第2話 サフラへの旅路
休憩しては歩き、歩いては休憩し。
日がだんだんに傾いてきた。
明るいうちに、テントを張ってのキャンプになる。
水場の位置は、旅をする行商人から聞いていた。
とはいえ、煮炊きまではなかなかできない。
せめて、体を拭き、手足を洗い、王宮の料理人さんが作ってくれたお弁当を食べる。
でも、お弁当もここまで。
明日からは、ヤヒウの乳から作った短期熟成のチーズとか干し肉に加えて、その場で戻した芋の粉のマッシュポテトを食べることになる。
サフラまでは、100kmじゃきかないし、途中の
歩きってのは大変だよなぁ。リゴスまでたどり着けば、あとは船とかになるから、一気に楽になるんだけれど。
ともかく、毛布にくるまって、張られた天幕の下で眠る。
あらためて空を見上げるけど、見知った星座が1つもない。
遠くに来たもんだと思うよ。
この世界に、俺と、たぶん本郷だけが同郷なんだ。
そして、一緒に空を見上げているルーが横にいてくれて、本当に良かった。
で、みなさんが気を使って、「野宿じゃなんですから、王様と一緒にテントでお休みを」なんて言ってくれたけど、冗談じゃない。王様と一晩中、顔つき合わせていたら、緊張して眠れないじゃん。いびきをかいたら不敬なんだろうかとか、いびきをかかれたらありがたく承らないといけないのかとか、いろいろ考えちゃうし。
それに、もう1つ、この一行の中でルーは紅一点。
横についていないと不安。
ティカレットさんあたりが、絶対にちょっかい出すからね。
ルーを殺人犯にはしたくないよー。
で、全員疲れているけど、そのまま熟睡しちまうと、トオーラに襲われるのが怖い。ヴューユさんが結界魔法を唱えてくれて、その上で王宮書記さん達が交代で見張りをすることになった。
なんか、本当に申し訳ないよ。
で、さくっと朝。
朝日がさす前の、僅かな時間で干し肉を齧って、出発。
二日目ともなると、歩くのにも飽きが来る。
すれ違う商人さんたちが、唯一の慰めになってきた。
「荷車になにを積んでいるんだろうか」とか好奇心も刺激されるし、あいさつを交わすだけでも変化になるからだ。
だって、なにが辛いって、ずっと風景が変わらないんだよ。
西のゼニスの山がだんだん低くなっていく以外、風景の変化がないんだ。砂漠を進む隊商とかって、すげーロマンティックって思っていたけど、ただただ、だだっ広い砂漠を行くのは、実際は気持ち的にも大変なんだろうって思ったよ。
歩きだして、2回目の休憩に入る手前で、サヤン達が穴を掘っているのが見えだした。架線ケーブルのための電柱、結構いい所まで来ているんだなぁ。
「おおーぃ、サヤン、がんばってるなぁ!」
ちょっと考えてから、そう声を掛けた。
だって、「やっとるな、結構、結構!」とかだと、扇子片手のどっかの小さな会社の社長みたいだし、「偉いぞー」だと、子供を相手にしているみたいになっゃうし。
「そちがサヤンか?」
俺に続いて、王様が声を掛ける。
「どちらさんで?」
あー、やっぱりバカだ。空気が読めてない。
こんなに周りが
空気が読めない俺が言うんだから、レベルが違う読めなさだってことだ。
「ダーカスの王様です。
陛下とお呼びしなさい」
ルーが、焦り気味に言うのが可笑しい。
サヤン、驚いたのは分かるけど、口を閉じろ。奥歯まで見えてる。
サヤン、十分に驚いてから、慌てて膝をつく。
「よくやってくれているようだな。
顔は覚えておく。
身体を労って、引き続きよろしく頼む。
祝儀だ。
みなで旨いものを食え」
そう言って、王様、銀貨を2枚、サヤンに手渡す。
そして、俺に向き直って言う。
「『始元の大魔導師』殿、引き続き、この者に対し、よろしく頼む」
「御意に」
俺がそう返事をする頃には、サヤン、当社比3分の1くらいに小さくなっていた。
サヤン、小さくなりながらも、状況の説明をしてくれた。
電柱の輸送は自分たちではなく、サフラの商人に頼んだらしい。なるほど、ダーカスから運ぶのでは二度手間だし、サフラから直接とはいい手を思いついたね。
それで、予想よりずっと先まで電柱が立っていたんだ。
「『始元の大魔導師』様が資金を豊富にくれたので、いい手がないか考えたんです」
よしよし。よく考えた。
「引き続き、お願いします。
俺は、30日くらいダーカスを離れるけど、そのあとは、ダーカスに戻って、それからこの先の
なにか困ったことがあったら言ってください。
できることはするから」
そう、サヤンに告げる。
「余からも頼む」
王様の声がかかって、サヤンはさらに頭を下げた。
そこへ……。
「おーい、サヤン、なにやってんだ?
