第36話 出発準備
俺、相も変わらず、忙しい。
ルーがいい仕事をしてくれているから、まだいいけど。
俺は、ダーカスで俺の技術を受け継いでくれるエキンくんと共に、
特に、ヒューズとか、ブレーカーの概念については、口を酸っぱくして説明した。
それから、インフラについてとか、結線の確実さを保つこととか、蓄波動機による自動化なんかの説明をした。
夜は、掛け算九九から始まる算数のお勉強から、オームの法則にまで踏み込む。
また、現在開発中の、複数の
もしかしたらだけど、この中から俺に先んじて、より良いシステムを編みだす人がいそうな気がするよ。
そしたら、俺、その人の考えに総乗りするわ。
ルーはルーで、忙しい。
俺の代わりに、あちこちで走り回ってくれている。
とりあえず、ハヤットさんと話して、トーゴのリゾート候補地の入り江に水を供給できる水源探しのクエストを出してくれた。真水さえ見つかれば、あとは楽。石造りでも、木造でもどうとでもなる。なんせ、2つ目だからね。
とはいえ、大工のマランゴさん、今はエフスで住宅建築の真っ最中。
トーゴと同じで、サフラ出身者達がマランゴさんの手伝いをしていて、ぐんぐん街ができあがっているそうだ。
家造りを手伝っていない人達は、穴掘り。朝一のケーブルシップでダーカスまで来て、ネヒール川からエフスまでの水路を掘っている。こちらも、30人くらいで毎日がんがん掘っているから、1日に100m以上は掘れている。
掘れたら、この水路沿いも植林したいねぇ。
それから、公衆浴場というか、健康ランドが仕上げ段階なので、そのチェックもルーに任せている。
これはいつになく、厳しくアラ探しすることになっている。
というのは、同じ設備と作りで、トーゴにもエフスにも作られるから、ここで完璧にしておかないと、ミスも持ち越されてしまうんだ。
公開前に王様達に入ってもらったので、その試運転の際に反省点も見えている。
さらに、トーゴで藁半紙を作るのに、3万枚はやはりすごい量だ。
だから、石臼とその動力となる水車、紙を乾かす平らな台の設置について、ルーはシュッテさんとエモーリさんの間を行ったり来たりしていた。
こちらはそれこそ1日も早く作るということで、必死だからね。
トーゴでは、相変わらずの最初の技術で紙を作り出しているけど、より良いものをもっと楽に作りたいからねぇ。
ただ、藁が微妙に足らないかもってことで、船いっぱいのイコモの藁を一度ブルスから輸入する話も持ち上がっている。ただまぁ、それは石臼なんかに比べたら焦る必要はない。トーゴの倉庫が空になる見込みができたらでいいよね。足りればそれに越したことはないし。
あと、紙を作るときに出た藁の煮汁は、パターテさんの指導で、塩田みたいのが作られてそこに捨てられているそうだ。
灰汁も肥料になるんだね。知らなかったよ。
トーゴでは海関係、特に漁も動き出している。
バーリキさんが漁労長やってくれているけど、トーゴの海は思っていたより豊かみたい。
船を使っての漁で、大きな魚が捕れるようになった。それに、カメノテみたいな珍味類も毎日海から届く。それも、ダーカスだけでなく、エフス、トーゴにもだ。
ダーカスの食生活、たった数日で一気に豊かになってきた。
問題は、王宮が生臭いこと。
魚市場に相当するものがないので、王宮の一室が魚介類の加工販売所になってしまっている。で、「なんで俺が……」とぶつぶつ悩みを口にしながら、ヤヒウの食肉を生産していた職人さんが魚を捌いている。
ネヒールの大岩あたりに、深い穴を掘って冷気を得て、そこを市場にしようって話はあるけど、気候が暖かくなるまではこのままかもね。人は、切羽詰まるまで動かない生き物だから。特に俺とか。
いよいよならば、俺ももう少し考えてエアコンを作りたいけど、今年中は無理だろうなぁ。
ただ、エモーリさんに、金でパイプが作れないかは確認してある。
動力はあるし、あとは冷媒だけだ。フロンはないけど、おしっこからアンモニアでも集めようかと思っている。
さらに、海からは、魚とかだけでなく、雑多な海産のごちゃごちゃも届く。
きっと漁網にかかった魚以外も、ここにみんな来ているんだ。それらは、次から次へと製塩魔法で脱塩されて、積み上げられている。このごちゃごちゃ、結構家畜が喜ぶんだ。
カルシウムが豊富なのか、鶏なんか大喜び。牛やヤヒウも舐めに来るし、ロバも来る。魚の頭を茹でたのは、犬と猫が独占して喜んで食べてるけど、その他の家畜がこんなんを喜ぶとは思わなかったよ。
で、そこそこに突かせたり舐めさせたりしたあとは、家畜の糞や、魚の内臓なんかも混ぜて、堆肥化が進んでいる。
麦蒔きにぎりぎりで間に合ったらしいけど、次は春の分も確保して、さらに肥料の余剰が出たら、山の植林も一気に進むよ。
当然、塩も積み上げられつつあって、こちらもダーカス、エフスで消費される以上の分は輸出に回される。
サイレージも、最初の部屋が開けられて、家畜の食いも良いそうだ。
ヴューユさんのお陰で、こちらも成功だよ。
これで、もう春からの農業は大丈夫。
王宮書記官さんが、科学の本でいろいろと農業に使える発見があったっていうんだけど、それも実現できたらいいよね。
なんにせよ、農業でできた余剰の富が、インフラの原資だからね。ともかく、ここで豊作を確保してもらわないとだ。
で、豊作さえ確保できれば、エフスの治安も一気に良くなるし、ケナンさんも一気に悩むことがなくなるからね。
こう報告を受けると、ルーも忙しいよねぇ。
しかも、王宮にも報告しているし。
これで、「報告は文書にしろ」なんて言われたら、さすがのルーもアップアップだったに違いない。
10日なんて、過ぎるのはあっという間。
王宮は王宮ですったもんだ。
だって、王様が30日近くも出かけるなんて、今まで例がなかったからね。
王様の留守中、大臣の代決で済みそうにないものは片付けておかなきゃだし、王様の旅行に持っていくものはなにかって洗い出しもある。
ダーカスからサフラ、リゴスまでは陸路だし、そこから先は海路だ。だから、船で運べるものはいいのだけど、リゴスまではなんとか自給自足しながらたどり着かないとだからね。
それらの荷物の選定と荷造り、荷車の手配なんかで、そりゃあもう、大騒ぎさ。
少なくとも、この陸路は安全ではないしね。
サフラの前王の残党も怖いかもだけど、それ以上にトオーラの生息地だからね。不意を突かれて襲われたら、武官のトプさんでも危ない。
でも、襲われて、逆襲で狩れたら、大腿骨だけは回収する予定。蓄波動機の記録筒がもうないんだ。
そう考えると、トオーラより人の方が怖いね、こりゃ。
だって、お腹が空いて襲う方が、骨を使いたいってより罪が軽いかもだよなぁ。
ともかく。
出発の日は来た。
世界中の
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