第30話 王様会議 2
各王の意見をよしとして、ダーカスの王様が次の議題に進める。
7、大陸全土の発展を確保するための陸水路の充実について
8、輸出入と商業の活性化について
9、労働人口の国家間の流動化と、それに伴うその親族及びその親族候補の移動について
ということで、この3つは密接な繋がりがある。
陸路の街道の整備については、各国が自国の領土内の整備を行うことで決定した。
ついでに、この道路の規格は、共通単位を導入する初のケースとなることもだ。だって、国境で道路の規格が変わってしまったら困るからね。
で、荷車の生産についての基本的ノウハウについても、エモーリさんのところの情報が公開されることになった。
ただし、エモーリさんのところと全く同じものは作れない。知的所有権の問題があるからね。各国で、自分のところの風土に合わせたものをつくるということで話はまとまった。車輪の大きさとか、地質とか、斜面の多さで変わるから、と。
ただ、それでも車軸の幅はエモーリさんの基本設計を共有する。荷車の長さの上限なんかは、別個に定めると。そうでないと、規格化した道を曲がれない、すれ違えないってことになるからだ。
これに海路を足せば、相当の流通量を確保できるだろう。
で、船については、ちょっと紛糾した。
というのも、未だダーカスに、胸を張ってこれだって出せる船がないことが原因。試作品に乗ってきては貰ったけど、これから魔法に頼らない航海術と漁業での操船を編み出さないといけない。
それができてから各国に渡す方が良いんじゃないかって思うんだけど、他国からしてみればダーカスの海運の独占に映るんだよね。
これは、平たく言えばダーカスがズルいっていうことになるし、安全保障上の疑念を抱かれる問題にもなりかねないって。
確かに、いくつもの国で、同時に航海術を開発した方が効率は良いと思う。
すったもんだしたけど、結局エモーリさんの船の同型船であれば、またまた造船できるということで、ダーカスで各国への最初の数艘は作ることになった。人についても、各国から4人ずつくらいを交代交代に船に乗せ、教育することになった。ま、船は結構な値段になるらしいので、ダーカスとしてはウハウハらしい。
ね、王様、こういうときに、ウハウハのポーズが出ちゃったらお下品でしょう?
だから止めとけって言ったんだよ。
で、造船された船は各国に曳航されて、それ以後はそれぞれの自助努力に期待することになる。
それとは別に、最初の船舶定期便はサフラ東岸からダーカスのトーゴ、そしてブルス経由でエディの都の脇を流れる川の河口の街まで。さらにそこから、リゴスの都の脇を流れる川の河口まで。
そこを行ったり来たりすることになった。
船の搭載量はとても多いらしいので、これによる新たな商売が、絶対できるだろう。
ともかく、これについても、各王は承認ということになった。ついでに、航路自体もダーカスの独占ではないということで、他国が同じ経路で輸送をすることも問題ないと取り決められた。
さらに、交通ではもう一つ。
ゼニスの山を貫通する、トンネルの掘削について。
これについては、最初はダーカスとエディで勝手に決めてくれって感じだったんだけど、リゴスの王様の一言で一気に白熱した。
「そこにトンネルを掘るとなると、陸路の大陸横断軸が完成する。
ダーカスからリゴスまでの直線路ができるわけだからな。
となると、縦断軸も考えないと、ブルスとサフラは取り残されることになるな」
これで、一気に大騒ぎに近い状態になった。
ブルスは、海路があるからまだいい。もともと海洋民族っぽいし。もっとも、沿海の、だけど。
でも、サフラは完全に取り残される。ゼニスの山を北に迂回する道は、誰も通らなくなるからね。
で。
9、労働人口の国家間の流動化と、それに伴なうその親族及びその親族候補の移動について
をふっ飛ばして、
10、ダーカス・サフラ戦争の戦後処理にかかる各王からの承認について
の検討になった。
「ダーカスが戦勝をもってサフラを保護国とするのであれば、ダーカス・サフラ間の交通のみを考えればよいではないか」
って、エディの摂政さんの言葉。
たしかに、その言は一理あるのは解るよ。
だから、ダーカス・サフラ戦争の後始末の承認の方が先なんだ、と。
北にあって、魔素流に焼かれなくて、自然資源はある。
でも、寒くて食糧生産に不利。よせばいい戦争をして負けちゃった。
それだけで、ここまで疎まれちゃうのか。
サフラの前王が、必死だったわけも解るなぁ。
それにだけど、サフラの産物もダーカスが一手に買っていたからね。エディからしてみれば、サフラから買えなくてもリゴスから買える。立地的に、輸送経費も変わらない。
リゴスも、自国で生産できる資源とサフラの資源は重なっているから、特にサフラに未練があるわけではない。
可哀想に、サフラの若い国王は真っ青になった。
ブルスの国王夫妻より若い、俺からして見たら、高校生ぐらいにしか見えない若い王だ。
「まぁ、仕方あるまい。
豊穣の女神に逆らうとは、浅慮が過ぎた。
判断の誤りで国を滅ぼすは、王の失態。
今ここに席があるだけでも、ありがたいと思わねばな」
リゴスの王様が、冷たく言い放つ。
それを聞いて、他の王たちが笑った。
戦争に負けるって、そして、思惑が総てうまくいかなくなるって、こういうことなのかって思ったよ。
でも、その一方で、不思議にも思った。
リゴスの王様、今まで俺が見てきた姿から、こういうことを言う人とは思わなかった。
もしかして、この言葉は、何か含みがあるのかな。
含みがあるとすれば、言うことと意思は逆のはずだ。
リゴスからすると、サフラは助けたいんだ。
リゴスからすると……。
リゴスからすると、ダーカスが怖い。そういうことじゃないだろうか。
ダーカスがサフラを飲み込んで、国力を充実させたら、この大陸の二大国家が国境を接してにらみ合うことになる。
そんなことだろうと思ったんだけど……。
「『始元の大魔導師』殿を、大公位に推すとかという話を聞いている。
大公になっていただいても、統治する土地がないでは済まぬ。
ダーカスの王よ、サフラをダーカスが統治するのではなく、いっそ、『始元の大魔導師』殿を君主に据え、新王朝を拓いてもよいのではないか」
……えっ!?
俺!?
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