第6話 ロバには塩
こういう仕事をしているとき、ルーはつくづくもったいないと思う。
俺たちの生活を快適にするために、ご飯を作ったり、お湯を沸かしたりしてくれて忙しいんだけど、もっと世界のための仕事ができる人だからね。かといって、ルーはここにいたいし、俺もルーにここにいて欲しい。
なんか、近頃、素直にそう思えるんだよ。
それは、ルーを縛り付けておきたいというのとも違う。
なんていうのかな、気持ちを持ち寄って、存在も持ち寄っていたいと。
だから、きっとこの先、逆もあるんだろうな。ルーが忙しくて、俺がおさんどん役ってこともさ。
俺だって、一人暮らししてたから、家事はできるぞ。
ダーカスでだったら、メイドさんがいるけれど。
とにかく、トーゴでは、俺の腕の筋力が許す限り、リングスリーブをカシメた。
エキンくんは、俺より体力があるみたいで、俺の1.2倍ぐらいはカシメてくれた。やはり、2人がかりだと早いよ。
で、失敗は許されないから、俺とルー、最年少の魔術師さんとエキンくんで2班でチェックを重ねた。
とはいえ、一度は動作確認ができている施設だからね。
コンデンサ周りのチェックは厳重にしたけど、完動を確認した部分は普通の手順でのチェックに留めた。
私のかばん、じゃなかった、
この先、消費が増えこそすれ、減ることはありえないので定期便でその分を送ってくれるようにお願いする。
さあ、エキンくん、この400個は、君独りでやり遂げるのだ。
ちょっと難しいけど、この400個は、持ち歩いたり、貸し出したりすることを前提に考えている。さて、どう繋ぐ?
君の創意工夫に期待する。
そして、次の魔素流で最終確認をして、問題がなければ完成となる。そして、ここは俺の手を離れ、完全に魔術師さん達のものになるんだ。
最年少の魔術師さんも、サフラとの国境の
「『始元の大魔導師』様。
私達も、エフス経由で陸上を歩いてダーカスまで帰ることになります」
ルー、言われなくても解っているよ。
架線の状況とか、きちんと自分の目で確認しながらじゃなきゃ、ダーカスに戻れない。
「エフスには、今、サフラだけでなく、他の国の入植者も到着しだしたそうです。
くれぐれも、お気をつけてください。ケナン達ももう、エフスに入って統治をしていますけど、あまり油断召されないよう」
「ルー、なんかあるん?
なんか、聞いてるん?
言い方に含みがあるよね?」
「というより、折あらば、『始元の大魔導師』様の奇跡をもう一度見てやろうって、そんな物見高い、しょーもない人が多いみたいなんです。
ケナンさん達のときと違って、相手は数の多い人の群れですから、相手をしないように、刺激しないようにしていないと、なにをどうされるか判りません」
……それ、怖っ。
取り囲まれて、「空を飛んで見せろ」って言われたらどうしよう……。
俺、ヘタレだから、エフスは後回しにしよ。
オラついた人も、チャラい人も怖いんだよね。
トーゴなら怖くないし、そっちの方がもう広がっている農地もあるし。
ほら、港もあるから、先にそういう施設の守りを完全にしないとね。
ふん、エフスは後回しにする言い訳なら、いくつだって思いつくぜ。
で、トーゴ周囲を安全にしてから、ダーカスに戻りながら仕事をしよう。
定期便で、ダーカスのエモーリさんとトーゴのデミウスさんにお手紙書いて、そういう順番にして貰うんだ。
ほぼ1日掛けて、大きな荷車をロバが引っ張ってきたんだ。
家畜が働いていることに、感動を覚えるよ。
サイレージのときも働いてくれていたけど、ロールに巻かれた金の架線は相当に重いものだからね。しかも、ダーカス周囲と違って、どうしても悪路だ。
サフラとか、荷車の往来が多い道は、なんとなく人の足跡で自動的に土が固められてきている。当然、荷車の轍はできてきてしまうから、近いうちにきちんと整備はしないとだ。
けど、ダーカス、トーゴ間は、定期便のケーブルシップがあるから、陸上の道なんてほどのものはまだない。
だから、ロバはここにつながれるまでの間、相当に頑張ったはずなんだ。
よしよし、よく頑張ったな。
よしよし、鼻先撫でてやろうな。
って、手を伸ばしたら、いきなり剣呑な目つきで睨まれた。
……ロバ、怖えーな。
目付きが、オラついた人を越えてる。
おずおずと手を引っ込めて、なにもなかったことにする。
なんだ、この気難しい動物は。
それとも……。
はいはい、どーせ、どーせ、俺は嫌われているよ。
「わーい、ロバだー♡!」
そこへ、空気を読まないルーが、駆け寄ってきて、いきなり問答無用にその首に抱きついた。
相当にショックだったらしいロバは、首をぶんぶん振るけど、ルーは離れない、離さない。逃げたくてもつながれているし。
だめだよ、ロバ。
君が頑張るほど、喜ぶ人もいるんだ。
最後に、諦めたのか、ロバ、深い深い溜め息をついて、大人しくなった。
そして、ふんふん言いながら、ルーに頭を擦り付ける。
いいねぇ、モテる娘は。
トーゴから、お手伝いしてくれる人も来てくれた。
俺、馬鹿棒(言葉は悪いけど、こういうもんなんだよ)を用意しておいたから、一気に同じ距離、同じ高さで架線を張るための柱を立てていく。
人海戦術だからね、あっという間だよ。
ただ、俺は立てる電柱間を行ったり来たりするから、他の奴の3倍ぐらいは歩くことになるけれど。
家庭科だっけ、本返し縫いってのを教わったよね。あれの針の運びを思い出したよ。
靴底、すり減ってなくなっちまうかも。
ロバは、荷台のロールから架線を引っ張り出しながら、とぼとぼと俺たちの後に続く。
ま、だんだん軽くなるから、許してくれや。
で、飼い主以外に対しては、相変わらず剣呑な目付きなのに、ルーの言うことは聞くんだよね。
なんでだよ?
ん?
ルーが話す。
「動きを止めてから、食事用に持ってきていた塩を舐めさせたんですよ」
そか、ルーは外見から想像するより怪力だし、飴ならぬ塩か。で、俺が不思議に思っているのを、見抜きやがったな。
……これって使えるかな。
「ルー。
エフスの人達に、なんか、塩ってないかな。
イキっている人達に対して、今のルーがロバにしたみたいな……」
「ああ、最初に飴を与えて、それで口を塞ぐんですね」
「身も蓋もねー言い方だな」
「だって、そうでしょう?」
「そうだけどさぁ」
「風呂作ることは?」
「ダメですね。
お湯に浸かる快感を知らなきゃ、意味ないでしょ」
「メシはもう配給されているし……」
「喰う、寝る、着る、住む、うーん」
「あ……。
女……」
「はあっ!?」
「いい手がある。
誰かに聞かれるとマズイから、後でな」
トーゴでの結線は、順調だった。
アンテナは、あとから設置、結線。
1日と半分で仕事は終えられたし、夜にはデミウス夫妻とパターテさん、さらに大工の親方のマランゴさんまで加わって一緒に飯も食えた。エキンくんも、よく笑うようになってきたし、俺も嬉しい。
村も、石工さん達が土台を組んでくれたので、木造の柱がぽつぽつと立ち始めている。ようやく、家と呼べるものができるよ。
そして、山積みになっているイコモの藁の山を見て、もう1つの思いつきを実行することにした。上手く行けば、トーゴにとんでもない富をもたらすはずなんだ。
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