第20話 外遊
「『始元の大魔導師』殿。
王友として相応しき案、感謝する。
余も見聞を広めておかねば、この先の時代の流れに乗ることはできぬ。
今の案、全面的に取り入れよう」
王様の判断で、決定。
となると、俺の責任も生じる。なにがあっても、王様の身は守らないと、だ。
ルーが言う。
「王が行かれるのであれば、
学校より、優秀な子の留学について相談があったはずです。その子達も連れていきましょう。奨学金については、我が子爵家で出したいと思います。
また、『始元の大魔導師』様がダーカスにいることから、こちらへの留学希望者がいることも考慮せねばなりません。
加えて学校だけでなく、現在サフラ国境の
特に、最年少の魔術師に関しては、なし崩しに予定が伸びているのではなかったか、と。
サフラから魔術師が
そろそろ他の2人の魔術師にも、
王様、頷く。
確かに、王様自らが連れてくれば、その留学生は大切にされるよね。
大臣も口を開いた。
「ルイーザの言うとおりです。
せっかくの二国間協議の場です。
商人組合のティカレットも同行させましょう。
ダーカスの物品を薦めて売り込み、さらに船舶交易に繋げるのです。交易に掛かる輸送費で、さらにこちらは潤います。
その商談の際に、多少の問題はあるにせよ、ティカレットの抜け目のなさは買えます。
また、これは他国の物産の輸入にも有利に働くでしょう」
これにも、王様、頷く。
大臣はそれを見て、さらに続けた。
「ルイーザよ、エモーリを始めとするダーカスの物産を作る者たちに、サンプル製作を依頼しておいて欲しい」
「はい、解りました」
「私はダーカスで留守番となりますが、道行きはお気をつけを。
外遊中の王の身になにかあれば、私に王位が転げ込むのは歓迎すべき事態」
えっ!?
「大臣、その軽口は、余と2人だけのときという条件があったではないか」
「今ここにいるのは、王友とその婚約者ではないですか。
なんの遠慮が要りましょうぞ」
ええっ、2人で密かに、そんな漫才やっているのか?
やめてくれよ、マジでびっくりしたよ。ルーだって、一瞬顔色が変わったもん。
「所詮はいとこ同士よ。
歯に衣など着せても始まらぬ。
大臣、たまには本気で聞こう。
王位を望むか?」
「苦労のない王位であれば、良いでしょうなぁ。
我が王よ、すべての仕事を成し遂げ、すべての憂いを片付けたのちには、私に禅譲なさるがよろしい。
ただの1つでも課題が残るようであれば、御自らの子息に譲り給え」
「随分と、無茶を言う」
「『始元の大魔導師』殿の大公位についても同じこと。
王と苦労を分かち合い、すべての問題が片付いたら、是非、お譲りいただければ」
ずいぶんと酷いことを公然というなぁ、この人は。
まぁ、もしかしたら、王様が気持ち的に追い込まれずにいるのは、この大臣の軽口のおかげなのかも知れないけどね。
「軽口以前に、大臣。
そちもそろそろ嫁をとらねば、家が断絶してしまうぞ」
「前にもお話したとおり。
我が家は、断絶するがよろしい。
その後は、我が家の財産は国庫に入れ、そこから我が名をつけた奨学金か産業振興の資金の1つでも作ってくれればそれで良いかと。
非才の身では、それができることの精一杯。
王の子が優秀であらせられる以上、我が身にそれ以上は不要」
……ああ、「王様の横に立っているのがこの人の仕事」なんて思っていて、本当にごめんなさい。
この人はこの人なりに、いろいろ考えていることがあったんだねぇ。
王様が、つぶやくように言う。
「まったく、王家の維持をなんと考えておるのやら。
あまりに頑ななようならば、そのうち王命ということで、いずれかの女性と抑えつけてでも婚礼をさせてくれるわ」
「そのようなことになったら、リゴスにでも亡命しますかな。
それとも、せっかく船もできるようですし、他の大陸に逃げてもよろしい」
これは平行線だなぁ。
「『始元の大魔導師』殿。
大臣は先々の考えとして、大臣家を撤廃し、大臣家の収入を国庫に入れ、また大臣家のための国庫支出をなくし、その分ダーカスの財政を豊かにしようと考えておるのだ。
大臣位は家系でなく、実力で任命すべきだと言ってな。
そのようなこと、余が喜ぶと思うてか」
「では、十分に豊かになれば、大臣も結婚するんですよね?」
そう確認をしてみる。
でも大臣、首を横に振った。
「それだけではない。
ここに『始元の大魔導師』殿がいらっしゃるので、王にも我が思いを伝えておこう。
世の中とは、王の地位を求め、親兄弟とも殺し合うものだ。
私に子が生まれ、それが、王の子と争わないという保証はどこにもない。
また、我が子ができたとして、それが私以上に愚かである可能性もある」
「王とともに手を携え、王道楽土を築く可能性もありますが……」
と、これはルー。
「私が大臣として、実務のトップであり、日々非才を自覚している身でなかったら、その言葉も解るがな。
そうだ、ルイーザ。
そなた、大臣になってみないか?」
……だめだ、こりゃ。
ルーが負けたよ。
本気を出したら、この人も相当のタヌキだ。
なんか、ため息をつくにつけない状況に追い込まれた中で、王様が強引に話題を戻した。
これは、あとで、2人きりのときに突っ込んだ話をするのだろうね。
「それでも、外遊の際には、1つ問題が残るな。
サフラに与える飴よ。
ゴーチの木の樹勢復活という一つの産業にとどまらない、誰もが感じる具体的な飴はないか?
かつ、反ダーカス派が萎えるような飴があるとよいのだが……。
これを与えたことは、交渉上、他国にも効く」
ルーが答えた。
「あると思います。
現在ダーカスで形になりつつある公衆浴場ですが……」
「なるほど、彼の国はダーカスよりはるかに寒い。
良い手ではあるな」
「ブルスも、ダーカスより暑き国ながら冷水の行水のみのはず。
そのような国でも、入浴の習慣は良き結果をもたらしましょう」
「で、あるな。
ただ、サフラ以外の国に対しては、与えすぎという気がしないでもない」
「そこは、ティカレットの腕に期待しましょう。
商売上のなんらかの譲歩を引き出す手として、存分に活用させればよい」
と、これは大臣。
「よし、では基本はその線で行こう。
そして、
準備は怠るな。
それから、公衆浴場、先程の案の交渉で使うのであれば、最初の客は各国の王でも良いな。
それまでに完成は見込めるか?」
「すでに建造に入っております。
給排水がすでにあるのは強み。
そう掛からずできあがるでしょう。
シュッテさんにはそれまでに完成が可能か確認をし、ルイーザを通じて王に報告いたします」
これは俺が答えた。
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