第5話 サフラの立て直し


 そういえば、鮭からの連想だけど……。

 北海道で金を探す、多彩な変態が出てくる漫画があったよね。

 そこで、ニシン御殿とかも出ていたなぁ。

 ひょっとして、これも行けるかも。


 「あと、手のひら2つ分くらいまで大きくなる、銀色の魚が大量に海にいませんか?」

 「ええ、岸に盛り上がるほど寄ってきますが、大して掴まえられませんし、鮮度も落ちやすい魚なので地元の人が食べるくらいですね」

 「ダーカスで作った船というものを、サフラにお売りする話になっていました。漁具も、開発中です。

 その船で、銀色の魚を獲ってください。

 食用になるのであれば、干すとか、燻すとか工夫をしてください。で、加工して輸出をお願いします。

 また、それとは別に、ダーカスとかブルスとかに船で水揚げをそのまま輸出してください。鮮度は落ちても構いません。

 なぜなら、食用ではなくて、肥料にするためだからです。

 ただ、獲り尽くさないでくださいね。毎年決めた量以上は獲らないようにして、毎年売れるようにしてください」

 ニシンは肥料にするために獲るんだったよね。たしか。

 今やっている、ダーカスの海の有機物を根こそぎ採る方法よりは良いはずだ。

 これは、やればやるほど海にダメージが蓄積しそうだからね。家畜の餌場に置くぐらいの量にとどめておいた方が、絶対いいと思うんだ。


 「そんなものも売れるのか……」

 そんな声が聞こえる。

 「明日、ダーカスのミライさんと、ゴーチの木の治癒を行いに行きます。

 明日は間に合わないでしょうから、そのあとで構いません。1本のゴーチの木に1匹、その銀色の魚を根元に埋めてください。

 これで、ゴーチの木がより元気になったら、売れるものだって実感が湧きますよ」

 どよどよ。会場がざわめく。

 

 俺、続ける。

 畳み掛けて、良い未来が来るって実感してもらいたいからね。

 「さらにですが、魔素がふんだんにあれば、こんなこともできます。

 サフラは雪が降りますよね。

 そして、冬の間、すべてが閉じ込められてしまう、と。

 幹線道路はみなさんが雪かきをして守っているでしょうが、それってとても大変ですよね。

 で、魔法は雨の総量は増減できないけど、ある程度時期はずらせます。

 ということは、農業に必要な春に雨を増やし、冬の雪は減らせるってことです。

 今までも、いくらかはできていたでしょうけど、今年からは魔術師の犠牲なく、精密で大胆な制御ができるようになります。

 これができる意味はお解りでしょう?

 道路が自由に通れるということは、冬の間の産業育成だって可能です。

 冬期の森林資源の利用だって、できるのではないでしょうか」

 うんうんと頷かれている。

 まぁ、ここまではいいみたいだ。


 「『始元の大魔導師』様、特に冬場の森林資源の利用は、トオーラの脅威があって……。

 あっ、そうか、魔法がいくらでも使えるんだった」

 そんな自問自答に、会場で笑いが起きる。


 「そうですね。

 トオーラは、魔法が使えれば恐るるに足りませんよね。

 ゴーチの木の樹液を採る作業も、安全になるでしょう。

 また、先日の王様会議サミットで決まったとおり、そのゴーチの木の樹液からいろいろなものを作るのは、サフラの人のオリジナル製品であれば作れますからね。そのためには硫黄というものが必要になります。

 これも、ダーカスから輸出いたします。

 タイヤや雨具、テントにボート、お好きに作られるといいでしょう」

 「しかし、それでは、ダーカスは損をすることになりませんか?」

 どことなく、心配そうな声。

 きっと、「あとから文句を言われても困る」って意味なんだろうね。


 「言っておきますが、製造技術で先行しているダーカスに、追いつくのは大変ですよ。

 サフラの人が1年工夫する間に、ダーカスでも1年工夫します。

 ダーカスに技術で追いつけなければ、その分安く売るしかない。それでも、買ってもらえるかは判らない。

 ならば、例えば、ダーカスで作っていないものを作る方が良いかもしれない。

 でも、そうやっていろいろ考えて競うことで、世の中には良いものがどんどん生まれるんです。

 ダーカスは、そのための最初の実験場になった。結果として、アドバンテージも持っている」

 「なるほど……」

 呻き声みたいな声が、あちこちから上がった。


 「ともかくです。

 ダーカスにたくさん売るものがあるように、ここサフラにも売るものはたくさんあります。私が挙げたもの以外にも、みなさんはそれをご存知のはずです。

 私以外にも、ダーカスのティカレットさんに話をしてみてください。

 先ほどのデザートのジャムだって、他国にはない。

 これから先、きっと売れるものになります。

 それらを効率よく生産し、高品質にし、通商経路を確保する。

 食料も、もっと豊かに自給自足できるようにする。余剰は輸出する。

 これで、サフラの未来は絶対に暗くはなりません」

 歓声と戸惑いが半々。

 ま、簡単にそんな美味しい話はないって思うよね。


 「私が、ダーカスの王様の御前でこれを言うのは裏切り行為ですが、戦争がありました。そのあとの和解がありました。

 もう、どちらが勝とうが負けようが、仲のいい国でいいじゃないですか。

 一つの経済圏として、共に発展しましょう。

 今までは、国内で流通と商売を考えていたと思いますが、これからはもっと広く、ダーカスだけでなくこの大陸全体を考えてください。

 そこが、今までのご苦労と変わる点です」

 俺、そう締めくくった。


 ぱらぱらと拍手が起き始め……、ダーカスの王様がうんうんって頷いているのを見て、最後は部屋中に反響するような大きな音になった。



 実務のルーが、ちょっと可哀想。

 拍手の中、人の群れの中を魚のように泳いでいる。

 水車の開発とか設置場所の選定とかは、両方の国の書記官さん同士で話を詰めて、エモーリさんに依頼という話。

 水車のお代は、ダーカスの王様の判断で。

 サフラに恩を売るなら、ダーカス持ちもありという話。

 そんなリアルな話を詰めている。


 ティカレットさんもいきなり忙しそうになったけど、こっちには仕事をしろといいたい。


 あとは、なるようになれ、だけどさ。

 でも、ここが北海道だと思えば、なんだかんだ言って最終的には良い場所になるんじゃないかな。

 ダーカスで牛が増えたら、この国で牧場経営とかも悪くないよね、きっと。

 でも、そう考えると、もう一度俺の世界に戻って、家畜をもっともっと連れてきたいよねぇ。

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