第35話 お見送り
デザートは、網目はないけどメロン、そしてスイカ。
一口だけだけど、クリームもついている。
部屋のあちこちから、「うぐう」なんて声が聞こえる。
やっぱり、美味しいよね、フルーツ。
この世界に来てから、我ながらチートだなぁって思うこともたくさんしてきたけど、ひょっとしたらこれが一番かもしれないね。
甘みって怖いよ。
ここまで根源的なものだとは、さ。
刑務所では甘いものが出ないので、たまに出ると大騒ぎってなんかで読んだけど、ここは社会全体で甘いものが少ないからねぇ。
リゴスの王様、ブルスの国王夫妻、サフラの若き王様までが、もう、目の色が変わっている。
当然だけど、エディの女王様に至っては、顔中が果汁だらけでほっぺたにクリームが付いている。なぜなら、お付きの者と摂政さんも、自分の分のフルーツに夢中だから。
でも、「可愛いなぁ」なんて思ったら、不敬だったりするのかなぁ。
そのあと、ゲストの方たちには、再びお風呂を楽しんでいただいた。
エディの女王様、「もう、国に帰りたくない」って泣いたらしいけど、それはダメだからねー。
ダーカスが誘拐したなんて言われたら、歴史が変わっちゃうからね。
− − − − − − − −
鶏の声とともに、ダーカスの街は動き出す。
今日は、朝食の後にみなさん、ケーブルシップに乗って移動。そして、各国にお帰りになる。
ケーブルシップの定員があるので、お見送りにトーゴまでは行けない。
で、ネヒールの大岩でお別れになる。
ケーブルシップに乗らない人達もいて、その人達は陸路を確認しながら帰ることになっている。
これから交易とかますます盛んになるし、休憩するところとか宿場町とかも作らないとだから、その場所の選定もしながら帰るそうだ。
したら、サヤンに架線ケーブルの工事して貰わないとだ。
それだけじゃなく、街道沿いには、街路樹も植えられるといいよね。
ニセアカシアならば、各国に甘みを届けられるし。
ネヒールの大岩の周りには、ダーカスの人達でいっぱいだ。
川原にも、アーチ橋の上にも、人が鈴なり。
ダーカスの人達も、いい加減今年は祭り慣れしてきていて、「盛り上がるときには盛り上がらないと損」みたいな考えが生まれているみたい。
なんらかのお振る舞いもセットだしね。
今回は、先々の商売が上手くいくための切っ掛けって誰もが解っているから、ちょっとサービス過剰かも。
そんな中、ダーカスから各王に贈り物として、雄鶏1羽と雌鶏2羽、野菜等の種子の詰め合わせが贈られた。それ以外は、まだ渡せるほどの数になっていないからね。
俺の周りには、各国から3人ずつが残された、
エモーリさんが、彼らの分の工具を用意してくれている。
10日ほどみっちり勉強してもらって、あとは各国に帰る旅の道すがら、さらに深い知識を身につけて貰う。
そして、本国の
それぞれの王様から、最後にお言葉があった。
「我がリゴスは、ダーカスとともにある。
国境は接していないとは言え、大陸の両端で共に発展し、良き未来を共有しようぞ!
ダーカスの王、『始元の大魔導師』殿、来朝をお待ちしている!」
最後は、素直なお言葉がいただけて良かったよ。
「今だから言おう。
我がブルスでは、もしもの時のために、我が妃が余の身代わりになるために行動を共にした。
だが……。
この心配は無用であるどころか、今回の会談は先々の明るい未来をも確信させるものであった。
我がブルスも、ダーカスとともにある。
交易を盛んにし、共に良き未来を築こう!」
え、王妃様、死ぬ気で来ていたのか。
……ルーみたいだなぁ。次はもっと、なにか歓迎したいね。
「んとね、んとね、エディもね、ダーカスとともにあります。
いっしょにがんばりましょうっ!
トンネルも掘ろうね。そしたら、また遊びに来るからねっ!」
ご本人のお言葉だよ。昨夜、練習したんだろうねぇ。
たいへんよくできました。
摂政さんの補足がないあたり、エディの意思として、これで十分なんだろうね。心から仲良くするのには、条件はいらないんだ。
「我がサフラ、今回の会談にて、ようやく愁眉を開くことができた。
ダーカスの王、そして各国の王、『始元の大魔導師』殿に満腔の謝意を示したい。
各国と協調し、共に明るい未来を得られるよう、我が国はその原則の元の行動をお約束する!」
そか。
そうだろうね。サフラという国の王家、さらには国家自体の廃止までチラつかされたもんね。
安心して帰れて良かったよ。
ダーカスの人達は、各王様のあいさつのたびに万雷の拍手で応えた。
そして、最後に、ダーカスの王様。
「我が国で諸王を迎えられたこと、後々まで我が国の誇りとなろう。
大陸を、平和裏に発展させるが我が悲願。豊穣の女神の御心により、『始元の大魔導師』殿の助けを得てようやくここまで来た。
ここで、1つ報告をしよう。
この1年近く、この発展に対し、ダーカスのみでなく、他国との関わりにおいても人命の代償は一つとして生じておらぬ!
この一つの事実は、ダーカスが豊穣の女神の意に沿うため努めてきた結果であり、その意を体現するものである。
我々は、この発展を代償なしに得、他国とも共有することができる!
これより、余は各国すべてを訪ねさせていただく。
すべての国、そしてその民と共に歩もう!」
もー、アーチ橋が落ちたらどうしようかって思ったよ。
それほどの熱狂。
そんな中、各王様達はケーブルシップに乗り込んでいく。
ダーカスの人達も、王様達も、俺たちも、みんなで手を振り合う。
「5年後、余はここで、ダーカスの民と再び
ケーブルシップがプラットフォームを離れるときに、リゴスの王様が片腕を上げて宣言した。
再度の熱狂。
おそらくはこれ、
王様達が去っていく。
きっと、この出来事は歴史に残るんだろうなぁ。
俺、残された
「昼間は実地、夜は勉強で、10日間をしごきぬく。
覚悟してくれ。
いいな?」
「応っ!」
さすがは、各国が選んできた人の群れ。
海担当の俺の配下とも、当然サヤン達とも違う感じ。
ちょっとヤバい。
見るからに優秀そう。九九なんか、1時間も掛からず覚えそうだ。
俺、10日間、化けの皮が剥がれないように上手くやらなきゃだな。
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