第2話 まずは宿題を片付けよう 2


 ハヤットさんが話に付いてきていない。

 で、補足説明をする。

 「この間のサフラとの戦争で使った、怪獣を作る技術です。

 その話は聞いていますよね?

 あれを使えば、相当に複雑な形状もできますし、一気にモノコック構造の箱構造で船の型が作れますし、強度もあると思うんです」

 そう、おまけに俺の世界でのコンクリートより遥かに軽く作れる。


 もっとも、ダーカスでは作れないだろうね。あんまりに大きい船をダーカスで作っても、川下りしないと海に出られない。トーゴの急流がなければまだ可能性はあるけど、あそこを喫水の深い船が下るのは絶対無理。

 トーゴの開拓地ぐらいの場所に、空き地を1つ貰って、造船所にするしかない。

 もっとも、あのあたりは港を作るので、倉庫分なんかも含めて土地は確保してある。

 そこでいいや。


 ハヤットさんが理解してくれたので、これから石工職組合長のシュッテさんのところに行くことを告げる。

 シュッテさんのところで足らないものは、その入手のために、ギルドにお使い依頼を出すことになるからだ。

 ハヤットさんと、受付のメイドさん2人に手を振ってギルドを後にする。

 なんか今日は、造船の打ち合わせで、結構時間を使ってしまいそうだ。ちょっと想定外だったな。でも仕方ないよ。いいアイデアが浮かんだんだから。



 「親方、久しぶりってほどじゃねーけど、話があってきたよ」

 「おお、『始元の大魔導師』様じゃねーか。

 今日もなんか無茶をおっつけに来たのかい?」

 シュッテさんとは、お友達感覚で話せてとても楽。


 「ごあいさつだねぇ。

 いきなりで悪いんだけど、規格ブロックを作るときに出た破片、大量に欲しいんだけど、あるかい?

 で、そいつ、軽きゃ軽いほどいい」

 「んなもん、石捨場に山になってるよ。

 好きほど持っていけばいい。軽い石ってのは、ちょっと微妙だけど色で区別がつかーな」

 「そいつはありがたい。

 あとさ、石のアーチ橋を架けたときに、仕上げに石の間に流し込んだ、トールケの火山灰とかからできてる、どろどろして固まるのあったじゃんか。あれも大量に欲しいんだけど」

 「ありゃあ、輸送賃が高く付くからあんまりねぇぞ。

 取り扱う商人もいないから、誰かに取りに行かせないと」

 「それは大丈夫。

 ハヤットさんとこに、下話してきたよ」

 「さすがは『始元の大魔導師』様、えれぇ抜け目がねぇ」

 「それ、人を褒めるときに使う表現じゃねーだろ?」

 「これちんべぇも学がねーんだから、無茶言うない」

 「逃げんなよ、親方」

 「わかった、わかった。『気が利いてる』、これでいーかい?」

 「おう」


 「で、なんに使いなさるよ?」

 「船を作りたいんだ」

 「流し込みだね?

 型はどうする?」

 さすが、プロだね。反応が速い。

 「魔法で」

 「そりゃ構わねーけど。

 たださ、作業中に、ちいっと型全体を揺らせるかい?

 泡が入ったら強度が落ちるけど、形が複雑なもんだと、泡抜きができねぇからよ。きちんとかんまーさねーと」

 「そりゃ、これから筆頭魔術師さんとこで談判だ。

 ついては、もう1ついいかい」

 「なんだい?」

 「流し込んだあと、全体が固まるまでどのくらいの時間が必要だい?」

 「おーか掛からねぇけど、3日は欲しいねぇ。

 型を外してっから、さらに2日置きたいね。というのは、型を外してっから、その船の表面に薄ーく仕上げ塗りをしときたいんだよ。池とか作るときは、そうしているしな。水密はこれでさらに増すし、船ってのは動くんだから、傷ついたりなにかが打つかったりが前提だろ?

 使っちゃぁ、剥がして塗り直してをやってりゃ、いつまでも古くならないだんべ。

 水に浮かべるのは、それからにすれば、なっから大丈夫だろ」

 「いいね。その2日で艤装もできる。

 よし、じゃあ、この足で筆頭魔術師さんとこ行く。

 そこで問題がねぇってことになったら、使いを飛んでこさせっから、準備を頼まぁ。経費はそんときに、その使いに伝えてくんなぃ」

 俺、シュッテの親方と話していると、だんだん語調が移っちゃうな。



 で、筆頭魔術師のヴューユさんとこ。

 「……ということなんで、船の形の型を作ってもらえませんか?

 ゴジ○の怪獣を作って貰ったときと同じです」

 「『始元の大魔導師』様。

 それはできますけど、私は船の構造は判りませんよ。

 まずは、船の設計図をください。そうしたら、その形をデリンに頭の中で作らせましょう。

 ただですね、3日も飲まず食わずでそんな型を作っていたら、私もデリンも過労死します。

 蓄波動機を使ってください」

 ……了解。

 そりゃそーだ。

 コンデンサと組み合わせて、負担がないようにしないとだね。

 えっと、これ、型が自動化すると、船の大量生産もできないか?



