第8話 エフスまでの工事
トーゴで、1つだけ観光した。
ガ×ラを下流まで見に行ったんだ。
前回の怪獣大決戦のときも、きちんと見られなかったからね。
……なんで、この亀、こんなに幸せそうなんだろうな?
甲羅を日に当てながら、流れに頭を突っ込んで、魚だか藻だかを食べていた。
で、ひとしきりもぐもぐしたあとは、浅瀬にでーんって首を伸ばして、目をつぶって昼寝。
いいなぁ。
こういう人生、送りたいなぁ。
さぞや長生きできるだろう。
いや、歳とったら、実際にここに引っ越して来て、この
そんな思いとは裏腹に、俺、トーゴの
この世界も世知辛く、忙しいんだよ。
って、
ロバは、俺がトーゴで紙を漉いている間にダーカスに戻って、また新しいロールに巻かれたケーブルを持ってきてくれていた。前回よりロールが大きく、さらに重かったはずだ。
ありがとうよ。
なんか、自動車にはここまでの感謝の念とか抱かないけど、相手が生き物だと、やっぱり運んで貰えてありがたいって思うよ。
きっとこの子が歳取って働けなくなっても、自動車のように廃車だのスクラップって考えにはなれないだろうなぁ。
嫌われていて、怖い目で睨まれていても、だよ。
同時に、俺とルーに、頼んでおいた荷物が届く。ものが何かは、まだおおっぴらにできない。
これは、扱いに注意しないとだ。
で、トーゴの面々に、エフスでの労働協力もお願いしておく。
なにも起きなきゃ、それでいいんだけどね。
トーゴの開拓組、引き続いてエフスまでの電柱設置を手伝ってくれるから、今日も一緒なんだ。
エフスからダーカスまでは、エフスの開拓組が手伝ってくれる予定だ。
もう手慣れたもので、電柱設置のために距離を測って、馬鹿棒を電柱の資材に当てて、埋める深さを出してと、どんどん作業が進んでいく。
電柱の資材は、夜のうちにケーブルシップで運ばれて、トーゴの船着き場に山になっていた。たぶん、2日に近い余裕があったから、運びだめができたんだと思う。この電柱群には、次の木材が切り出せるまで、最低20年は頑張って貰わないとだ。
本当は掘っ建ては嫌なんだけど、他に手もないしね。
まぁ、掘っ建てでもイメージよりは長持ちするし、これだけの乾燥地帯だから、そうは腐らないだろう。
一応、なにも考えていないわけじゃないんだ。
船が上手く行って、コンクリートが使いこなせるようになったら、次にコンクリートで電柱も作れれば、だんだん置き換えしていけばいいし。
てか、もっともっとこの世界が進んだら、ケーブルの埋設設置だってできるだろうさ。
俺、この世界に来てから地震を経験していないけど、もしかしたら大きいのがあるかも知れないしね。
ま、とりあえずは今は、こんなんでも作っておかないと、開墾地が魔素流に焼かれてしまうからね。間に合せは自覚している。
前に一緒にゴムボートでネヒール川を下ったときに一緒だった、王宮の書記官さんが、詳細な地図を持っていたから、それの写しを貰ってアンテナを立てる位置もプロットしておいた。で、それを元に基礎になる石垣もすでに作られている。
ま、設置位置が誤差100mとかでも許される大雑把過ぎる工事だから、これはこれで新鮮だよ。
アンテナ用の基礎の石垣は、ダーカスのシュッテさんの配下の石工さんたちの作だけど、すごいもんだ。
他のところでもそうだけど、ハンマーとタガネだけを持って出かけて、材料はその場で現地調達して作り上げてしまう。
材木だって運ばなきゃいけないことを考えると、材料が現地調達できる石工ってのは大工以上に小回りがきく、最強の職人かも知れない。
とはいえ……。
工事が進むに連れ、電柱の設置、だんだんつらくなる。
トーゴに集積地まで、電柱の木材を取りに行く往復距離が増えていくからね。
小型の荷車でも、いっぺんに4本ぐらいしか運べないし、それを設置するのは一瞬なんだ。
3台の荷車で、人力で運んでいるけど、往復で1時間を超える辺りからがくっと効率が落ちだした。最悪で、往復2時間掛かるようになるし、その間に電柱を設置する組は12本を設置するだけで済んでしまう。俺も、電柱にケーブルを固定するだけだから、どんどん暇になる。
その間も電柱輸送組は頑張っているので、とても申し訳ない。
もう少し進めば、トーゴの集積を使い切って、エフスの集積を使うことになる。そうなると、往復距離がまたどんどん縮まっていくので、モチベーションも上がるんだろうけどね。
これ、ケーブルシップをいい加減な場所に止めて、河岸段丘の崖を電柱持って登るくらいならば、歩く距離が増えるほうが事故が起きないって判断なんだよ。
現場猫的に「ヨシッ!」ってのも、あんまりやりたくないしね。
苦行が終わりに近づいている。
トーゴからの最後の荷台が到着。
なんか、輸送組の顔、思い切りどんよりしている。
せめてということで、俺、荷車1台について銀貨1枚を振る舞う。
以降、荷車はエフスの集積場に向かう。
これからは、輸送組はどんどん歩く距離が減っていくから、元気を取り戻していくだろう。
エフスまでたどり着いたら、あとはケーブルシップに荷車も載せて帰ればいいのだから、歩く距離はもう見えてきている。
エフスの集積場からの、最初の電柱が届いた。
それも一気に24本。
荷車6台分。
エフスの面々が、最初の約束より早く手伝い出してくれたんだ。
それはとてもありがたい。
ありがたいんだけど、動機が不純。
「『始元の大魔導師』様、お世話になります。
ところで、なんでこの木の柱、空を飛んで運んでくれないんスかぁ?
一度聞いてこいって、オレ、パシリにされて来たんスよ」
……出たよ。
くっそ、饒舌りからして、俺の天敵どもめ。
「俺、今まで一度だって、空を飛べるなんて言ったこたねーし、飛んでみせたこともねーからだよ」
そう返す。
「えーっ、なんだ、じゃあ、飛べないんスか。
そっかー、俺たちと同じじゃないっスか(へらへら)」
なんで、初対面でいきなり、上から目線で言われなきゃいけないんだよ?
横で、ルー、涼しい顔している。
ま、打ち合わせしてあったからね。
でなきゃ、血を見ているよ。
この小柄な華奢に見える身体で、ハヤットさん並みに金の棍棒振り回すんだからな、ルーは。怒らせると怖いんだぞ。
「じゃあ、これから、同じ飛べない同士で、ダチってことで(へらへら)。
俺、リゴスから来た都会っ子なんでぇ、こういう身体使う仕事苦手なんスよ。
無理やりここにも来させられましたけど。
で、こちら、彼女さんっスか?
可愛いじゃないっスか。むしろ、俺とお似合いみたいなー?
ここまで来た甲斐がありましたーね。
今度、一緒に遊びに行きましょーよ(すでに、ルーしか見てない)。
自分、いいトコ知ってるんで、任しといてくださいよ」
……殺したい。
自分、念入りに念入りに、コイツを殺して差し上げたいっス。
コイツがルーを、リゴスまで連れ出す前に。
「ぅわかった。
ただなぁ、とぅりあえず、今は働こうかぁ。
エフスに着いたらぁ、ぬぁにか考えてやろうではないか(威圧)」
ざわざわ。ざわざわ。
音を立てて全身が総毛立つような、ルーの威圧。
怖い。
いきなり、
ああ、やっぱり父娘なんだ。
こいつ、猫かぶっていたな、今の今まで。
初めて見たぞ、その威圧。
……もしかして、いや、本当にそんなことがあったかは知らないよ。
でも、もしかして、本当にもしかして、俺を好きだという
例えば、あくまであくまで仮定の話だけど、ラーレさんに「ぬぁるタキ殿は、ぅわタシのものどぁー」なんてやっていたら……。
怖すぎて、想像のラーレさんだけでなく、俺まで涙目になりそう。
当然だけど、サフラからのパシリも涙目になっていた。
ざまぁ、みろー!
……今回、人のふんどしで勝負してるなぁ、俺。
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