第3話 サフラの民

 

 まぁ、眺めがいいってのは、お互い様で。

 こっちがサフラに近づくのは、サフラ側からも見えているわけで。

 大規模な、お出迎え部隊が見える。

 ただ、なんていうのかな、盛り上がりはない。

 敵視もされてはいないとは思うんだけど。

 視界の片隅で、ヴューユさんがコンデンサの梱包に手を伸ばすのが見えた。

 やだよ、ここでまた戦争は。

 敵陣だし、前回とは違って、殺し合いになっちゃう。


 みんな、なんとなく緊張しながら、歩き続ける。

 基本は大丈夫だとは思っているんだよ。実際、ここでダーカスの王様に手を出したら、確実にサフラは滅びるからね。

 でも、怖いのは仕方ない。


 「ナルタキ殿。

 もしものときは、身を持ってお守りいたしますから、元来た道を走ってください」

 「あのな、ルー、そんなこと、できるわっきゃないだろ?」

 「してもらわねば困ります。

 ダーカスだけでなく、この世界の未来を守るために」

 「大丈夫だよ。

 そんなバカじゃねーよ、向こうも」

 「なら、いいのですが……」

 いよいよ、ひとりひとりの顔が判別できるくらいまで近づいた。


 サフラの人の群れが割れて……。

 正直、安心したよ。

 サフラの若い王様がこちらに向かって進み出てきたからね。

 王様同士で、片手を上げてあいさつし合う。

 俺、横でそのあいさつを聞くことになった。逃げ出せなかったんだよ。


 「先日は、ダーカスにて、まことにお世話になりました。

 少しでもお返しができればと思い、国を挙げて歓迎をさせていただきます」

 「お心遣い、痛み入る。

 ただし、実務訪問ゆえ、過分なお心遣いなきようにお願いしたい」

 「民にも、サフラが歓迎しているところを見せたいと思っております」

 「解りました。

 ご馳走になりましょう」

 ……なるほど。

 サフラにハネカエリがいるかもだけど、そいつらにもサフラはダーカスを歓迎するという姿勢を顕したいんだ。

 じゃ、今晩は晩餐会だなー。


 サフラの街に入ったら、熱狂的な歓迎って感じではないけど、なんか、しみじみと温かい視線を感じる。

 1人、勇気を奮ったのか話しかけてくれた年配の女性がいて、その意味は俺にも理解できた。

 書記官さんの1人を掴まえて、なんか、必死の面持ちで聞いてきたんだ。


 「『ダーカスで開墾する』ってうちの息子は家を出ました。

 1年経って、畑を持てたら、迎えに来てくれると。

 本当に、本当に、安心して待っていていいのでしょうか?」

 ああ、俺たちへの視線って、期待なんだ。

 考えてみれば、戦争と言ったって、俺たちの側は1人も殺してない。そこでもう、いくらかの信用を得ているんだろうな。


 ルーに目配せされて、俺、その書記官さんに代わって答えた。

 「ええ、今のところ、事故も起きていませんし、みなさん元気に働いてくれています。来春収穫の穀物も蒔きましたし、春には収穫があるでしょう。

 そうしたら土地と収穫を分割しますから、息子さんも迎えに来てくれると思いますよ。

 今、新しい街もどんどんできてますから、新築のサフラ風の家で暮らしてください」

 家を作っているのが、サフラ出身のマランゴさんだからね。どうしたって、あの一角、どことなく純粋なダーカス風じゃないんだ。でも、ダーカスでないとも言い切れなくて、すごくエキゾチックな感じなんだよ。

 でも、まぁ、サフラ風というので間違いはないと思うよ。


 で、安心したんだろうね。

 崩れ落ちるようにして、俺にしがみついて、「ありがとうございます、ありがとうございます」って。

 俺、ちょっと臭くないかな。風呂も入ってないし。

 さらに王様が、俺に代わった。

 「冬の間に、あなたが体を壊しては元も子もない。

 身体を労うて、息子さんからの便りを待ちなさい」

 って、ちょっとあざといくらいだけど……。


 俺たちを囲む人の群れのあちこちから、すすり泣きの声が聞こえてきた。

 ひょっとして……。

 サフラの生活って、そこまで厳しくなっていたのかな。

 前の王様の戦争ふっかけてきたのって、本当に国力のすべてを賭けた、一か八かだったんかなぁ。

 もしかしたら、ここの人たちにサフラが国としてダーカスを歓迎しているのを見せたいのは、俺たちに危害を加えようとしている奴への牽制ではなく、民への安心感を持たせるためだったのかなぁ。


 「これから、サフラも豊かになります。

 麦とライ麦がこの国に運ばれましたから、春には食べるものも作れているでしょう。

 魔素も運ばれますから、魔法も使い放題になりますし、冬の雪を減らすこともできるでしょう。

 大丈夫、世界は良い方向に向かっていますから」

 そう言って、助け起こして立たせてやる。


 で……。

 周囲を見渡して……。

 あわわわわわ、洒落にならん。

 街の人達、俺達一行に揃って頭を下げていた。

 「大丈夫ですから。

 サフラの王様のお力もありますから」

 わたわたしながら、必死で言う。

 我ながら、なにが大丈夫なのかは判らない。


 サフラの王様が言う。

 「『始元の大魔導師』殿、サフラの未来にお力添えを」

 それを聞いて、ダーカスの王様がとんでもないことを言う。

 「『始元の大魔導師』殿は、爵位を超えた、『ダーカスの王友にして国柱』である。

 サフラとしては、どうなされるおつもりかな?」

 「それは……、なんと、そのような……。それは副王にも匹敵する立場。

 では、サフラも、同等以上のものを考えておきましょう」

 「いえ、そんな、どうこうがなくても、できることはしますから……」

 あまりのことに、ビビった俺の声、だんだん小さくなってしまう。

 「『始元の大魔導師』様、しっかりなさってください」

 ルーが俺の背中を叩く。


 一気に街の人達の雰囲気が和んだのはいいけどさ、ここでもダーカスみたいな位置づけになっちゃうじゃん、ルーのそれじゃあさぁ……。

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