第9話 エフスの入植者


 エフスが近づいてくる。

 電柱がどんどん運ばれるから、進行が早い。

 で……。

 ま、きっとだけど。

 着いたら、ケナンさん達もいるだろうけど、その表情、思いっきりどんよりしているんだろうな。


 もしかしなくてもさぁ、他国の王様達、ダーカスに厄介払いをしたんじゃないかな。

 こちらとしては、次男三男の家を継げない食いっぱぐれている人達を救いたかったんだけど、そんな善意と、その話を受けた方が考えることは当然異なっていたんだ。

 だから、まずは、そもそも出世に無縁なはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、 問題児、鼻つまみ者、厄介者、異端児から、国外追放扱いで送って寄越してくれたんだ……。


 ただ、さすがに、重犯罪人を解き放って送って寄越す程ではないと信じたいよ。


 ああ、頭痛い。

 ダーカスの王様、王様がこの場にいたなら、どう考えて、どう対処するかなぁ。


 

 「……ったく、蠱毒か」

 ルーが吐き捨てるように、横で呟く。

 「コドクってなによ?」

 そう聞き返す俺。

 「悪い連中を閉じ込めて、バトル・ロワイヤルやらせるんですよ。

 で、最後に残った一番強い奴を使うんです」

 「なんに?」

 「……呪いに」

 「ダーカスの風習?」

 「ナルタキ殿の世界の風習です」

 「くっ……」

 俺、本を読もうな、本を。


 で、「呪いの掛け方」なんて書いてある本も買ったのかな、俺。

 で、それ、なんの役に立つんだろ?

 で、ルーは、なんのためにそれを読んで、内容を覚えているんだ?

 で、ルー、実は本読んでいて、ほとんど寝てないんじゃないか?



 俺は俺で、必要なものをセットして、スイッチを同行していたトーゴの1人に渡して、単独で歩を進める。

 ルーとトーゴの開拓組の衆、ネヒールの河原に降りていく。仕込みがあるからね。


 とにかく。

 エフスの堀の内側に入ろう。

 準備はできている。



 「『始元の大魔導師』様、ようこそおいでくださいました」

 ケナンさんが進み出ていう。

 そして、その横に、初めて見る顔がふんぞり返っている。

 そして、見事に分かれて2種類いる入植民の群れ。

 なんでこう、すでに見た目で判りやすいかね。

 なんか、ため息が出た。


 ケナンさんが、こいつと戦うようなことがあったとしても、万が一にも負けない。ものの1秒だろうな。いや、それ以下だ。あの剣技はシャレにならん。

 なのに、ダーカスの方針として入植者を受け入れている以上、来てくれた相手を尊重しないといけない。

 また、追い返すような事態になったら、ダーカスの王様の顔を潰してしまう。

 必死で耐えているんだろうな。


 で、それを見越して、こいつ、やりたい放題している。

 こういう、相手の事情を読むことだけに特化した奴だ。

 「アンタが『始元の大魔導師』様ぁ?

 ようこそ、って、空飛べないんですかぁ、やっぱりぃ?

 お会いすると、ずいぶんと貧弱なんですねぇ?」

 ぶちん。

 ハヤットさんに言われたときと、感情の動きがぜんぜん違う。

 こいつ、シメよう。

 きゅっ、と。


 「あー、君が、入植してきてくれた人を代表するのかな?

 本当に悪いけど、名前を教えてくれるかな?

 ダーカスの王様に、村長さんになる人として報告しなきゃなんだよね」

 こ、声が震えそう。

 ここまで怒りってのが来たのは初めてだよ。


 で、相手が答える前に、さらに付け足す。偽名なんて名乗らせねぇ。

 「ここって、どうしても男ばかりでしょ?

 開墾しているんだから仕方ないんだけど。でも、それじゃ、村にならないじゃない?

 だから、今からダーカスから、女の人に来てもらうからね。

 君が、ここの代表として、女の人達と話して貰わないといけないんだ。

 そして、ここを良い村にして行って欲しい。

 だから、プロフィールもお願いするよ」


 ……判りやすい。

 そんなに嬉しいか?

