第4話 サフラの晩餐会
晩餐会の前に、「サウナに入れ」って。
ああ、寒いところだもんねぇ。
この世界に来て、初めてのサウナだ。薄ら寒い砂漠を歩いてきてだから、だらだら汗かいて、疲れも抜けるようだよ。でも、燃料がない世界では、贅沢なものだよね。
風呂もいいけど、サウナもいいなぁ。いまからでも、サフラからの移民の多いエフスのお風呂には、サウナを増設してやれないかねぇ。
俺たちの部屋付きの人達が、洗濯もしてくれると言うので、旅で汚れた服を渡す。
これは助かるなぁ。
そして、呼ばれるがままに、晩餐会会場に移動する。
移動しながら、ダーカスの王様が話しかけてくる。
「『始元の大魔導師』殿。
気が付かれているようだが、予想以上にサフラは疲弊しているようだ。
思いつく手は、なんでも提示してやって欲しい。
サフラが豊かになれば、ダーカスも安心なのだ」
「ダーカスの負担になるかもですよ?」
「常識の範囲であれば、問題ない」
「分りました。
御意のとおりに」
そんな話をして、サフラの王宮廊下を歩く。
ルーには申し訳ないけど、コンデンサを1つ、取りに行って貰った。さすがに俺、遅刻できない立場だから。
サフラの王宮の人に案内されて、会場の席に着く。
だんだん慣れてきたけど、王様達のテーブルだよ。もっと気楽に飯は食いたいんだけどね。
残念ながら、ここはまだ魔素をエネルギー源としては使えていない場所だ。
だから、なによりもまず、暗い。室内なのに天井が高いからか篝火が焚かれているけど、それでも暗い。
とはいえ、逆にそのせいで、テーブルの上のキャンドルとかの雰囲気はいい。
まずは、サフラの王様のあいさつ。
不幸な経緯を乗り越え、固い絆を作ろうって。
で、ダーカスの王様が、同じく、と。
で、次は俺にお鉢が回ってきたので、食い終わってからにして貰った。
理由はある。
それから、ダーカスでもそうだったけど、こっちの世界、アルコールの文化が浅い。薄ーい微発泡酒くらいで、いいお酒ってない。だから、こういう場でも、さっさと始まって、さっさと終わる。だから、終了後でも問題ないんだよ。
……酵母の力が弱いと、問題は酒だけでなくて、俺達の世界みたいにパンが膨らまないかもしれないね。
俺、ドライ・イーストは持ち込んでたっけ?
ルーが買っているかなぁ。
晩餐会のお料理は、とても美味しかった。
ただ、食材の種類は極めて乏しい。
でもね、その中でも、俺、むちゃくちゃ嬉しかったのは、鮭。
切り身になっていて、顔見ていないけど、こいつは絶対に鮭。
ルーも、気がついたみたい。ちらちらと俺の顔を見る。
塩鮭のお茶漬け、自分で作って食べていたからね。
やっぱり、この世界の生き物、元は俺の世界から来ているんだよな。
これ、フライパンかなんかで野菜と焼いているけど、塩焼きにしたら涙出るやつだ。
塩して新巻にしたの輸出してくれたら、絶対買う。
給仕をしてくれる人に聞いたら、ソモって魚だって。
不思議だよね。
なんで日本人以外は、みんなフライパンだの鉄板だので魚を焼くんだろう。直火でいいじゃん、直火で。それも塩するだけでさぁ。
デザートは森の果実のジャムだって。
藍色で、甘いより酸っぱさが勝ってるけど、美味しい。
ライ麦パンができたら、これ付けて食べたら、絶対さらに美味しいよね。
さて。
ごちそうさまして。
俺、ヴューユさんに、コンデンサを渡して、魔法を使って貰う。
まずは、この部屋を明るくしてもらった。
会場全体が、ざわめく。
「食事も終わりました。
大変にごちそうさまでした。
キャンドルが良い雰囲気でしたが、実務のお話をさせていただくので、明るくさせていただきました。
ダーカスの私の工房では、このような魔法に魔術師の体内の魔素を使わずにすむ、コンデンサというものを作っています。
魔素流が来れば、このコンデンサに魔素を貯め、治癒魔法ならば10回くらいは使えます。それを、ダーカス国内では、すでに1万個ほども備えています。
現在、魔素をここまで運ぶための工事が進んでいます。
魔素を充填したコンデンサがあれば、ここの生活もさらに豊かになるでしょう」
まずは、そんなふうに切り出したんだ。
