーカスのそれとはぜんぜん違うものだったよ。
木造が多くて、二階家が多い。たまに三階家もある。
しかも、1階よりも2階の方が大きい。
道路から見上げると、2階の床が庇のように張り出ている。
白い塗り壁に赤い屋根、石畳の通路に多めの庭木。
ここも古都だってのがよく解る。そんなちょっと古びた雰囲気。
ただ、一年前のダーカスと同じで、疲弊感がとてつもなく重い。
すり減った石畳が、伝統と歴史の輝きを表すか、とてつもない疲弊を表すかは、住んでいる人たちの表情に拠ると思うんだ。
来年の今頃には、「山のような食料を冬越しの間にどう食べるか悩む」くらいには、持っていきたいよね。
森のゴーチの木の群生地に着いた。
今はここを回復させて、サフラの人達に効果を見せる。
そのあとは、俺たち、大陸幹線道路を通ってリゴスに向かうから、その道すがらにあるゴーチの木の群生地のそれぞれに、すべて治癒魔法を掛けていく予定。
ゴーチの木って、もうほとんど葉っぱが落ちちゃってるけど、見た目イチジクみたいだな。
ああ、あれって、傷をつけると白い樹液が出てきたよな。確か、子供の頃、「毒薬の出る木だぁ」って、隣んちのイチジクの木を傷をつけて遊んで怒られた記憶があるぞ。
アレかあ。アレだったのかぁ。
ルーのサポートでミライさんが植物の治癒魔法を使う度に、樹液を絞られて疲れていた木々の幹の傷が癒えて、ちょっとだけだけブーストが掛かった。今の時期でも残された、数少ない葉っぱの緑色が鮮やかになるんだ。
もっとも、数日でまた元の色になって、落葉しちゃうだろうけど。まぁ、しょうがない。冬だから。
ここに肥料が入れば、一気に持ち直すだろう。
頑張って冬越しして、春には元気になっていて欲しいよ。
俺の世界では、ゴムの木って、暖かい国のものだった。
イチジクは元いた俺の生活圏でもあったけど、この世界では、より寒い国でも生えることができるんだ。でも、それだけ回復も遅いはずだ。
ゴムは必需品だから、しっかりと元気を取り戻して欲しいよ。
− − − − − − − −
お昼を食べたら、サフラの都を出発する。
ゼニスの山を北から巻き込むように歩いて、リゴスに向かう。
少なくとも、ダーカス・サフラ間の3倍は歩くことになるらしい。とはいえ、森と砂漠の道なので、歩いていて単調にはならないし、途中に宿泊できる村なんかもあるんだそうだ。
ダーカスの王様も、サフラで休憩ができたので、足の疲れが抜けたんだと思う。
とりあえず、みんな元気。
各国の
どこかの厳しい軍曹じゃないけど、歩きながらも九九やオームの法則や、円の面積の公式を唱えるなりして、知識を完全なものにして貰おう。
で、お見送り会の食事は、なんと塩鮭の焼いたの。
あのあと、サフラの王宮料理人さんにいろいろと聞かれたけど、早速出してくれるとはね。
これがまた美味い。
皮がきつね色のかりかりに焦げていて、腹身から脂が滲んでいる。
ただ、ご飯がないのが辛くて悲しくて、と思ったら出てきたよ。
もちろん、コシヒカリじゃなくてイコモだけど。
マジかよってくらいに旨いなぁ。
俺だけじゃない。サフラの王様とかまで、衝撃を受けたって顔になってる。
「この世にこんなに美味いものがあるとはなぁ」って感じ。
「世が豊かになれば、イコモと鮭を毎日食したいものだ」
ええ、できますとも、サフラの王様。
それも、コシヒカリでいけますから。
これからはしばらく、ダーカスとサフラの間で使者が密に行ったり来たりするだろう。いろいろな計画が実現されて、いい感じになって欲しいよね。
さて、出発。
最後にダーカス側からは、公衆浴場のノウハウと最初の施設をプレゼントする計画を発表する。サウナを持っているサフラでは、楽に実現できるだろう。
サフラ側からは、歓声がわいたよ。
若い王様も、さらに立場が補強されるから、喜んでくれるよね。
サフラの王様が、途中で宿泊できる村に先触れを出してくれている。サフラ国内の案内人も付けてくれた。だから、安心して歩いていけばいい。もっとも、トオーラだけは警戒しないとだけど。
で、都を出て、まずは渡河。
南から北に向かって、ゼニスの山から流れ出た流れがサフラの王都の脇を流れている。ネヒール川よりも急流で、川幅も広く、水も冷たそうだ。
でも、見るからに古く、風化が進んでいる石のアーチ橋が掛かっている。
これを見ると、ダーカスのネヒールの大岩に掛けられたアーチ橋が新品だってのが、本当によく分かるよ。
たぶん、この橋、この世界が栄えていた時の産物なんだろうな。
風化が進んでいても、細かな意匠が施されていたのが分かる。この辺りも、今の淋しい姿からは想像できないけど、きっと栄えに栄えていたんだろうね。
で、この橋、火山灰コンクリートを流し込んだら、寿命がまた伸びると思うんだけどなぁ。
ルーにそう話したら、王宮書記官さんに話してくれた。で、その書記官さんがダーカスの王様の了承を得て、もうちょっとだけサフラにとどまって、あとから俺たちを追うことになった。
もうちょっとだけサフラに残る間に、その書記官さんがダーカスの石工さんたちへの手紙を書くのと、サフラの王様に工事の了承を得てくれるそうだ。
この橋は、ダーカスのアーチ橋と並んで、大陸幹線道路として重要な意味がある。渡河は重要だ。
壊れる前に補強しとくべきだよね。
砂漠と森林の際を、道はどこまでも伸びている。歩きだして、魔素流の与えるダメージの大きさがよく解る気がするよ。
右を見れば、森にはそこそこの植生があって、下草もそれなりに生えている。でも、左を見れば一面の砂漠だからね。
ただ、森でいろいろな植物があるにせよ、まともな樹木は少ない気がする。なんか、杉、檜みたいな針葉樹も欅とかの広葉樹もない。みんなどこか弱々しくて、押せば曲がってしまう感じなんだよ。
「木材を取る木は、ここには生えていないのですか?」
そう、案内人のおじさんに聞いてみた。
したら、悲しい答えが帰ってきた。
「今はほとんどありません。
サフラの環境は過酷です。
冬が来れば、相当の樹木でも耐えられないほど雪が積もります。
それに耐えて大きくなると、人間が利用するために切り倒してしまいます。
それが1000年続くと、こういう森になるのです」
うう、それはひどい。
「人が、木を切るのを少し抑えられたら、もっと立派な森になりますかねぇ?」
「おそらくは。
だけど、そのような樹木の種子か苗が確保されていないとでしょうね。
なによりも、魔素流が来ない領域を広げて、森を広げるのが一番最初に必要なことでしょう。魔素流が来なくなって、森を南に伸ばせれば、木々も雪に押しつぶされなくて済みますから。
そもそも、木々の北限の地なんですよ、この辺りは。
魔素流に焼かれないよう、北へ北へと進んで適応しても、やはり限界があるようです」
辛いところだねぇ。
つまり、北に動けば雪が降る。南に動けば魔素流に焼かれる。それでも頑張れば人が切りに来る。とかくに樹木は生きにくい世の中だ。
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