はやく仕事に戻れよ。
で、この偉そうなおっさん、だれ?」
電柱担いで呼びに来た若いのを、サヤンは殴り飛ばした。
はーぁ、やれやれ。
なんだ、この連鎖。
御前であるぞ。
− − − − − − − −
午後も遅くに、ようやく
この辺境に、ダーカスの魔術師さんが3人も揃うことになる。
最年少の魔術師さんは、工事監督と同時に他の魔術師さんに引き継ぎもしていたからね。
魔術師さん達の会話の邪魔をしないように遠慮して、俺はルーとエキンくんとで工事現場を見て歩く。
トーゴで経験があるためか、石工さん達の工事の進捗は早い。
しかも、当然のように、石が切り出せる場所が設置場所になるから、輸送も少なくて済む。
建物の中には、もう文様が彫り込まれているし、30日後には完成しているだろう。
サヤンの引いてきたケーブルを繋ぎ、避雷針アンテナを立てたら、こんどはもう、いきなり土地が余りすぎて仕方ないことになるよな。
牧草と、木の苗を植えるだけでも大変な面積だよ。
こここそ、果樹を植えて、フルーツの一大生産地にしても良いのかもしれないなぁ。
とりあえず、ここでもう一泊。
俺はこのまま出発するけど、エキンくんは、ここでコンデンサの取り付けに掛かる。30日後、戻ってきてチェックをして瑕疵がなかったら、最後の仕上げを一緒にして、エキンくんはとりあえず卒業。
でも、卒業してからの方が、勉強することは多いんだよね。
ま、仕事ってのは、そういうもんだ。
翌朝、再び歩き出す。
もう、ふくらはぎがぱんぱん。辛いよ。
そう運動不足ではないと思っていたけど、この世界の人達はやっぱり強いわ。
もっとも、王様はだいぶ辛そう。
「我が王よ、そろそろ荷車にお乗りになられては」
「いや、みな疲れておるのに、その者たちに余を乗せた荷車を引かせるわけには行かぬ」
「そのうち、動力を乗せ、人が座っているだけで良い車にしていきましょう。
ですが、我が王よ、我々は、サフラに着けば休むこともできます。しかし、王の勤めはサフラに着いてからこそ。
着いたときに疲労困憊していたら、彼の地で戦えませぬ。
是非にも乗っていただかなくては」
「……うむ」
これで、みんな少しは歩くスピードを取り戻すこともできる。
一番疲れている人にペースを合わせるから、妙にゆっくりになっていたんだ。
「もうすぐ着くぞ。
これより、疲労を軽減する魔法を使う。
サフラでは隙を見せるな」
ヴューユさんが全員に言い渡す。
リバータ狩りの時の魔法だな。カフェインみたいな魔法だ。疲労がポンってとれる。あ、表現が不穏当だったのはお許しください。
で、そのあと解ったんだけど、後からその分の疲れが来るから、ツケは払わないといけない。
一時しのぎにはなるけど、掛け続けると先に行って死ぬ魔法だ。
でも、今みたいなときにはいいよね。
当座のあいさつだけしのげば、あとは寝ればいいんだから。
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同時にアップしている、
同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました
第二章12話の抜粋を、degirock様(https://twitter.com/jonn_rock/)に朗読していただきました。
すばらしいですよ。泣けました。
https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1319275119198433291
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