第11話 架線終了


 翌朝。

 盛大な歓声で目が覚めた。

 「どうしたん?」

 テントの出入り口に座っているルーに聞く。

 「バカが戦ってます」

 妙に平坦な声で、そう返事が来る。

 ああ、そう。

 相変わらず、言うことがキビシイねぇ。

 ったく、エフスに来てから、表情も声もみんな平坦だよな、ルー。


 テントから出てみると、人の輪の真ん中で、サヤンが自分より倍も大きい男を殴り倒していた。

 ルーが言うには、これで5人目だそうな。

 朝っぱらから……、はぁ。

 これが、彼らの世界の会話なんだろうねぇ。エネルギーが余って仕方ないんだろうけど、そもそも使い途を知らないんだろうなぁ。


 「いいか、よく聞け。

 昨日は、徹底的に負けたけどな。

 それは、相手が悪かったんだよ!

 見ろ!

 俺は、お前らより遥かに強い。

 でもな、ここの領主様と『始元の大魔導師』様は次元が違う。

 ダーカスの王様も、俺たちを吹き飛ばす力がある。

 ぐだぐだは言わねぇ。

 強い奴には従え。

 そのうちに解ってくることもある。

 昨夜、それを俺は『始元の大魔導師』様に教わった。

 いいな!?

 返事をしろ!

 よくねぇ奴は、いくらでも相手してやるから、前に出ろ!」

 ……すげぇなぁ。

 こうやって統率しているのか。

 で、俺が言ったことは、そう理解されたのか。

 なんか、俺も平坦な喋りになってしまいそうだ。


 ま、いくらイキっていても、ザビエルみたいに頭の天辺の毛がないのが可笑しいけど。

 そりゃあ、これ続けて、勝ち続けていたら、調子に乗ってお山の大将になっちゃうかもなぁ。

 とてもじゃないけど、一般市民は付いて行けましぇん。

 彼らの方から、歩み寄ってもらわないと。


 おまけにと言っちゃアレだけど、彼らは仲間内と仲間の外ではルールが違うんだなぁ。

 内は力で、外は口先で。

 きっと、内は同類、外は敵という認識なんだろうな。

 そんな思い込み捨てて、どこででも同じルールで生きていく方が楽だろうに……。

 ま、同情してもしゃーないんだけど。



 「『始元の大魔導師』様、おはようございます!

 これからは、きっちりここを締めさせていただきます。女子供も絶対泣かせません。

 今日のお手伝いも、俺らでやります。

 他の皆さんは、開墾を頑張ってください!」

 おお、感心だねぇ。

 ついでに、まともに喋れるじゃんか。

 「おう、ありがとう。

 サヤン、それを1年続けてみろ。天下を取れる道が見えてくるぞ」

 「ぅあっりがとうっざいまっ。

 励みまっ」

 あ、褒めたら地が出た。

 とりあえず、きちんと喋れ。

 さぁ、あとはケナンさんに任せとけばいいよね。


 「……バカみたい」

 ルー、ま、そう言うな。

 バカでも、良い方に転べばいいんだからさ。

 って、「みたい」がないだけ、俺の方がヒドイかも知れない。

 


 − − − − − − −


 やっぱり、バカはバカなりに体力がある。って、バカバカ言って、ごめんね。

 電柱の設置、あまりに順調。


 で、こういうのを手懐けるのに、油断は禁物。

 適当なところで、「ありがとうな」って銀貨を握らせる。

 疲れると嫌になって、嫌になると反抗する。

 「嫌なんだけど頑張る」って回路は、バカにはないからね。

 だから、疲れる手前のぎりぎりで、餌を与えるんだ。

 するてーと、バカの中に「疲れ=銀貨=嬉しい」っていう方程式ができあがっていって、きちんと働くようになる。

 つまり、を与えるんだ。


 でも、銀貨のタイミングが遅れると、「疲れたんだから当然」となって、「疲れ=銀貨>嬉しい」になってしまう。そして、最悪、「こんなに疲れたのに、これっぽっちしかくれない」になって、「疲れ>銀貨>嬉しい」になっちまう。