「魔素は、ダーカスからいただけるのですか?」
誰からかは判らないけど、声が掛かる。
助かる。
こういうので、声を上げてもらえると、いろいろ説明もしやすい。
「いえ、ダーカスからの輸出品ということになります」
「でも、我々には、ダーカスに売るものがない。
結局、ダーカスからの借金になってしまう」
どよどよと、会場がどよめく。
これは、「借金になってしまう」という発言への同意だ。
俺、さっき思いついたことを聞いてみる。
「1つ、教えて下さい。
先ほどご馳走になったソモですが、これはたくさん獲れるのでしょうか?」
「獲れはしますが……。
美味しいものは、海で獲ります。
ですが、海のものを獲るのは難しく、川のものは少しは楽ですが海のものより味が落ちるのです。それでも、産卵直前までであれば美味しいですが、それでもたくさん獲るのは難しいです」
なるほど、秋鮭って奴だな。
「では、その産卵前のソモを、自動的に獲れる設備があったら、どうでしょう?」
「それは助かりますが……。
そんなの、可能なんでしょうか?」
水車は、もう、ダーカスの得意技だ。
昔、テレビかなにかで、鮭を水車で獲るってのをやっていた。
すでに
「可能ですよ。
それで獲れたそのソモって魚の内臓を抜いて塩をして、秋から冬にかけて各国に輸出するのはできませんか?」
「できますね、それならば……」
「なにか不安が?」
「このソモを、我々はとても美味しいと思っています。
ですが、これを売って、美味しいと思って貰えるんでしょうか。
どこの国でも、ご馳走とはヤヒウの肉です。
ここでは、冬期の草が確保できないため、ヤヒウの数も増やせません。しかたなく、冬はソモに頼らざるを得ません。
そんな物が売れるでしょうか?」
で、「そんな物」扱いを晩餐会のお皿に乗せなくてはいけないのだから、やっぱりこの国、詰んでる。
……で、鮭に関しては当たり前過ぎて、価値が解らないって奴だ。
あとは、まともに米がなかったからだろうな。これで、ご飯とセットで塩鮭が広まったら、これはエライことですよ。
「間違いなく売れます。
絶対売れます。少なくとも、次の秋には出荷できるようにしてください。
夏の間に、魚を獲る装置を設置しましょう。
あと、そうだ。
塩して、かちかちに干すってのも作ってください。これを炙って食べるととても美味しいです。これも売れます。
それから、このソモを冬に獲って雪に埋めるというのはしていますか?」
「はい、冬は食べるものがありませんから、当然、雪に埋めて保存してます」
「どうやって食べていますか?」
「えっ?
部屋で解凍して、普通に焼いて食べますけど……」
「そのままは食べませんか?」
「凍ったまま、生で、ですか?」
「ええ、美味しいんですよ」
飲み屋で食ったことあるぞ。たしか、ルイベとか言った。
「生で食べて、酷い目にあった人もいるんですけど……」
「ソモは生で食べちゃいけません。
火を通すか、凍らせないと。
凍らせたら、大丈夫です」
そか、やってみた奴はいるのか。まぁ、そうだろうなぁ。どこでも、チャレンジャーはいるもんだ。
俺、説明を続ける。
「小さな小さな生き物が鮭、もといソモにはいて、それが人間のお腹の中で悪いことをするんです。
ですが、火を通しても、凍らせても死にますから、生以外ならば大丈夫です」
「ひょっとして、白い筋みたいなヤツですか?」
「そうです」
「なるほどなぁ」
そんな声が漏れる。
「あと『始元の大魔導師』様。
魚にする塩ですが、ここでは気温が低く、塩田で乾かすのが難しいのです。
塩が足らなくなると……」
「ダーカスでは余っていますよ。
余っていますから、高くはない。
リゴス、ブルスと比較して、より良いものを安く輸入してください」
「あっ、はい」
「サフラの王よ、こうやって、『始元の大魔導師』殿は世界を変えていくのだ」
ダーカスの王様が、サフラの王様に話し掛けている。
しかしまぁ、俺、電気の技術よりも、日本で暮らしていたときの雑然とした知識が一番役に立っているよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます