第八章 召喚後210日から240日後まで(安全な土地の確保とサミット)

第1話 まずは宿題を片付けよう 1


 一夜明けて。

 ルーが、いつものように朝食を持って、俺の部屋にやってくる。

 今朝は、ご飯と……、焼き魚だ!

 明らかにいつもの魚じゃない。海の魚。鯵じゃねーか、コレ。

 「なんで、魚が!?」

 「おはようございます」

 ルーが、順番が違うって修正を掛けてくる。

 はいはい、あいさつが先ね。


 「おはよう。

 で、なんで魚?」

 「なんか、バーリキ、頑張っているみたいです。

 トーゴの開拓組、トールケのリゾートから戻ったらしいんです。で、その協力を得て、塩田を数カ所深くしたんだそうです。

 満潮のときに海水を入れたあと、塩田の口を塞いで、海水が減るのを待って、そこに取り残された魚を掴まえているそうです。


 うっわ、すげぇな。

 漁具がなくても、アイデアで魚を掴まえているんだ。

 人の知恵ってすごいもんだ。


 「ルー、どう?

 美味しいよね?」

 「はい、ニャゥム。

 この魚、美味しいですし、ご飯にもよく合いますね」

 「こりゃあ、いよいよ味噌、醤油を作らないとだなぁ」

 とはいえ、今年の収穫は、ほとんどが来年の種子に回るんだろうけど。

 世界を、農産物で溢れさせるって大変だよね。

 ……今、なんて言った?


 「その、『にゃぅむ』って、直訳ではどういう意味なん?」

 「『いむ』は、所有を表します。

 ナルタキ殿の『なる』と『いむ』で、それが訛って『ニャゥム』です。

 『私のものである、ナルタキ殿』という意味です」

 どことなく、目を逸らしながら、ルーが説明する。

 ルー、実は、ルーも言ってて恥ずかしいんだろ?


 困ったな。

 このままだと、この呼ばれ方で確定してしまう。

 恥ずかしい。

 ただでさえ、鳴滝という名字は、あだ名にされるとイタイ。

 「なるちゃん」なんて呼ばれると、意味が変わっちゃう。

 かといって、俺の名前の音、こっちの言葉にすると、酷い意味なんだよ。

 「……ナゥムでもいい?」

 「いいですよ」

 少しだけ、恥ずかしくなくなったな。



 今日は、いろいろと準備を整えて、明日からトーゴでコンデンサの結線を始める。

 で、コンデンサを船着き場から移動したり、俺とルーの生活の面倒を見てもらうためにも、お手伝いの人を1人選ばなければならない。コンデンサ工房から連れていきたいけど、さて、だれにしようか、だ。

