第17話 造船 1
いよいよ、ヴューユさんとデリンさんが到着した。技術監修のエモーリさんと、船に乗る予定の16人もだ。
漁労長になるかもしれないバーリキさんも海辺から来ているし、トーゴ全体でのお祭りみたいだ。
やっぱりここ、水田地帯で、港があって、って先々の発展が約束された地だよね。
5年後、10年後はネヒール川の港より下流側の、農地にならない湿地帯は、埋め立てが進んで工業地帯になっていくのかも知れない。
石工さん達の手で、火山灰コンクリートが捏ね上げられだした。
捏ねたあと、船の舷側までそれを持ち上げるのは大変だということで、足場を汲んでその上で作業している。
同時に、石のかけらも大きいものは砕かれて、大きさが揃えられていく。
多孔質だから、きっと火山灰コンクリートの食いつきはいいんだろうな。アルミ製のメタルラス(コンクリートの鉄筋等に使う金網)までは、ダーカスの工業力では期待できない。でも、金も鉄も、船に使うにはイヤというほど重いからね。
けど、この石材はなによりもまず水より軽いから、これで強度を保つのは悪い結果にはならない気がするんだ。
いよいよ、着工だ。
台車を縦に2つ並べて、そこで1艘の船を作る予定だったんだけど、土壇場でヴューユさんが、予定とは違う提案をしてきた。
材料は大量にあるようだし、台車が2つあるなら、同時に2艘作らないかって。
「それはいいけど、そんなことできるのかな」って思って、エモーリさんに聞く。
2艘同時に作るのであれば、台車が船の自重を支える場所も半分になってしまうからね。つまり、「台車が船を点で支えることになって、そこから船が折れちゃいませんか?」って心配。
エモーリさん、唸り声を上げて腕組みする。
そしたら、ヴューユさんから、あっけらかんとした声が返ってきた。
「2つ大丈夫な理由があります。
1つ目ですけど、石材の規格ブロックはほとんど終わりですけど、港の外に灯台でしたっけ、それを作るための長尺の石材が何本もありますよね。それ、ケーブルシップで運ぶために、特に軽い石材を選んでいるのでしょう?
それを船の長辺の真ん中に据えれば、相当に頑丈になると思うんですよ。資材も節約できて、しかもより浮きやすくなりますからね。まぁ、軽いものを底に据えるとかえって不安定になるでしょうから、甲板側の方がいいかも知れませんけど。
灯台用の石材は、ケーブルシップで手紙を届ければ、またトーゴに運ばれてくるでしょう?
灯台の土台工事に1日の遅れは出ますけど、それで船が2艘になるならばよくないでしょうか?
さらにもう1つの理由ですが、コンクリートの流し込み型を作るときは、魔術による型が全体を支えますから、ぜんぜん問題ないでしょう。
それから、型を外して、仕上げのコンクリートの塗りをするときは、重量を支えるつっかい棒をすればいいだけではないでしょうか?
電柱の予備10本ほどがストックされているのを見ましたけど、丁度いいサイズですよね。
それに、そもそもエモーリは、ものすごく頑丈な設計をしたって聞いているんですけどね。
波の天辺に持ち上げられて、船の前後が空に浮いても大丈夫って聞きましたよ」
そうか、そんなに頑丈なのかぁ。
ただ、波の上で船の中央のみで重量が支えられて、舳先と艫が空に浮くことはあっても、その状態が長時間続くこともないと思う。
でも、舳先から艫まで、完全ではないにせよ通しで1本の石材が入って、さらにそれを支えるつっかい棒を設けてくれるのであれば、問題はないよね。
で、シュッテさんの話だと、この火山灰コンクリート、時間が経てば経つほど丈夫になるらしいし。
「ま、筆頭魔術師様のいうことは、そのとおりですね。
ダメとは思えない。
2艘、行ってみましょう。
長尺材は船の芯になるように、隔壁部分に埋め込んでください」
そう、エモーリさんのオッケーが出た。
じゃあ、ヴューユさんの提案どおり、2艘を作って、片方が壊れたらそれは破壊試験ができたって割り切ってもいいね。
2艘の工程をまったく同時には進められないだろうから、壊れるにしても同時じゃない。つまり、壊れたら、残された方はその壊れた場所を補強して、工程を進めればいいんだ。
火山灰コンクリートで作った船は、多孔質の軽い石材を骨材に使うことで、形状に依らずに水には浮く浮力を期待されている。つまり、補強のために壁厚が厚くなっても、積める荷物が減る以上の問題はないだろうさ。
それに、最初の1艘がいきなり海上で壊れちゃ困るから、こういう安全係数はいくら掛けてもいい。
ただ、そもそもとして、エモーリさんの設計がそれだけの安全係数をすでに掛けていたら、2艘とも問題なくできあがることになる。
やっぱり、それはそれで問題ない。
つまり、どちらに転んでも、取り返しがつかないほどの事態にはならないんだよな。
「石工さん達はその案でいいでしょうか」
って、俺が聞くまでもなかった。
せっせと火山灰コンクリート、捏ね足してるよ。
たしかに、石工さん達からしてみれば、ただでさえ忙しいんだから、一度で2艘作れるなら、それにこしたことはないだろう。集団でわざわざトーゴに遠征しないといけないのだから、より面倒くさくない方がいいのだろうし。
一部始終を見ていた、王宮書記官さんたちが、事情説明と石材の再運送の手紙を書いてくれた。
これで、灯台の基礎工事もリカバリ完了。
デリンさんが、目をつぶって、頭の中のイメージを固めだす。
これも、いきなり完成形を作るのではないらしい。まずは一番の外の型枠を作り、そこに砕石と火山灰コンクリートを流し込む。
人海戦術で泡を抜いたら、内側の型を沈めていくそうだ。
デリンさんの複雑な形状を可能とするイメージ力と、ヴューユさんの精密な見切りの力、そして、空間の力を引き出す魔法の特質によって、こんな芸当も可能になるんだ。
そのうちに、魔法抜きでもこういったこともできるようになるだろう。
でも、今はこういう手段に頼ってもいいかなって思うよ。
なんせ工業力が増したら、木造船、鉄の船と進化していくはずだ。コンクリート船はあくまで一時的なものなんだし。でも、これがないと交易の開始ができないし、肥料や塩も補給できないからね。海について知ることも、後回しになってしまう。
この世界でのチートといえばチートだけど、あくまで間を繋ぐためのものだから、魔法に頼り過ぎとも言えないんじゃないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます