第33話 俺がやる


 そして、この場で、トドメの一言を言おう。

 「さて、サフラの若き王の肝も十分に冷えたことでしょうから、話を戻しませんか。

 我々は、民のために働く者です。

 私も、ダーカスの王とともにいますが、その目的は王個人のためではなく、ダーカスの民のためです。

 そして同じく、他の国においても民は民、そのために働かせていただきたいと思います。

 ネズミを獲る猫が良い猫です。

 おっと、ここでは、ネマラを獲る猫でしたね。

 私には実績があるということで、その真贋は、ひとまず措いてもいいではないですか」

 そう言って、ひとりひとりの王様の顔を見る。


 言いたいことはありそうだけど、とりあえずは、聞く姿勢になってくれている。

 こんな駆け引き、練習しては来なかった。

 でも、なぜか、できているよ、今。

 本郷が生きているかもってことで、あいつと会うまでは俺、頑張るからね。

 ともかく、サフラの件はこれで笑い話になれば良いのだけど。


 そして、俺、続ける。

 「各国の円形施設キクラの補修、きちんとさせていただきます。

 また、コンデンサという魔素の保存のためのものも、設置させていただきます。

 ここにいるルイーザ殿も、円形施設キクラの文様の補修とその工事指揮では、経験者です。

 コンデンサの作り方などの情報も公開しますが、まずは、どこの円形施設キクラも安定して動く状態に戻すのが先です。

 手遅れになって炎上してしまったら、必要な工程は倍になるどころではありません。

 おそらくは、どこの円形施設キクラも、そのメンテナンスは焦眉の急のはずです」

 そこで一旦口を閉じる。

 どの王様も、瞬きもせず、俺を見ている。


 「今回、各国から、数人以上の技術者候補を連れてきていただきました。

 まずは基礎をここの補修済み円形施設キクラで学んでもらい、そのあとダーカス王と一緒に各国を巡る際に、その技術者をお返ししていきます。そして、その際に、私と一緒に各国の円形施設キクラの補修を行います。

 私が『始元の大魔導師』の偽者だとしても、持っている技術は本物です。ご覧いただいたように、ダーカスの円形施設キクラの修理も、新造も成功させています。

 その上で、私に手を触れさせたくないというお国がありましたら、そこは当然、その意志を尊重させていただきます」

 そう言って、返答を待つ。


 返答は、まず、ブルスの王様から来た。

 「『始元の大魔導師』殿。

 リゴスの王がどう言おうが、我が国の円形施設キクラの状況はすでに極めてよろしくない。

 円形施設キクラの中心に据えられていた法具を、ダーカスに出すことを許したのは、『始元の大魔導師』殿の助力を得たいからだ。

 我が国は、諸手を挙げて歓迎する。

 また、サフラについてもだ。ダーカスが領土的野心を持つとして、サフラを併合したら、次はブルスになる。

 エディはゼニスの山があって、直接攻め込めないからな。

 『始元の大魔導師』殿の、サフラを温存するというお話には、全面的に賛意を示そう」


 次に、エディの摂政さん。

 「エディも、ブルスと同じ立場に立とう。

 やはり、我が国の円形施設キクラの状況も決して良いとは言えぬ。

 上る朝日のようなダーカスの勢いに呑まれず、民の安心した生活を守るためには円形施設キクラの補修は避けて通れぬ。

 ゼニスの山に穿つトンネルの件も、円形施設キクラ補修後という条件の下、賛意を示そう。

 また、領土的にも、我が国はブルスと同じ立場にある。

 サフラをダーカスが併合したら、ダーカスとエディは、ゼニスの山という障壁なしに国境を接することになる。

 その国境の安全保障には、膨大なコストがかかるだろう。トンネルの出口1つ潰せばよいというのとは大きく異るからな。

 『始元の大魔導師』殿の、サフラを温存するお話には、全面的に賛意を示す」


 そして、リゴスの王様。

 「ブルスとエディが各条件の下、そのような判断を示すのであれば、リゴスとしてもそれに同意することはやぶさかではない。

 ただ、サフラの保護国がダーカスであるということは良しとして、サフラの独立性は如何にして保たれるのか?

 それが保たれず、完全な属国化がされるのであれば、エディとブルスの上げた条件も、根本から揺らいでしまうぞ」


 俺、それに答える。

 「あくまで今から言うことは、『始元の大魔導師』の独断であり、ダーカスの王はさらに良い案をお持ちかもしれない。また、呑めぬ条件と言うかもしれません。

 しかし、まずは、私案ではあるが述べさせていただきます。

 一定期間、サフラへの魔素の供給国を、ダーカスとリゴスに分割するのはいかがでしょうか。

 エディにも余力があるのであれば、参加いただければありがたいです」


 リゴスの王様が言う。

 「『始元の大魔導師』殿。

 仰ることの意味が解らぬが」

 きっと嘘だ。この人が解らないなんてことは絶対ない。

 俺に説明させるつもりだし、その説明の中で、俺に嘘があれば、それを見抜くつもりなのだろう。


 「魔素を円形施設キクラから供給しなければ、どちらにせよ、サフラは滅びます。他国の発展に取り残され、民の流出は止まらなくなるでしょう。

 しかし、現実として、ダーカスはサフラに魔素を供給する用意があります。

 ダーカスの王の意思は、共存共栄だからです。

 そのために、前王の息子に跡を継いでいただきました。

 リゴスも、エディも自国の円形施設キクラを増やし、安全な土地を増やし、得られた魔素の余剰をサフラに供給して欲しいと思います」

 「魔素供給を通して、リゴスとエディはサフラに影響を及ぼせということなのだな?」

 リゴスの王様が言う。


 「ええ。

 それだけではありません。

 サフラは、独自の資源を持つ国です。それを使うためには、人もいなければならない。

 私は、寒冷地に対応した穀物をサフラに渡しています。麦とライ麦です。

 リゴスとエディも、同じように魔素に加えて、食料を通じても影響を及ぼせばよいでしょう。

 魔素に加えて食料をサフラに移動し、サフラからは北の天然資源を得ましょう。

 それをリゴス、エディ、ダーカスの3国が独自に行えば、それはその3国の安全保障になりますし、サフラの発展にもつながるでしょう」

 そう、俺、答えた。


 「サフラ鼎立の計か……」

 リゴスの王様が呟く。

 で、「ていりつ」ってなに?


 「よろしい。

 『始元の大魔導師』殿の言いたいことは解った。

 リゴスも、『始元の大魔導師』殿の言に従おう。

 我が国の円形施設キクラの補修、よろしく頼みたい。

 南北軸の交通路も、エディとサフラで結ぶがいい」

 俺、ダーカスの王様に視線を走らせる。

 王様、無言で頷くけど、うん、満足しているらしい。

 「わかりました」

 俺、リゴスの王様に返事をする。


 サフラの温存、成功だ。

 後できちんと感謝しろよ、サフラの王様。

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