 いろいろな意味で、信用できる相手が必要だから、ギルドで初対面の人は避けようと思っている。


 朝食を食べ終わったあと、ルーと工房に移動する。

 コンデンサ工房は、円形施設キクラに隣接している。だから、歩くにつれて、円形施設キクラが見えだしてきて、当然のことに気がついた。

 円形施設キクラの木造部分の劣化は激しい。

 でも、今ならば修理ができる。木材があるからね。それに合わせるように、サフラから、大工さんの流出も始まっている。

 マランゴ親方に頼むの、トーゴとエフスの長屋の次は、円形施設キクラの修理だな。円形施設キクラは、本当に信用できる職人にしか任せられないからね。


 ルーにその話をして、ついでにギルドへの寄り道を提案する。

 「お供します」

 ルーの答えを聞いて、ちょこっとだけ方向転換。

 ギルドの建物に入るの、なんかすごく久しぶりな気がする。


 おお、受付は、メイドさんが2人。ヴューユさんのお屋敷から来てくれて、そのまま頑張ってくれているみたいだ。

 前回とは違う。きちんとした秩序がある。これならば、ルーを置いていかなくて済む。


 「おはようございます」

 そう声を掛けると、地区長室のドアが開いて、ハヤットさんが顔を出した。

 ようやく、自分の部屋を取り返せてよかったね。

 「おお、これは『始元の大魔導師』様と『豊穣の現人の女神』様では!」

 思わず、じろりんってハヤットさんを見る。

 ルーを、『豊穣の現人の女神』にした加担者だと知っているんだぞって。

 動じてないふりしてるけど、ハヤットさんも動揺が判りやすい人だよね。普段どおりって演技がわざとらしい。


 「すみません、大工が欲しいです。それも、船を作れる人が。

 ギルドでなんとか探せませんか?」

 そう、話を切り出す。

 ハヤットさんの表情が、思い切り「苦悩」になった。

 「王命で、内々に話は貰っていましたけど、難しいですね。

 絶えて1000年以上の技術ですよ。

 復活させるというより、1から作ることになりますね。木造船の絵すら残ってないんですから。

 適した木材の種類がなにか、どう組めば強度があるのか、どう組めば安定して浮かぶのか、まったく知識がないのです。

 エモーリもスィナンも、全然想像もつかないと」


 一応、聞くだけは聞いてみる。

 「……俺が持ち帰った本の中に、なにか知識はありませんかね?」

 「歴史の本の中に、小さな絵はありましたけど、どうにもこうにも、その船の構造までは判りませんからねぇ。

 帆柱ですか、あれをどうやって立てていいかすらも解らないんです」


 ……これはどうしようもないな。

 俺の知識で考えたって、歴史の教科書にあった遣唐使船と、コロンブスの帆船ぐらいしか記憶にないし、当然あやふやな外見しか分からない。宇宙戦艦ならも少し解るけど、それじゃ最初からお話にならないし。

 そもそも、あの帆ってやつも、どうやったら上げ下げできるのか解らない。帆柱の天辺に、滑車でもついているのかねぇ。

 ここに、ネット環境があればと、切実に思うよ。


 いっそ、別のもので作れないかな、船。

 鉄は、うーん、錆びるし、アルミは電力が必要なんだよね。

 プラスチックはまだ作れないだろうし、ということはFRPも無理だ。

 ……ちょっと待て。

 ……FRP?

 行けるんじゃね?


 「ここって、水に浮くくらい軽い石がありましたよね。

 円形施設キクラの屋根にアンテナを設置するときに使った、多孔質のヤツ……」

 そう、渋谷駅のモヤイ像の石だ。

 「ありますけどね。

 でも、船の形に削り出すなんて、できませんよ。それに、いくら軽いといっても、それだけの塊になると重いですし、運搬もできませんから」

 「いや、それをある程度細かく砕いたもの、というか規格ブロックを作ったときの廃材でいいんですけど。

 あと、ネヒール川に橋を架けたときに、トールケの火の山から噴き出したという火山灰になんか色々と混ぜて、石の隙間に流し込んでいましたよね。あれ、少し時間は掛かりましたけど、がっしり固まったと思うんです」


 FRPからの発想だ。

 単なるコンクリート船では、重くて危なくって仕方ないけど、ここの多孔質の水に浮く石を骨材にすれば、木造船よりちょっと重い程度にまとめられるんじゃないだろうか。

 しかも、火山灰になんか色々と混ぜたってヤツ、ダーカスの王宮にも使われていて、ものすごく硬く固まるんだよね。王宮は完成して数百年経っているらしいので、脆くなっていないのが驚異なんだ。

 要はさ、転覆したときに、一気に沈まずにいてくれればいいんだ。スピードが遅いのは仕方ないし。いよいよならば、魔法をたくさん使えばいいし。

 ま、大量輸送という船舶のアドバンテージが許されれば良しとしよう。

 


 ルーが言う。

 「『始元の大魔導師』様の発想は解りました。

 でも、私の理解が正しいとしたら、その石と火山灰を流し込む型が必要ですよね。その型はどうす……、ああっ!」

 「そう。

 もう、それ、俺たち経験を積んでいる」

 だから、実現性はあるんじゃないかな?

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