第3話 王様会議の日程決定


 自分の屋敷に戻って、工具の確認をする。

 ルーは、その間に、王様の顔を見てくるって。

 ルー、可愛がられているなぁ。

 でも、国の規模が大きくなっていくと、こういうの、できなくなっていくんたろうな。


 さて、余分に持ってきている工具の1セットを、エキンくんに渡してやらないとだ。

 ま、後継者をじゃんけんなんかで決めちゃって良いのかって問題はあるんだけど、俺はいいと思っている。

 エキンくんは、最初の1人という意味しかない。また、技術をどんどん他の人に広げればいいんだ。

 円形施設キクラの管理なんて、当たり前の技術にしとかないと、また失われてしまう。魔術師さん達ががんばって運用をしていても、その技術に関してはまた別、だからね。

 つまり、戦闘機のパイロットが魔術師、戦闘機のメンテナンスチームが俺たちなんだよ。今まで、パイロットしかいないから、飛べる機体が失われていったんだ。

 で、メンテナンスチームは、高度な仕事が求められても、仕事としては工学の範囲なんだよ。制約がなくなるのなら、広げるべきジャンルなんだ。



 屋敷の台所。

 メイドさん達が、夕食の支度をしている。

 その片隅で、ルーと話している。

 メイドさんたちの視線がちらちらとこちらを窺うけど、特に気にはならない。

 というか、気にしていたら、どこにもいられないんだ。

 メイドさんのいる生活に、適応しないとだなぁ。うちの中でも、誰か(申し訳ないけど)他人がいるってことだもんな。


 つまり、『始元の大魔導師』様と『豊穣の現人の女神』様が、2人で部屋に閉じ籠もっていたら、「なにしているんだろ?」って、要らぬ好奇心を呼んでしまうし、それを考慮しないといけないんだ。

 また、小市民根性が染み付いているのか、大広間の真ん中で2人で話していると不安になるんだよ。

 かといって、ダーカスに喫茶店はまだないし、食堂のオヤジも茶だけだといい顔をしない。まったく、景気が良くなるほどガメつくなるんだから。


 「ルー、そんなふうに思っているんだけどさ」

 エキンくんに俺の技術を教えることについて、ルーに話す。

 「ナルタキ殿の御意に」

 「おう、ありがとう。

 前にも言ってるけど、俺の技術って、俺の世界ではありふれているんだよ。

 そのうちに、魔素だけでなく、電気もエネルギーとして使えるようにしたいからね。

 だから、技術者は増やしていきたいと思っている。エキンくんがダーカスのということになるし、これから集まってくる各国の人の中からも候補者を選んで、教えていかなきゃだからね」


 俺、電気もエネルギーとして使えるようにしたいと思ったのは、トーゴでの蓄波動機を使った実験のあと、コイルの中の鉄片が軽く磁化されているのに気がついたからなんだよ。

 磁石があれば、発電ができる。

 当然のこととして、それを思いついた。


 コイルの中の鉄片は、簡単に消磁も着磁もできたので、余計そう思ったんだ。

 なんせ、工具箱の中に、ドライバーの消磁と着磁ができるマグネタイザーもあったからね。

 この世界の技術でも、モーターは作れる。となれば同時に、発電機も確保されるってことだ。

 ダーカスの大車輪、水汲み水車ノーリアは、今は水汲みに使われている。けど、小さい水車がどんどん作られだしたら、それらは水汲みに限定されない。小回りの利く動力として、石臼にもでも、なんにでも使われるだろう。そして、将来的にはさらに発電機を繋いで、小規模発電だってできるだろうさ。

 賢者の石が半導体的な性質を持つことも解っているから、さらにその制御もできるだろう。


 まぁ、スィナンさんが電池を開発するのも、そう遠くはないだろうけど。


 本来は、魔素と電気は、並列して使われるものだと思う。

 社会を支えるエネルギーを、なにか1つに頼りすぎるのはよくないからだ。


 そして、こんな発電機にしても、俺が完璧に完成させる必要なんかない。こういうものだってモデルを示せれば、きっと誰かが改良していくよ。それがこの世界の発展につながる。俺が、すべてができるほど優秀だって、すべてをしない方がいい。

 で、実際、そこまで優秀じゃないし。


 ……「優秀じゃない」ってのは、いろいろがことへの言い訳じゃないからな!

 しないんだからな!

 ……たぶん。



 ルーが頷いて言う。

 「はい。

 『始元の大魔導師』様の仰る、それだけじゃありません。

 円形施設キクラのネットワーク化には、人材がたくさん必要ですから、今からメンテナンス要員も含めて増やしておかないと」

 「そだね。

 王様会議の日程が決まったわけだし、情報公開が近いってことだから、準備を始めとかないと。

 それから、俺の工具、前にも一度エモーリさんに見せている。

 情報公開にタイミングを合わせて、こちらも作って貰うつもりだし、エモーリさんもそう考えていると思うんだ。

 王様会議、日程は確か……」

 「はい。

 今から26日後です」

 「それだけあれば、トーゴもエフスも安全になるな」

 「はい」

 なんかさ、この世界に来てからのものごとが、一気にまとまっていく気がするよ。

 アレか? 伏線が回収されているってヤツか?


