第32話 マジか……


 リゴスの王は話し続ける。

 「我々も、リゴスの魔法学院の全面的な協力のもと、『始元の大魔導師』の1人を召喚した。

 その男は、どういう状態で召喚されたのか判らぬが、頭と上半身のみで、下半身が潰れ、手足のもげた瀕死の状態で円形施設キクラに現れた。

 あまりに凄惨な状況に、上位治癒魔法でも追いつかず、失われし内臓までをも復元する、学院に伝えられている究極的な治癒魔法に頼るしかない状態だ。

 だが、ダーカスと同等の魔素技術がない我々には、魔素不足からその魔法は使えない。

 結局、我々はその男の命を繋ぎ続け、断片的に語られることから円形施設キクラへの理解を深めようとしている状況だ。

 そして、その状況の中でも判明した事実として、ダーカスの『始元の大魔導師』は偽者であると、我々としては認識している」

 

 ちょっ……、それってもしかして、もしかして、本郷なんじゃないのか。

 あいつの事故現場は、手足と大量の血痕が残されていたという。やりたくない引き算だけど、計算が合う。

 本郷が、左折するトラックに轢かれるような間抜けのハズはない。

 きっと、半分召喚されているような、中途半端な瞬間にやられたんだ。


 もし、リゴスで本郷が生きていたら。

 そか、本郷が……、本郷なら、生きていてもおかしくない。

 俺が、大量のコンデンサを持ち込んだら、アイツは元の姿に戻れる。

 そして、元の世界に戻れれば、妻も子もこの上なく喜ぶはずだ。

 戻れれば……、だけどな。

 でも、戻れなくても、あいつならばこの世界を俺より上手く救うだろう。


 「そのリゴスにて召喚された『始元の大魔導師』の方が偽者と、こちらでは考える。

 ダーカスに召喚され、今もこの場にいる『始元の大魔導師』殿の実績は、比類なくまた隠れようもない。

 円形施設キクラを補修して我々の命を繋ぎ、次には古の姿に戻して生活圏を広げた。

 その生活圏をさらに充実させるために、ダーカスの大車輪を作り、リバータを直接戦って退治した。

 働く者の福祉を考え、民の声を聞くシステムを構築しながらも、こちらから願わねば爵位すら受け取ろうとせぬ。

 それに対し、半死半生で口先だけのことしか成し得ぬ者、信用に値せず!」

 今度は、ダーカスの王様が言い放った。


 「ダーカスの王よ、逆である。

 様々な実績を認めていないわけではない。

 また、先ほどの我が提案への反応から、『始元の大魔導師』殿が無欲であることもだ。

 だがな、その実績があり、無欲だからこそ余は疑う。

 強欲である方が余は疑わぬ。

 心のなかに、なにを秘めているのか、また、ダーカスで理想を実現したのち、そのダーカスをこの世界でどう使うのか。

 正規の召喚を経ていないという、『始元の大魔導師』殿がどのような者かを疑うはしかたなきこと。

 すべてを善意で取るほど、余は無邪気ではない」

 リゴスの王様、なんて疑い深い……。


 なんか、俺、同時に大発見をした気がする。

 「疑い深い」というのは、悪いことだと思っていた。

 それは違うんだ。生き延びるために「疑い深い」ようにあらねばならないんだ。

 ダーカスの王様だって、大概疑い深かった。

 疑り深くなければ、国を治めるなんてできないんだろうな。

 


 ともかく……。

 本郷が契約者で俺が連帯保証人。

 本郷がダーカスに来れなくなったから、俺が来た。

 この顛末は、ダーカスの王様にも内緒だった。

 「どうしよう」って、眼を後ろに向けると、ルーが真面目くさった表情を顔に貼り付けていた。なんか話しかけると、それが剥がれちまいそうだ。


 ダーカスの王様、さらに反論する。

 「なにを言うか。

 『始元の大魔導師』殿がこの世界に現れたとき、そのあまりに神経質な怯えぶりに……。

 失礼。

 言葉が過ぎた」

 ……それ、俺、笑い出すのに耐えていたんだよな。ダーカスの王様、正装しているとプレデ△ーの外見で、ケロ□軍曹の声だからさ。

 それとも……。

 おどおどしていたと言いたいのか。

 王様会議サミットの席で、ヒドくないか、ソレ。


 仕方ない、喋るか。

 この人達と互角に交渉できる気はしないけど。

 「諸王におかれても、今の話は不安を呼ぶものであったと思います。

 この際、私がその者と直接会って話し、真贋をはっきりさせましょう。

 その場には、サフラ、エディとブルスの使節も同席していただければありがたいです。

 というのも、今回の王様会議サミットにお出でいただけた返礼に、ダーカスの王が自らサフラ、リゴス、エディ、ブルスと訪問をさせていただく話が持ち上がっています。

 その際に、私も同行させていただき、各国の円形施設キクラを及ぶ範囲で補修し、リゴスでは直接にその『始元の大魔導師』殿にお会いしましょう。

 もしかしたら、リゴスのお方も間違いなく『始元の大魔導師』であり、旧交を温めこともできるやも知れません。

 私としては、とても楽しみです」

 ああ、実際に本郷と再会できたら、俺、泣いちゃうぞ。


 ともかくこれで、問題の先送りができるし、俺に対する信頼感も少しは確保されるだろうさ。

 「さらに、もう1つ。

 さきほど、こちらのルイーザ殿に対してのご懸念、もっともと思います。

 あらかじめ言っておきますが、私としては、将来ルイーザ殿を娶りたいと思っています。

 ですが、それはあくまで、慣れぬこの世界での生活を助けていただいている間に、その真心に打たれたまで。

 この身が、なんらかの強制をもって、ダーカスに縛られることを意味しません。

 ただ、この身も精霊ではなし、どこかで生きていかねばなりません。

 その地として、ダーカスには限りない愛着がありますが、交通網も発達しますし、お呼びがあればどこへでも参上仕りたいと思います」

 一応、言いたいことは言ったぞ。


 俺、ダーカス、本当に好きなんだよ。

 芋も、ヤヒウの乳も、ルーも、エモーリさんやハヤットさん達も。

 そして、王様も(身近順だ)。

 俺にとってここは、相手との距離感を考えなくていい、初めての世界なんだ。コミュ障であっても、信頼できる人達がたくさんできたんだよ。

 だから、ここを始点として、この世界のすべてを救う、そこに俺の意思にゆらぎはないんだ。

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