第13話 ダーカスの現況 2
その次は、タットリさんも場に参加して、話してくれた。
野菜類も、朝晩寒くなってきたとはいえ、まだ相当に収穫されて食べられている。王様会議の晩餐会用の野菜も、大切に管理されている。
けど、同時に種子採りも始まっていると。
カボチャみたいに、種子と食べる部分が別の野菜はいいけど、トウモロコシなんかは相当に葛藤があるそうだ。1粒でも多く種子を取りたいって思いと、少しでも食べたいって思いと。
で、俺の持ち込んだ中で、特にコシヒカリとニンニクがその葛藤の代表みたいになっていて、俺の身にも降り掛かってきた。
タットリさんの参加は、この説明のためだったんだ。
コシヒカリ、単に炊いて食べるのであれば、やっぱりこの世界のイコモとは一線を画す美味しさなんだよ。ピラフとかだと、イコモの方が美味しかったりするんだけど。
で、今年の収穫の献上だって、タットリさんから袋に入った一食分を渡された。ま、一合くらいかな。
なんだかんだ言って、そこそこ収穫は確保できたって。
で、感謝と米への懐かしさと、「なんでこれっぽっちなの?」ってのに一筋涙がこぼれたところで、王宮書記官さんにすごーく申し訳なさそうに言われた。
「トーゴの水田だけでなく、ブルス、エディ、リゴスからの引き合いもあって、残りは来年の種子に回したいのです。
ご存知のとおり、芋以外の主食になる作物はあまりに貴重なので、世界に広げておきたいのです。
なにとぞ、お許しいただけないでしょうか?」
だって。
それも、ほとんど平伏しながら。
そう言われたら、ダメとも言えないじゃん。
……ホント、ダメとも言えないじゃん。しくしく。
米は、蒔いた量の400倍ぐらいは収穫できたらしいけど、この世界のサフラを除く大陸中から引き合いが来ていて、みんな持っていかれちゃうみたい。
味見もできないのに、なんでそんなに熱心なんだか。
というより、それほど切実に欲しい物なのかな、炭水化物源。
でも、サフラだけは寒くて作れないって、欲しがらなかったらしい。
ただ逆に、これから種播する麦には色気を見せていて、俺が持ち込んだ種子の4分の1くらいは持っていくって。
で、俺が認識せずに買ったのか、買ったのを忘れているか、ルーがいつの間にか買った犯人なのか、そのどれかは判らないんだけど、ライ麦の種子もあったみたい。これは、このままそっくりサフラに行く、と。
ライ麦は寒いところで穫れるし、黒パンになるそうだ。
「柔らかくって甘くっていいやね」って言ったら、「ええっ?」ってことになった。
固くでボソボソで、上手く作らないと必ずしも美味しくないって。でも小麦と混ぜて上手くパンにすると、健康によくて、とても美味しいって。
どうも話が噛み合わないので、食品関係のレシピ本見ていたら、俺が言っていたのは黒糖パンってことが判明した。
ああ、近所のベーカリーに売っていた、あのクリームが挟んであった黒いパンは、黒パンじゃなかったんだ。1つ賢くなったよ。
で、偉そうに「柔らかくって甘くっていいやね」と言っちまった俺を救ってください、神様。
そして、「『アルプスの少女ハイジ』、読んでないんですか?」って、責めるのやめろ、ルー。
知らん。そんな話は、知らん。
で、麦類の種子、今やサフラはダーカスの属国だから、渡さないわけにも行かないと。
まぁ、サフラが豊かになるのはいいことだよ。
で、タットリさん、もうダーカスでは米は作らないって。あまりに水がもったいないからって。
でも、トーゴの開拓組の長のパターテさんが、コシヒカリの栽培は受け継いでくれるそうだ。「ここは土地も適しているし、来年には、きっと、もっと好きほど食べさせてあげられますからね」って言っていたって。
俺、一合の米を胸に抱いて泣いたよ。
一合の米を種子にして、400倍になったら来年には40升になる。60kgだよ。
おずおずと、差し出しましたよ、一合の米。
ミス○のじいさんみたいに、「今日より、明日なんじゃ」って言いながら。
このセリフ、こんなに実感が籠もるものだったんだ……。
で、ニンニクは、もっと悲惨。
俺、10玉くらい持ち込んだんだけどね。
今、芽が出ていて、来春から来初夏には収穫できるそうだけど、その見込み量は60玉、どれほど良くても80玉だって。
で、1つも食べさせて貰えないみたい。
再来年で360玉、さらにその次の年で2160玉。そんなところだ、と。6倍から6倍が精々で、8倍から8倍になっていくのは期待しないでくれ、だって。
しかも、たくさん肥料が必要らしい。
なんで1年で6倍にしかならないんだよ。そんなのありかよ。
他国まで分けるってなったら、いつ食えるんだよ。
俺の世界だと、あんなに売っていたのに、なんでだよ。
そして、なんで1000玉ぐらい持ち込まなかったんだ、俺のバカ、バカ、バカ。
もう、種子採って、蒔いてみるってのに期待するしかないよ。
ああ、この世界、去年よりははるかに豊かになったけど、まだまだ社会を覆う薄皮一枚分でしかない。
来年、再来年と増やせて行けて、ようやく本当に豊かさが来るんだ。
さらに、フードセキュリティとか備蓄とか、そんなのまで考えだしたら、早くても5年先とかになっちゃうんだろうなぁ。
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