第31話 王様会議 3


 リゴスの王様は続ける。

 「王を承認するは同格の王。

 王に承認されて王家は初めて王家足り得る。

 この場で、サフラの王家は格がないと我々が宣すれば、たとえこの一族が統治を続けていても、それは意味のない支配。

 山賊の支配地と変わらぬ」

 ……はあ、そういうもんなんですか。

 としか言いようがない。

 でもまあ、社交界とかって、そういう裏付けのために存在しているのかって気はしたよ。


 で、ダーカスの王様を身近で見ていて、おまけにここでリゴスの王様を見てだ。

 俺には、まともに伍せる気がしない。

 生きている間にやらかして、追放されるのが落ち。

 俺は近頃、リア充には生意気だって言われそうだけれど、コミュ障は卒業しつつあるような気がしている。でも、同時に普通の人間なんだと思い知らされているんだ。


 「円形施設キクラのない国の王になっても、私がいる意味はないでしょう?

 私はそっちのジャンルの技術者ですよ」

 とりあえず、そう逃げる。

 「だからよいのだ」

 はぁっ!?


 「『始元の大魔導師』殿は、この世界の財産。

 ダーカスの独占状態が、決して良いものとは思わぬ。

 おそらくこれは、エディ、ブルスにおいても同じ意志であろう。

 円形施設キクラの管理にしても、どの国にも平等に協力いただきたいもの。

 その身柄をダーカスで独占するとなれば、その意味を他国は考えざるを得ぬ。

 たとえば、この大陸に覇を唱えようというのではないか、と。

 現に、我がリゴスを超える国力を、ダーカスはたった1年で得ようとしているではないか。

 労働力、そしてその配偶者、婚約者、そして親族と人も集めている。

 これも疑えば疑えるのだ」

 「……」

 正論だ。

 そう思う。困ったことに、俺でも本当にそう思うんだよ。


 国には役割がある。

 ダーカスが豊穣の女神を守り奉るように、サフラが円形施設キクラの管理をする国という位置づけは、サフラの未来を安定させるかも知れない。



 リゴスの王様、容赦なく続ける。

 「ルイーザ殿、そなたに対しても、疑念は消えぬ。色仕掛けで、『始元の大魔導師』殿をダーカスに留めるための工作をする者なのではないか、というな。

 これは、余が言うのではない。

 ダーカス以外に暮らす、すべての人間が考えることだ。

 ダーカスの王は賢明よ。

 ルイーザ殿を『豊穣の現人の女神』にすることで、『始元の大魔導師』殿にお預けを食らわせると同時に、色仕掛けの疑念を薄めるという手を打たれた。

 あれで、我々は、ひとつの攻め手を失ったのだ。

 『始元の大魔導師』殿を女色に溺れさせ、傀儡にしていると言えなくなったのだ」

 ……俺が漏れ聞いていた話と違う。

 ダーカスの王様の顔をチラ見すると、リゴスの王様の指摘が正鵠を得ているのが判る。


 そか、そういう利点もあると知った上で、『豊穣の現人の女神』の話を王様は進めていたのか。

 やっぱり、俺は王様には向かないよ。

 こんな腹芸できないもん。


 ついでに言えば……。

 王様同士が信頼関係を結ぶ大変さ、ってのを思い知った気がする。

さっきの船もだけど、共に技術開発するより、出し抜こうという関係なんだよ、基本が。

 俺が来る前ならば、たぶん国の序列みたいなものが固まっていたんだろうね。それが揺らいだから、みんなで疑心暗鬼になるんだ。


 そして、さらについでに言えば……。

 棍棒で脅されて勉強させられているのが、「女色に溺れさせ」られているってんなら、俺は断固抗議するぞ。

 もっといい思いをさせろって。



 ダーカスの王様が口を開いた。

 「ここから先は、完全に王だけの話とさせていただきたい。

 各国の書記官殿も退出いただきたい。

 王と『始元の大魔導師』殿のみで。

 ルイーザについてはお疑いの向きもあろうが、通訳の役割もあるので在室を許されたい」

 各王は頷いた。

 うっわ、本当に王様だけの会議にするんだ。



 改めてチテのお茶が運ばれ、5人の王と俺とルーだけが部屋に残った。

 部屋の空気が、重く、怖い。

 いたくないよ、こんな部屋。


 ダーカスの王様が話しだした。

 「これより、腹芸はなしだ。

 『始元の大魔導師』殿は、ダーカスではなく、余個人のためにここで働いてくれたのだ。

 そこにあるのは、前世からの縁。

 『始元の大魔導師』殿は、それをしっかりと覚えていてくれているそうな。

 そのために余に忠誠を誓い、一度たりともそれを裏切ったことはない。

 そして、『始元の大魔導師』殿を召喚したのは、魔術師にあらず、このルイーザ。

 これも異例なこと。

 つまり、これは豊穣の女神のお導き。

 ゆえに、ダーカスはこの富をすべての国と共有するために、今回の会議に至ったのだ」


 「この世界のため、歯に衣着せぬ話をしよう。

 リゴスは、今の言が嘘と断じる証拠を持っている」

 ……リゴスの王様、とんでもないこと言い出したな。

 「嘘とはどういうことか。

 余は、嘘などついたことはない」

 さすがに、ダーカスの王様も気色ばむ。


 「まずは、『始元の大魔導師』殿の前世がこの世界であることなどありえぬ。

 なぜならば、リゴスでも『始元の大魔導師』の召喚を試み、一応の成功を見たからだ。

 だが、我々は召喚には一部しか成功していない……」

 「どういうことか?」

 そうだ、どういうことだよ?

 1つ目が、前世うんぬんっていう俺のでっち上げ話が、なんで嘘だと言われる?

 2つ目が、『始元の大魔導師』の召喚を試み、一部成功って。その一部ってどういう意味だよ?

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