 だから、顔色はしっかり見とかないといけない。

 というのは、昔聞いた本郷のセリフ。


 俺が、俺の知恵で、こんなことできるわけないじゃん。

 あいつは、こういうのも上手かったからなぁ。

 当然、


 ま、なんだかんだで、ダーカスまで工事終了。

 これで、ダーカスからトーゴまでのネヒール川南岸、そして、エフスの周囲の北岸は架線ケーブルが繋がった。

 あとは、アンテナを繋ぐだけだ。


 こうしている間にも、20人ほどの人の手で、避雷針アンテナはケーブルシップの船着き場から運ばれている。これは、石工さんを中心とする土木工事班がやってくれている。

 ルーが言うには、これにも意味があって、「架線ケーブルは自分たちで引いた、自分達の関わったもの」という意識を持たせるんだそうだ。自分達が確保した生活圏ってことだな。

 でも、主要設備であるアンテナ設置はダーカスの面々が行うことで、「ダーカスの恩恵」という意識も併せて持たせる、と。


 はー、そんなことは考えもしなかったよ。

 でも、そんなことを考えるようには学習できてないけど、「考えもしなかった」と言うと、ルーに怒られるのは学習したよ。

 「なにが悪いのかは解らないけど、謝れば許して貰えることだけは理解した」みたいだ。

 くっ、我ながら情けない。



 船の建造はトーゴで行うことが決まったから、その船のガントリーになる台車をエモーリさんが作った。正式名称なんて判らないけど、宇宙戦艦のアニメではガントリーって言ってたから、それでいいや。

 このガントリー台車はとても重くてケーブルシップには載らないので、陸路を転がしていくことになる。

 この台車の上で船を作り、台車ごと水の中にひっぱり込んでしまうということらしい。で、台車は沈むし、船は浮く。それから台車のみ、後から陸地へ引っ張り上げる、と。

 車輪にゴムを使っていないし、重量物専用台車ってのがよく分かる作りだ。

 で、車輪は付いていても、相当に重そうで、転がしていくのはとても大変そうだよ。


 俺はそれに同行して、道すがら、避雷針アンテナと今回設置した架線ケーブルを繋ぐ。

 これで、往復で2回の架線ケーブルのチェックができることになるし、今回は繋ぐごとに安全な土地ができていくから、よりやり甲斐もあるよ。

 

 次の魔素流の予定も迫っているから、あまりのんびりもしていられない。

 でも、すべての結線が終わったら安全になるわけだから、トーゴに到着したら、造船の見届けをする予定。


 あと、トーゴの円形施設キクラでは、建設中の安全確保のために、避雷針アンテナを立てて、それを緊急避難でネヒール川の流れに繋いでいた。

 今は、それ、横倒しになってるけど、規格を定める前に作ったものだから、流用の予定がなかった。

 で、思いついたんだけど、この手の遊びの材料があれば、トーゴの河口に灯台を作るのに最適だよね。


 でも、この世界、まだまだ電球を作るのにはハードルが高い。

 不活性ガスも真空も、共に手に入らない。フィラメントに使えるタングステンとかだって、無理。

 まさか、竹が生えたらエジソン電球ってわけにもいかない。

 それに、今の段階の魔法併用の沿岸航海だと、夜間の灯台の照明は、実はあまり必要もないんだよね。だって、そもそも夜なんか、危ないから航海しないもん。

 日が暮れてきたら、明るいうちに安全に入り江でも探して避難しちゃうよ。

 天気だって、崩れてきたら無理に出ていかない。

 少なくとも、数年はその状態の中で、海を知り、船を知り、航路を知り、経験を積み、なんだと思うよ。


 だから、ここが目的地だよって示すならば、赤い布でも縛り付けて目立っていればそれで済むんだ。

 でも、将来を考えたら、避雷針アンテナの流用は架線ケーブルも繋げるし、金を多用しているから、鉄の部分だけを部分部分塗装するとか、ゴムを引くとかすれば潮風の中でも耐久性もある。


 ただ、これの輸送も、トーゴの開墾地までは定期便のケーブルシップでなんとかなるけど、その先は運ぶ方法が人海戦術しかない。

 あとは、これから建造する船だね。

 訓練を兼ねて、最初の任務に良いかも知れないな。

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