 「じゃ、設計図を頼んできます」

 そう言って、エモーリさんのところへ。

 「カクカクシカジカなんですけど、船の設計図を描いて貰えませんか?

 材料からして、モノコック構造の箱構造でできると思うんです」

 「じゃあ、王宮図書館の中で、見繕って凌波性の高いのを描いてみましょう。

 小さい図でしたけど、確かに歴史の本にありましたら、それを真似て。

 設計図ができたら、一度見てください」

 「よろしくお願いいたします」


 「あと、艤装の滑車とかも必要ですよね。

 そのあたりも検討しときましょう。

 ただですね、接岸のときに、石の船は耐えられないかも知れないですよ。硬いものは脆いんです。ゆっくりした圧力には強くても、衝撃にはね。

 なにか、クッションがないと……」

 確かに言われてみると、漁船とかって、いろいろ船べりにぶら下げていたなぁ。岸壁も、でかいゴムが張り付いていたような気がする。

 よし、スィナンさんに聞きに行くぞ。


 「スィナンさん、ゴーチの木の樹液も、ゴムはもうありませんよね?」

 「円形施設キクラ間を結ぶ、電線分は確保してありますよ」

 「実は、ほにゃららほにゃららなんですけど……」

 「ならば、ゴムである必要はありませんね。

 将来的にはゴムにするか、『始元の大魔導師』様の持ち帰られた本にある人の力で合成したゴムか、でしょうけど、短期間ならば、クズの羊毛とおがくずでも詰めた革袋でもいいじゃないですか。

 使うごとに破れちゃうでしょうから、繕う必要はありますけど、半年の辛抱です。リゴスから、ゴーチの木の樹液が入るでしょう。

 ただ、船の数が増えて、樹液の手当も叶わないとなると、間に合せにし続けるのはきついでしょうね。

 リゴスのゴーチの木の樹液の作況予想は、ギルドに情報がそろそろ入っているはずですよ。お使い依頼の利便性のためにね」

 「じゃ、ギルド行ってきます」


 「ハヤットさん、ただいま。

 戻ってきましたよ。

 実は、ぺにょぺにょほにゃほにゃでしてね。

 リゴスの、ゴーチの木の樹液の作況はいかがでしょうか」

 「おかえりなさい。

 随分と大きく回ってこられましたね。

 作況は、豊作が望まれる、です。今年があまり良くない年で、いくらか隔年性がありますから、よほど気候がおかしくない限り、たくさん採れるでしょう」

 それ、スィナンさんに伝えて。

 ああ、輪舞曲ロンド踊るの、疲れた。

 ルー、お昼食べようぜ。

 


 遅い昼食後、ようやくコンデンサ工房に顔を出した。

 トーゴでの仕事について話し、「手伝ってくれる人ー?」って手を上げてもらった。

 まぁさ、もしかしたらとは思っていたよ。

 全員かい。

 ありがたいねぇ。


 「ただ、今回、俺は俺の技術をトーゴで教えたいと思っている。

 そして、俺は、しばらくしたら、そしてもしかしたら、他の大陸に行くことになるかも知れない。

 そうなったら、俺の代わりのこの大陸のすべての円形施設キクラの責任を負うことになる。

 勉強もたくさん必要だよ。最初の一人は特に大変だと思う。

 命がけで付いてこれる人ー?」

 ……それでも全員かい。

 しみじみ、ありがたいねぇ。


 「じゃ、じゃんけんで決めて」

 コンデンサ工房は、ダーカスの次男坊、三男坊で構成されているから、身元に不安はない。ま、俺が来てから、ほぼ一番最初にできた工房だからね。


 で、この世界のじゃんけんは、この世界の羊であるヤヒウが基本。

 仔ヤヒウとヤヒウ、ヤヒウ飼いでできてる。

 仔ヤヒウより親ヤヒウが強くて、親ヤヒウよりヤヒウ飼いが強い。で、ヤヒウ飼いを毎日振り回すのは仔ヤヒウだからね。

 で、ひとしきり「最初は仔!」とか、俺の持ち込んだじゃんけん方法で盛り上がって、エキンくんに決定。


 エキンくんの実家は、革漉き師。

 ダーカスで一人しかいない職人だ。つまり、次男に生まれたら、ギルドで依頼を受けて飯を食うしかなかったんだ。


 俺の仕事をどこまでエキンくんに移せるか判らないけど、トーゴでは頑張って貰おう。

 とりあえず、掛け算九九の暗記をよろしく。

 そして、在庫のコンデンサを、明日から順次トーゴへの定期便で運ぶお願いをして、本日の業務は終了。

 結構、疲れたな。

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