 そうだろうな、無敵状態で、女まで世話してもらえるって思っているだろうからな。

 しかも、立場的に「ハーレムだ」なんて、思ってもいるだろう。


 「サヤンっス。

 リゴスから来ましったぁ。

 自分、こいつらのアタマやってるんでぇ、こいつら、俺の言うとおりに動く、みたいなぁ。

 エディとか、ブルスから来たのも、手懐けてます。

 ソレ、よーく、覚えといてくださいよ」

 なんか、一気に、5回分のため息が出そうになった。


 そか、リゴスの出か。

 ケナンさん、同郷だから、なおのこと追い返したら申し訳ないと思っているんだ。「ダーカス王の入植事業で、リゴス人同士で諍いを起こした」なんて、ダーカスだけじゃなくリゴスに対しても、あまりに外聞が悪いからね。


 でも、コイツってば、俺の元の世界の、数は少ないけど「元ヤンチャしていました、隠しているけど墨も入っちゃってます」みたいな別の意味での筋金入りの職人に比べたら、本当にヌルい。あの人達は、こんな無用に喋らないからね。

 こっちの世界、このジャンルでも発展途上かぁ?

 そもそも売るなら、テメェの力で来いや。

 今回、この世界で2回目を買うぞ。

 ただ、相当に悪どくな。


 「そうかぁ。

 キミ、すごいんだね。

 じゃあさ、キミの配下の人も紹介してよ。で、その人達も一緒に、ケーブルシップに、女の人達を迎えに行こう」

 そして、ぐいって、近寄って囁く。

 「キミはここの代表だからね。

 『よろしく』やって貰わないとなんだよ。

 でも、さすがに、表立ってのハーレムは困るんだ。だから、最初に彼女らを見る機会を与えよう。

 意味は解るよね?」


 サヤンも囁き返してくる。

 「こりゃぁ、びっくりだ。

 『始元の大魔導師』様、思っていたより話せるじゃないッスか。

 見直しましたよ。

 上手いですよねぇ。

 こうやって、ダーカスの王様にも取り入ったんッスか?」

 「いや、俺は、キミより上手だよ。

 なんたって、身一つでこの世界に来て、元々が貧弱だからねぇ。

 でも、この街の筆頭魔術師の娘で、『豊穣の現人の女神』も手に入れたんだよ。

 空を飛ぶほどの英雄だって、与太話とね」

 そう言って、黒く笑って見せる。


 ひそひそ。

 「報告ありましたよ。

 イイ女らしいスね。パシリに出したのが、せっせと柱運んでましたからね。

 あやからせて貰います」

 「ま、上手くケナンを操縦しなよ」

 「うひょー、それ言っちゃうんですか?」

 「もっと考えろ、サヤン。

 ケナンを敵に回すと、ダーカス王が出てきちまう。

 まずは、ダーカス王のご機嫌を取って、ケナンを追い出すんだよ。

 1年辛抱してみろ、ここのヌシに成れて、10倍も100倍も甘い汁が吸えるぞ」

 「……なんか、俺、カマそうと思っていたのに、器が違いますねぇ。

 『始元の大魔導師』様、いや師匠、付いていきますよ」

 ふん、んなこた、微塵も考えちゃいないくせに。


 俺、さらに小声になる。

 「まぁ、まずは、ホレ、キミの配下の、女を配分して恩を売っとかなきゃいけないのを呼びなよ。

 で、先輩として言わせて貰う。

 女を渡すのは、その半分以下にしときな。

 そうやって、女の価値を上げて、渡さない半分以上を制御するんだよ」

 「マジ、悪魔ですね、師匠。

 勉強になります。

 自分、まだまだ甘かったです」


 腹をキメれば、俺だって、嫌いな相手にだって笑って見せられるんだよ。

 いつまでも中学生じゃないからね、俺も。

 問題は、なかなか腹をキメられないことだけど。

 今回は、早かったな。



 「おう、メンバー集合っ!

 『始元の大魔導師』様からいただいた、いい話がある!」

 サヤン、そう叫ぶ。


 なんか、ケナンさんが絶望的な表情になった。

 ケナンさん、ごめんね。

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