第19話 テロ対策からのー
正直言って、王様が俺の身の安全を考えてくれていることはとてもありがたい。
でもね、電気工事士だからね、絶縁体がなくなる恐怖ってのもありはするんだ。
今はまだ、いよいよならばリゴスの高価なゴーチの木の樹液が使える。
でも、来年以降のことを考えると、この大陸全域を安全にするなんてことは夢のまた夢になっちゃいかねない。
俺も頭を使って考える。
一応、「帽子の台」ではないつもりだ。大して良くはないにしてもね。
今の状況だと、ケナンさん達に護衛して貰うわけにはいかないだろう。ようやくエフスの統治が形になってきたところだからね。
あと腕っぷしの強さで信頼できるのはデミウスさんだけど、そちらもトーゴで大変だと思う。
となると、ミライさんと俺、そしてルー。この3人で、絶対安全に行ってこなきゃならない。
で、そもそもなんで俺なんだろ?
コンデンサの使用にしても、俺にはなにもできない。コンデンサの魔素をミライさんに移すことすらもできない。
それなのに、俺を呼び寄せて殺したとして、サフラにとって感情を満たす以外のなんの得があるんだろう?
この大陸の国々のすべてが敵に回るのは確実だし、そこに当然のようにメリットはないよね。
「なんで、私に来て欲しいんでしょうね、サフラの新王は?」
思わず、そう口をついて出た。
「『象徴』、であろうな」
と王様。
「なるほど」
と、ルー。
すぐに「どういうこと?」って聞くと、自分が馬鹿みたいに見えるのは判るから、それを聞くまでの間に自分でも考えてみる。
俺が象徴っていうのは……。
そか、そか、解かったぞ。
サフラは戦争に負けて、王がすげ替えられた。
その新しい王様は、今度の
となると、そんな状況の中で、1つの国内産業が元気を取り戻せるように、ダーカスの協力の約束をとりつけてきたってのは、サミットで得たサフラ新王の得点だ。
で、ダーカスの協力の象徴が俺なんだ。
つまり、サフラ側から見たら、こう見える。
ミライさんに対して本当に申し訳ないんだけど、「サフラに対するダーカスの協力の証として庭師が来た」だと、ちょっと残念だよね。
まったく同じことなのに、「『ダーカスの王友にして国柱』が率いる協力使節団が来た」の方がありがたみがある。
新王の権力を盤石にする道具として、俺が欲しいんだな。
「ならば、いっそ規模の大きい協力使節団を準備して、サフラの王宮を乗っ取りましょう」
そう提案してみたけど、王様は首を横に振った。
「ダーカスの行政は、どこも大車輪で働いておる。
だがその実態は、人口800人規模の、収穫の女神を祀る小国のものなのだ。
たった1年で3000人にも膨れ上がることが見えている、そんな規模に対応する力はそもそもない。
かといって、王宮に勤める者をいきなり他国に求めるわけにも行かぬ。
余は、学校を作っておいてよかったと、胸を撫で下ろしている。
学校を出たら、全員をまずは王宮務めをさせることもやむをえまい。それほどに、今は人手に困っている。
その中で、10人も20人も人手を裂いて、サフラに往かせられぬのだ」
そか。
チャンスではあっても、活かせる態勢もないのか。
俺の配下であっても、船乗りチームは
食料調達の意味もあるけど、それ以上に肥料をなんとかしないとなんだ。これは来春から始まる農業に、絶対不可欠。
もうひとつのサヤンの架線ケーブル設置チームは、国交使節としてはあまりにガラが悪い。まぁ、俺だって良い方じゃないから、偉そうなことは言えないけど。
でも、アレよりはマシ。
さて、困った。
……。
……ちょっと自分からは言いにくい案だな、コレ。
「私が行けば、国交の使節協力団として目鼻は付くんですよね?」
そう切り出したよ。
「十分過ぎるほどだ」
と王様の答え。
「では、私が3人とか4人とかならばいかがでしょうか」
「ん?」
王様がさすがに怪訝な顔をした。
でも、ルーは俺の意図を一瞬で理解したみたいだ。
「ミライと私、あと王宮書紀の偉い方で、全員で変化の魔法で『始元の大魔導師』に化けるんですね!?」
「そうです。
これで、私が行ったことになる。
サフラのハネカエリは的を絞れない。それどころか、本物は来ていないんじゃないかという疑念を捨てきれなくなる。
サフラの、ゴーチの木を救う仕事はできる。
どうでしょう?」
王様、難しい顔になった。
ダメかな?
「その案は問題がある。
『始元の大魔導師』殿が複数というのは、如何にもサフラを疑っているように見えるのだ。これは、サフラのダーカス融和派の心象を害しかねない。
……だがな、しばし待て」
……王様、考えてる、考えてる。
「余、自らが行こうではないか。
トプを同行させる。
トプは、余に化ける。
余は王宮書記官に。
王宮書記官はそのままが良いであろう。書記が2人というのは、極めて自然だ。
ミライは『始元の大魔導師』殿に。
『始元の大魔導師』殿とルイーザは非常時のためにダーカスに残るように」
うっわ、自分が行けば、『始元の大魔導師』は襲われる対象になるリスクが減るって考えたんだな。
で、植物治癒は、『始元の大魔導師』でもできるって話にするのか。
即、ルーが反対した。王様の案なのに。
「お待ちを。
その案ですと、持ち込んだコンデンサの使用があっても、ある程度以上の魔法を使える者がおりませぬ。
サフラ滞在中の変化の魔法の掛け直しも含め、最低1人は魔術師が必要です。
しかし、魔術師は国の要。
私の同行をお許しください」
「余も、いささかの魔法は心得ておるぞ」
「……我が王よ、実は行きたいのではありませんか?」
思わず、口から出た。
出してしまってから、もう少し言いようはあったな、なんて思う。
「物見遊山のつもりはない。
ただ、彼の国の実情を、余自らの目で見ておきたいのは事実」
……初めて思うけど、この人、嘘ついてる。
「我が王よ、我が王は、外遊の経験はお有りなのでしょうか?」
「ない。
ダーカスは豊穣の女神を祀る小国ゆえに、他国を訪問するにあたって用意できる土産などないからな」
土産ってのは、外交的なアドバンテージを与え合うことだろうな。関税自由化なんて言葉だけは、俺だって知ってる。
もしかしたら王様、人生初めての外遊なのかも知れない。それどころか、今までダーカスの街から出たこともないのかも。
俺の変化の魔法って案で、「その手を使えば、もしかしたら余も外国にも行けるかも」なんて思ってしまったんじゃないだろうか?
……王様って辛すぎるなぁ。
せめて一回くらい、旅行には行かせてあげたいよ。
「もう1つ手を思いつきました。
我が王よ、
その一環としての、サフラ訪問とするのです。
各国の技術者に、
各国の技術者は、答礼訪問の際にそれぞれの国で解散となりますが、その直前にもっとも必要な、我が『電気工事士としての知識』を与えることにするのです。
これは、王の玉体を含め、ダーカスの使節団全体の安全を保つことになるでしょう。
サフラに対しても、他のすべての国から自重を求める声が届くでしょう。
その声を無視し、ダーカス王と『始元の大魔導師』に害を及ぼしたら、サフラは滅びます。加えて外遊中は、変化の魔法も併用すれば、さらに安全でしょう。
その一方で、サフラは全部の国の技術者をもてなす機会を得ます。これは、上手く行けば、サフラの新王の外交上のさらに大きな実績になります。
そして、各国周遊ののち、最後にブルスの港から船でダーカスに帰国すれば、安全は完全に保てるのではないでしょうか。
船の使用計画も、ブルス往復だけであれば数日で済み、そう問題ないと思います」
王様、あなたが個人的な欲を満たすことで、これほど喜ばれる姿は初めて見ましたよ。抑えきれなくて、表情に出てしまうのですね。
あなたも、たまには、良い思いをされるべきなのです。
俺、柄にもなく、そんなことを思ったよ。
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