第28話 ダーカスの王友にして国柱
で、まぁ、いろいろ置いといて。
公衆浴場を作るのには、2つの課題がある。
熱源と水源だ。
収穫祭のときは、まだ水の温度が低くない時期だったから良かったし、祭りの一環だったから川の水で間に合わせても良かった。
でも恒久的な風呂を作るとなると、2つの課題を解決しないといけない。
お湯を沸かすのに電気を使うのは、あまりに不効率だ。
ましてや、魔素の副産物の電圧でお湯を沸かすのは、さらに効率が悪い。やはり、魔素は魔法で使ってこそなんだよな。
かと言って、魔術師を風呂沸かすために毎日拘束もできない。
もちろん、大量のお湯を沸かす燃料ももったいない。というか、ない。
あとは太陽炉だけど、冬の日光でもきちんと水を温められるんだろうか。
なんて思ったけど……。
これこそ、魔術師の魔法を記録・再生できる蓄音機、いや蓄波動機案件じゃないかな。
トーゴの
それに対して、風呂を沸かすなんてのは、失敗しても1日風呂を辛抱するだけで済む。まさか、それで誰かが死ぬこともないよ。
しかも、これがうまくいくならば、エフスとトーゴにも公衆浴場が作れるじゃん。
そして、蓄波動機による魔法と、その制御というシステムを積み重ねるにあたって、絶好のケーススタディだよね。
なんせ、怖くない。
なんか、俄然、やる気が出てきたぞ。
水は、
で、雑菌が死ぬ温度まで水温を上げて、入浴の温度に下がったところで入ればいい。
なんか、アイデアが湧いてくるなぁ。
うん、家を建てるときの基本は、まずは給排水と給電だからね。
だから、排水も考えなきゃだけど、ダーカスには石鹸がある。その石鹸水をダダ流しにするのはよくないよね。
ならば、そうだ、俺の親衛隊が泳ぎの練習をした浴場跡プール跡がある。あそこを遊水地にして、それから水をネヒール川に戻せばいい。
位置的にも、ダーカスからも、商業地区予定のネヒールの大岩にも近い。
なんて使えるんだ、あの穴。
掘ってよかったなぁ。
ダーカスから、未処理の汚水を流すと、下流のエフスとトーゴに影響する。
ダーカスの水の使用量は、ただでさえ
小学校のときに、社会科見学で行ったもんなぁ。市の廃水処理場。
公衆浴場の場所は、王様にお願いして、街中のいい場所を選べばみんな入りに来やすいし、お年寄りも楽だろうな。
あとは、芸人さんに笑いを提供して貰ってもいいよね。
うーん、こんなこと考えていると、なんかとてもローマだ。
ルシ○ス・モデストゥスに現れて欲しいぞ、俺。
「ルー、ということでよろしく」
「なにをだ!?
一人で考えてないで、説明してくださいよぅ!」
ああ、そうか。
今日は、口に出すのと出さないの、逆転させちゃったな。
− − − − − − −
王様から、使いが来た。
来いって言うから、ルーと王宮に行く。
いつもの挨拶もそこそこに、王様が言う。
「生者に特進は認められぬ。
したがって、大公位を授ける前に、公爵になっておいて貰わねばならない」
マジかよ。
この手の話は、本当に困る。
ルーに教わって、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵は覚えた。
でもその違いとか、価値とか判らねーんだよね。
言うまでもないけど、そういうのとは無縁な生活してきたからね。
で、だけど、公爵が独自の政庁を持てるほどの権力があるってのは、この間知った。ま、泥縄もいいところだ。
もしかしたら、王様とかダーカスの人達は、「『始元の大魔導師』様は本当に無欲で」なんて思っているかもしれないけど、俺に限らず、人は根本的に知らないものは欲しがらないよね。
で、どうしたもんだか……。
たぶん逃げられないのは、俺なりに解かっている。
前回のときは、王宮書記官さん達が、俺の経歴をでっち上げたってのは後から聞いた。
俺、現代日本にいたときは、鳴滝伯爵だったらしい。
6畳1LDKの、アパート住まいの伯爵だぜ。いぇーい。
で、ダーカスで侯爵になって、それが周知されちゃっているから、こういうややこしい話にもなる。
かといってさ、不名誉なことでもないと辞めることはできないし、侯爵様でも街の人は遠慮しないし、気楽に生きてきたんだけどね。公爵様になったら、も少し……。
もう少し、大切にされるのかな、俺。
……無理な気がするよ。
きっと、ダーカスのオババ達は、俺が公爵でも大臣でも、全身を撫で回すに違いない。いや、むしろもっと熱狂的になるかもしれない。
そんな俺の悩みなど、気が付かないふりで王様は続ける。
「公爵ともなれば、公爵領が無いでは済まされぬ。
余としては、エフスでも、トーゴでも自治領として差し上げたいが」
……デミウスさんは、トーゴの村長さんに内定しているけど、その村長との違いが解らないって言ったら、きっと怒られるんだろうな。
「我が王よ。
我が望みは唯一つ。
王とともに、この世界を救うこと。
いずれかの領主になることは、その歩みに足枷をさるることに等しく。
いろいろとお心遣いいただいて有難きことながら、我が身一つのことであれば、『豊穣の現人の女神』を無事勤め上げたのちのルイーザとの婚儀を許し賜われれば、過ぎたる恩賜」
「……言うたな、『始元の大魔導師』殿。
善きかな。
そのようなこと、口に出せぬ方かと疑っておったぞ」
ルー、どんな顔しているかな。
さすがに、王様の前で横は向けない。
「では、ルイーザよ、ようやく得た『始元の大魔導師』殿の手綱、引き続きしっかり執るが良い」
「ありがたき幸せ」
……ん?
なんで、「ようやく得た」ものを「引き続き」なんだって?
「ルイーザはの、『始元の大魔導師』殿。
放っておくと死してしまうほど、恋い焦がれておった。
余を含め、周りの者は何度それを語られたことか。
その度、乙女の恋バナを、中断させるのも忍びなくての。
気がついておったか?」
……えっ。
いやまぁ、
「ルイーザがいくら優秀でも、自分で努力したから必ず報われて手に入れられるものではないゆえ、話に付き合わされる我々も苦労したわ」
あ、そう。
「『始元の大魔導師』殿も、その胸の内を滅多にはルイーザには語られないからのう。
余も、朴念仁に水を向けるのに苦労したわ。
それも、1回では済まなんだからな。
ようやく、ようやくと、余は余を褒めてやりたい気分よ」
ああ、はい。
思い切って横のルーを見ると、ルー、俺が首を回すのと同じ速度で反対側を向きやがった。
今、どんな顔しているんだ、コイツは。
「では、こうしよう。
ルイーザと、前の筆頭魔術師の家格を、子爵家としよう。
結果的に、一代貴族の出の、廃絶前提の家とはなるが、『始元の大魔導師』殿と釣り合わなくもなかろう。
次に、『始元の大魔導師』殿は現在、侯爵にして『始元の大魔導師』、
さらに侯爵位を廃し、「ダーカスの王友にして国柱」という立場を新たに作ろう。
これにより、爵位に組み込まず、行動の自由を与えよう。
「ダーカスの王友にして国柱」の定義については、書記官に早急に詰めさせるが、公爵位と同等以上に考えておる。
領地はないが、その分の心配りはしよう。
また、産業を起こせし時は、その利潤は国税の対象外である。
どうだ?
それで飲んでくれぬか?」
俺、もう、頷くしかないじゃん。
ルーのことまで含めて、王様に全部してやられちゃった感じだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます