第九章 召喚後240日から270日後まで(大陸旅行記)
第1話 出発
ネヒールの大岩。
でも、今回はケーブルシップじゃない。
橋を渡って、徒歩で北上してサフラに行く。
サフラに、
魔素はダーカスからの輸出品ということになる。そして、そのために魔素流の来る北限の地に
そして、この架線ケーブルがサフラまで延びる。
今回、それらも全て見ながら行くことになる。
王様に護衛のトプさん、トプさんの配下の人が数人。書記官さん達もそれなりの人数がいる。ケーブルシップを作るのに、ネヒール川を一緒に下った、地図の更新をしている書記官さんもいる。
俺とルー。ヴューユさんもメンバーに加わった。そして、庭師のミライさん、エキンくん、デリンさん。一番若い魔術師さんとは、サフラ国境近くの
ダーカスの商品の売り込み担当として、ティカレットさんと新しい番頭さんもいる。
一番若い魔術師さんとデリンさんは、そのままリゴスに留学となる。なので、リゴス以降、一行の中で魔術師が一人もいないと困ることもあるかもと、ヴューユさんが急遽参加してくれたのだ。
各国の
そして、エモーリさんのところで作られている中でも、最大の荷車が10台。
荷車には私物のほか、食料とか水とか、お土産とかまぁ、雑多にいろいろが積まれているけど、結構多めのしっかり梱包されたコンデンサが重さの半分以上を占めている。
理由は、サフラのゴーチの木を、ミライさんが治癒するため。
そして、リゴスで、たぶん本郷であろう男を治癒するため。
今行くからな、本郷。
サフラで、ミライさんが空にした分のコンデンサは、そのままサフラに置いていく。
サヤンの架線ケーブルが届いたら、ここでも充填ができることになるからね。
問題は、電気と同じように、魔素も長距離の架線ケーブルを伝う間に減衰するかどうかだ。
こればかりは、やってみないと判らない。ダーカスとトーゴの間に比べて、10倍じゃきかない長い距離だからね。
これによって、魔素の安全性というか、危険性が電気とどこまで異なるかも実験できるよ。
ともかく、出発。
王宮から、大臣さんも見送りに来てくれている。
その人達に、手を振って歩き出す。
ちょっと面白いと思ったのは、これだけの大規模な人数の出発だというのに、見送りというのがないんだよね。
ま、理由は簡単。
平らな土地で、樹木もない。つまり、半日でも見送り合えちゃうんだよ。で、さすがに時間がもったいないってことで、見送りの習慣はドライになった。
視界がここまで開かれていないところだったら、当然、それなりのお見送りになるんだけどね。だから、この世界で樹木が増えていったら、当然、「その角までお見送りいたしましょう」なんて習慣もできるんだろうな。
歩き出したところで、もう一度人数を数え直す。
43人いた。結構な大所帯だ。
でも、おかげでというのも変だけど、荷車を引く人には困らない。
交代交代で、引っ張りながら行くし、荷車自体はサフラとリゴスへのプレゼントになるから、船に乗るときは身軽になる。まぁ、40人からが食事をする度に、荷車の荷物も大きく減らすからねぇ。
あと、ここまでの交易で、道もかなり歩きやすく平らに均されている。行き交う商人さん達のボランティア作業の結果だ。各国の国道として、街道整備がきちんと始まったら、石畳になっていくんだろうね。
道の脇には、100mくらいを付かず離れず、架線ケーブルを張る電柱が規則正しく立っていた。
サヤン、真面目にやってくれているようだ。ありがたいことだよ。
でも、それ以外の人工物は見当たらない。
どこまでも、見渡す限り殺風景な光景が続く。
なんか、感慨深い。
初めてこの世界に来た時の、殺伐とした風景を思い出すよ。
茶色と緑色の戦いは、圧倒的に茶色が優勢だった。牧草の種が蒔かれ、農産物が増え、灌漑がされ、ダーカスの周囲は緑色が勝利した。
でも、それって本当に、この世界のまだまだ一部分でしかない。
その一部分だけでも、どれだけの人々が潤ったか。
そして、この街道沿いも農産物や牧草の緑で覆われて、この街道自体も街路樹の作り出す日陰に覆われたら。
そうなったら、さらにたくさんの人達の心身が潤うことになるだろうってのが、実感になったよ。
なだらかな起伏を上ったり降りたりしながら、どこまでも道は続く。
ブルスの書記官さんが、砂時計を持っていた。この世界に来て、初めて見たよ。
「今までで、何回ひっくり返しましたか?」
「20回くらいですね。
たぶん、50回目くらいで一度目の休憩を取るのも悪くないでしょう」
そか、1分計くらいの砂時計ならば、50分歩いて10分休むなんてパターンになるな。リズムがあっていい。
そもそも、王様は張り切って歩いているけど、人生で一番歩いた日ですら比べ物にならない歩数を今日は歩くことになる。バテられたら騒ぎだから、きちんと休憩を挟もう。
一応荷車に乗れるスペースは作ってあるけど、できるだけ歩いていただきたいからね。
「では、そうしましょう。
じゃあ、50回目が近くなったら、私に声を掛けてください。
お願いします」
「お願いしますだなんて、『始元の大魔導師』様、なんともったいない」
「あー、そういうの、いいからいいから。
じゃあ、よろしくお願いいたしますね」
そう言って、片手を振って、王様の近くに戻る。
「『始元の大魔導師』様、道にも休憩する場所を作る件ですね」
ルーが言う。
「うん。で、そういうところに名物のお菓子とか料理もあったら、さらに世の中発展するよね」
「それって、サービスエリアとか、パーキングエリアっていうものですよね?」
「ああ、そうそう。
王様にも話しといて。
たしか、会議の席かなんかで、こういうものを作るべきという話はあったけど、その具体的なものを見ているのは、この世界ではルーしかいないんだから」
俺、ルーに丸投げ。
だってさ、ルーは俺の世界で観光牧場に行くときに、サービスエリアもパーキングエリアも経験しているからね。
でも、この世界の荒涼とした風景を見ながら、千葉県の話をするのは、半端ない違和感があるなぁ。
一回目の休憩。
地図を持った書記官さんが、この場所を描き込む。
たぶん、サービスエリアは2か所おきとかになるんだろうけど、ダーカスの近くはちょっと密に設置してもいい。
人と物資が集まるから、その滞留場所にもなるからね。収穫祭のときとか、一時的にダーカスの設備だけでは飲みきれなくなるだろうから。
王様は、まだまだ元気いっぱいだ。
先を急ぎたさそうだけど、陛下、アンタ、その勢いだとバテますよ。
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