 メタなことを思っている俺に、頓着せずにルー、続ける。

 「あとの課題は、船ですね。

 ゴムボートをリゴスとブルスの王の迎えに出すという考えでしたけど、石造船、建造だけなら余裕で間に合うんですよ。

 エモーリはおそらく、図面、もう引いてますよ。自分のところに来る仕事なのは判っていますし、新しいものに取り掛かるのも好きですし」

 「そうだね、あのエモーリさんが、なにもしていないわけがないね」

 「となれば、3日後に図面ができて、1日でデリンがイメージ化して、火山灰とかは、もう集められてますからね。

 どんなに遅くても、10日後には作り始められるでしょう。15日後には、基本艤装も終わった船ができていることになります。ナルタキ殿の歴史書にあったような、複雑な船は最初から作れませんから、単純なものにならざるをえないでしょうからね。

 それから、7日間を訓練に使って、あとは風魔法前提で、魔術師同乗の上でリゴスに向かう、と。

 4日ありますから、魔法で風を順調に吹かせられれば、余裕でリゴスの首都から流れ出す川の河口に船を付けられます」

 「今の時期、天候は荒れないの?」

 「大丈夫ですよ。

 冬の真っ最中だと、荒れる日もありますけど。

 晩秋は穏やかなんです」

 「それはよかった」

 そか、陸上を歩くのだって、気候が良い方がいい。

 王様会議を今の時期にしたって、そういうことかね。


 少なくとも、ゴムボートより、船のほうがいいのは間違いない。

 「じゃあ、間に合うかどうかは別として、走れるだけ走ろう。

 そして、その後は運用しながら航海術を磨き、脱魔法化していくと。

 たぶん、それだと事故も起きにくいし、犠牲者なんかも出なくて済むだろう」

 「はい。では、その方針で、王様にも伝えます。

 あと、船は大きいでしょうから、リゴスとブルス、場合によれば、エディの王様までが一気に運べます。

 おそらくエディの王様は、陸路を来るでしょうけどね」

 「なんで?

 船で来れば楽じゃん」

 「各王は、そこまでダーカスを信用してませんよ。

 3王が乗った船が遭難したら、大陸はダーカスの天下じゃないですか。もうサフラはダーカスの属国なんですから。

 エディの王の陸路の選択は、この大陸全体の安全保障なんですよ。

 きっと、そんな話ももう、各国でされているはずです」


 やっぱり、こういうこと考えるのは苦手。

 ルーはすごいよ。

 「……なるほど。

 考えもしなかった」

 「少しは考えてくださいよ」

 ひそひそ。

 メイドさんに聞こえないように、小声になってルーは俺を非難する。

 「解った、解った」

 俺も小声で返す。


 小声になった途端、メイドさんたちの視線がこちらに向く。

 あのな、期待しているような、いい話じゃねーよ。

 『始元の大魔導師』様が怒られている図なんだよ。



 ヤヒウの肉の焼ける、香ばしい香りがしだした。

 朝食は、いつもルーが作ってくれている。

 芋を茹でるってのが、これで結構難しいみたいだ。案外、人によってみんな味が違うんだよ。ルーのは、いつもベストポイントだよね。それとも、俺が馴らされたかな。

 夕食は、メイドさん作が多くなるんだろうね。いい腕だと嬉しいけどな。



 「話は変わりますけど、『始元の大魔導師』様。

 王様、公衆浴場について、了解だそうです。

 王友に対するおこづかいをくれるそうなので、それで作ってくれと」

 「おこづかい、なのか?」

 「予算といえば予算ですが、いいじゃないですか、おこづかいで」

 「まぁ、なぁ。

 ちょっと情けないけど、いい表現かもな」

 じゃ、これもまた、ヴューユさんに甘えて、温熱魔法を記録させて貰わなきゃだ。

 シュッテさんと建築の打ち合わせが必要だし、ハヤットさんに、公衆浴場の従業員を探して貰わないとだ。


 この世界、石油とかはないのかな。

 魔素流で焼き尽くされちゃったかな。それとも、1000年前の文明が、全部掘っちゃったのかなぁ。

 本当は、風呂は、魔法以外でお湯を沸かしたかったんだけどね。

 ま、すべて思うようには行かない。

 ダーカスのオババ達が喜ぶだけでも良しとしよう。

 俺は、絶対絶対絶対、一緒に入らないけどな。



 予想外に、夕食は美味しかった。

 遅お昼だったのに、結構きちんと食べられたほど。

 こんないいメイドさんを引っ張ってこれるあたり、ルーのご母堂の顔の広さは、半端じゃないみたいだ。

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