第16話 造船準備完了


 翌早朝、トーゴに港の横に、ガントリー台車が備え付けられた。

 で、石工さん達がトーゴの石材ストックから、重さがかかっても台車の車輪が砂や泥に沈まないように、簡単な石畳を水辺まで即席で作ってくれた。

 村の建物だなんだかんだで、大量の石を継続的に使うから、ケーブルシップの荷の少ないときはひたすら石を運んでいたみたいだ。とはいえ、量的には大したことない。まだまだ、こんなところにも手は回りきってはいない。


 それでも思うんだけど、みんな、それぞれ頑張っているんだなあ、と。

 ダーカスで王宮書記官さん達に報告を受けたみたいに、教えてもらわないと全容が分からなくなってきたよ。

 これってつまり、ダーカスの発展が全方向に向かっていることと、それによって俺の重要性が減っているってことだ。

 卑下じゃなく、本当にいいことだと思うよ。

 俺一人に頼る世界なんて、絶対に間違っているからね。


 きっと、王様も、権限移譲することの意味、痛感しているかもしない。1人の人間がすべてを知って、その調整をするなんて限界があるからね。



 で、石工さん達は、自分達の作った港の石畳があまりに綺麗に管理されているのに感動して、作った甲斐があったって大喜びした。

 いや、ここ、藁半紙を作る工場に流用しちゃっているからね。灰汁で煮た藁を砕くのにもじゃりじゃりすると困るし、よくよく綺麗にしておかないと、紙に砂粒が混じるんだよ。

 石工さん達にはあまりに申し訳なくて、トーゴの人達が口籠ってしまったので、俺からきちんと説明したよ。


 そしたら、石工さん達、「水くせぇなぁ」だって。

 「壊したわけでも、使わないわけでもない。船が動く前に石畳を使うから綺麗にしてくれているってのは、作った私らからしたら感謝しかないですよ」

 だって。


 で、藁半紙の現物を見て、その工程も聞いて、提案してくれた。

 もっと高水準の平面に磨きあげた、石の作業台を用意できるって。紙の仕上がりの滑らかさの桁が違うはずだってさ。

 それに加えて、藁の繊維をほぐす大きな石臼だって、複数用意できるって。「で、『始元の大魔導師』様お得意の水車と組み合わせれば、ずいぶんと楽になるでしょうよ」って。


 参った。そのとおりだよ。

 で、ちらっちらっと俺の顔見るのは、「高いけど作るよね?」って確認だろう。

 で、銀貨なん枚よ?

 こっちも乗りかかった船だ、頼むよ。

 シュッテさんと相談して、日程もやりくりして、早めに上手くやってくれよ。

 それでもって、儲けて、石工御殿を建ててくれ。


 で、エモーリ工房の人達、水車も頼むよ。立地も含めて検討してくれよ。

 そう声を掛けたら、こちらも「鍋も用意しませんか」ときた。

 灰汁は洗濯にも使うけど、目に入ると危険。長く触れていると、そこの皮膚もダメージを受ける。

 特に、鍋をひっくり返すとき、熱々の灰汁が飛び散って危険だから、きちんとした安全なものを作った方がいいって。特に、飯を作る鍋の流用じゃ作業性に限界あるし、紙を作るときは飯が作れないじゃないかと。


 ま、そのとおり過ぎて、ぐうの音も出ないよね。

 よろしく頼まぁ、と。エモーリさんが着いたら、そのあたりもよく伝えてくれ、と。

 そして、実際に作業するデミウスさん達ともよく相談して、使いやすくて安全なのを作って欲しいよ。


 本当に、さっきの繰り返しだけど、この世界の人が自主的に改良して発展させていくのは本当にいいことだ。よろしくお願いいたします。

 


 − − − − − − −


 港の石畳の横には、大量の石の破片と、火山灰の混合物がシートを掛けられてストックされていた。

 石の破片は、湿気ないようにというか、湿気ていたものを乾かすように広げて置いてある。

 火山灰の混合物は、大量の白い粉とか混ざっているけど、俺にはそれが何か判らない。石工さん達のいろいろなノウハウの塊なんだろう。

 ともかく、これが材料になるわけだな。


 さらに、ダーカスから運ばれた錨とか、帆柱にする木だとか、革で作った袋だとか、ロープの類だとか、いろいろなものが山になっている。

 どれも、結構な量があって、プロジェクトとしての大きさと優先度が判るよ。


 朝一の便で、ヴューユさんとデリンさんがダーカスを出発する。エモーリさんと俺の配下の16人もだ。朝一の便は日の出と同時だから、おそらく、到着は昼前。

 だから、それまでにできることは、全て済ませておきたい。


 俺は、トーゴの円形施設キクラの制御に成功した、魔法の自動化装置と同一のものをセットする。

 ただ、蓄波動機自体はエモーリさんの工房の人も手伝ってくれて2つ設置したし、それらを交互に動かしながら、コンクリートが固まるまでの時間をやり過ごす予定。ヴューユさんの魔法を記録するのも、記録筒に同時に2か所とするから、計で4か所で魔素の波動が保存ができる。

 繰り返し繰り返し再生していたら、たぶん、最後まで記録筒の溝が鈍って持たない。だから、記録は録れるだけ録って、順番に使っていくんだ。

 このあたりも、エモーリさんの工房の人がうまくやってくれるよ。

 そして、これで得たノウハウは、公衆浴場というか、健康ランドで自動的にお湯を沸かして管理するノウハウと併せて、すべて円形施設キクラシステムに還元されるだろう。

 これで準備は完了。


 さらに時間がまだあったので、それから俺、その日の午前中を使って、トーゴに設置済みのアンテナと、架線ケーブルの接続を完了させた。

 これで魔素流に対して、ダーカスからネヒール川沿い、そしてトーゴ全域までが完全に安全な場所になった。

 そして、膨大な魔素のエネルギーが、ダーカス以外でも安定して供給されるようになったんだ。


 我ながら、大きな仕事をした。これは、人間に居場所を増やしてこの世界を救う、大きな最初の一歩なんだよ。

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