第12話 ダーカスの現況 1


 ガントリー台車を見に行ったとき、エモーリさんから、描き直した船の設計図を見せてもらった。

 いきなり、妙にカッコいい。

 もう、切ったスイカみたいじゃない。

 形に必然があるからってことなのかもしれないけど、本当の帆船みたいだ。

 って、本当の帆船なんだけど。

 舵も、船首の水面下のドーム状突起もある。やっぱりコレですよ、コレ。


 「『始元の大魔導師』様。

 さすがに、このような構造、思いつきもしませんでした。

 ご教示、ありがとうございます」

 エモーリさんに言われて、鷹揚に頷く。

 未だになんのために付いているか俺には解らないけど、きっとエモーリさんは解かっている。

 だから、逃げの一手。

 一応、俺も王宮で探してみたけど、造船の本なんかさすがになかったんだよ。

 ま、俺も、勉強しなきゃだからね。


 ただ、船体はいいにしても、艤装には課題あり。俺の持ち込んだ綿花の栽培はできていても、技術的にも量的にも、帆布やロープまではたどり着けないと。

 今年、綿花の種は大量に確保できたので、来年の収穫でということになるだろうって。

 今年の収穫分の繊維は、ヤヒウの毛を加工する工場で、加工技術開発に使うそうだ。なんか、撚り合わせるとか、織るとか編むとか、気が遠くなる話みたい。

 布ってのは、大変なものなんだねぇ。まったく意識していなかったよ。

 ユニク□かしまむ△でも行けば、そう高くなく買えるものってイメージしかなかった。


 で、今年は仕方ないから、古毛布を継いで、染色して、1枚帆の簡易なものでごまかすそうだ。でも、1年後には、遠洋航海に耐える艤装を目指す。

 王様会議が終わったら、しばらくは漁船だからね。魔法を使わず操船する練習をしてもらわないといけないし、そうなると、1枚帆の簡易な艤装って、基本のノウハウを積むにはいいかもだよ。

 なんたって、今の段階では、ハードな航海ってのは絶対にナシだ



 明日から、俺達はガントリー台車をトーゴに運びながら、架線ケーブルとアンテナを繋いでいく。

 ルーの言っていたとおり、空は高く、天気は果てしなく穏やかで、雨のふる心配はない。1年で一番いい季節らしいからね。

 重いものを運ぶのに足を取られることもないし、工事中に配線が濡れることもない。天気は重要。

 ま、こうでもなきゃ、いくら魔法の助けが多大にあるとは言え、不慣れな船員とできたばかりの船にVIPを乗せようとは思わないよ。


 ともかく、架線ケーブルとアンテナを繋いだ瞬間から、この世界の基準で考えれば、広大な安全な土地が確保されていく。今からだと、冬作物しか作れないけど。

 で、安全な土地ができたからさ、「もっと農業もできるよね」って言ったら、ダーカスの今の状況を王宮書記官さんがわざわざ説明しに来てくれた。

 こういうとき、自分はVIPになったんだって思うよ。



 まず、ヤヒウ飼いのテュズさんの話として。

 当初から考えていたとおり、今年は冬越しの最中でもヤヒウの繁殖は行う予定だって。牧草はサイレージにして確保してあるし、ヤヒウは万年発情期の動物だし、一頭でも数は増やしたいしで。


 テュズさんの親父さんのインティヤールさんの話だと、冬季の繁殖は過去に例がないそうで、こんなに豊かな気持ちになったのは、生まれてはじめてだって。

 あとは、牧草の種子さえ確保できれば、広大な土地を一面牧草にしてヤヒウをもっと増やせる。当然、牛もロバも、みんな、だ。

 なので、種子がついた状態で穂刈りしたそうだ。来春、これを至るところに撒き散らして、魔術師さんに雨を降らせて貰う予定。


 あと、忘れちゃいけないのが、今年のヤヒウの肉質。

 こんなに良質な肉と脂肪は、過去に見たことがないそうだ。ヤヒウも半ば飢えながら育つのと、食べ放題に若草を食べて育つのではここまで違うかと、当然だけど食肉加工の場で騒ぎになったんだそうだ。

 肉が太く、脂肪が甘い。

 これだけで、同じ1頭を犠牲にしても、前より多くの人に肉の分配ができるらしい。前々から捨てるところなく利用してきたけど、それが仕方なくではなく、あまりにもったいないから、になりそうだって。

 あ、俺、相変わらず目玉は結構です。美味しくなったと言われても、辞退します。



 次に、なぜかギルドの2人の受付メイドさんの話として。

 犬は、牧羊犬としてヤヒウ飼いテュズさんのところを中心に、「派遣」がされてる。

 「って、犬は冒険者扱いかよ?」って思ったけど、なんか、そういうもんになったらしい。というのは、軍用犬、番犬、荷車犬、探知犬、愛玩犬と、あまりに目的が多彩すぎて、犬が欲しい人の目的の種類も多すぎて、その手続処理は、毎日ギルドがやっている事務と同じだろうってなったらしい。

 犬も繁殖させているし、出産とかあるから日程調整も必要で、そういうのも冒険者の管理と一緒だろうって。

 まあねぇ。

 確かに言われてみりゃ、そうかもねぇ。

 冒険者を犬扱いしてる気もするけどね。


 で、犬でその事務の流れができたら、猫もやれっていう話になったんだってさ。

 この世界のネズミであるネマラ退治とか、愛玩とかで、ギルドで猫の出産予定とか含めて整理をしている。

 と言っても、犬と違うのは、俺が連れてきた猫はすでに街猫になっていて、今現在、すでに妊娠中。

 いたるところで餌付けされていて、却って健康に良くない。ネマラも獲らなくなる。だから、きちんとした管理をしなきゃで、可愛がるのもネマラ退治も街の街区でローテーションが組まれている。

 猫の身柄を動かす管理ではなくて、猫を取り巻く人の管理なんだってさ。


 こんなに手厚い過保護だと、3年ぐらいしたら街が猫で溢れちゃわないか心配だけど、しばらくはあちこちの都市に貰われていくので、問題はないみたい。

 それより、発情期の猫の声を、文学だか詩だかにする動きがあるらしくて、って、その手の話は俺には解らん。

 あんなん、やかましいだけじゃあないのか?


 最後に鶏もギルドで管理。

 ただし、去勢した雄鶏だけ。

 雌鶏と数少ない雄鶏は、あいかわらず畜産農家で飼われている。

 でも、去勢した雄鶏については、街中で残飯とかで飼って、育てた家で食肉化するという動きが始まっているけど、やはり希望者と雛の数が釣り合わない。

 で、鶏を飼っている農家に抜け駆けして、その仕事の邪魔をしたり、餌で釣って自分ちの庭に囲い込んじゃったり、すったもんだが増えすぎたので、これもギルドで管理事務をすることに。

 去勢鶏の戸籍が作られるみたいで、それはちょっと可笑しい。

 ま、もしかしたら、来年くらいには流通に乗って、目の玉が飛び出るほど高価でも焼鳥が食えるかも、と。もちろん玉子もだ。

 早くTKG食べたいし、イコモで玉子チャーハンもいいよなぁ。



 結局、需要と供給のバランスを取る機関として、市場とは違う機能を持っているギルドは便利なんだろうけど、ここのところ地区長室がときどき動物室になるらしくて、近頃またハヤットさんは、追い出されているみたいだ。

 そのうちに、なんらかの形でギルドからこの仕事を切り離さないと、なんでも屋とか、便利屋になってしまうってさ。

 ホント、またどっかで見た流れだよ。

 とりあえずは、なんでも受けてくれるギルド、本当に便利。

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