第22話 褒賞
さらに、さらに次の議題。
ケナンさんのパーティーへの報酬について。
王様には腹案があるらしい。
エフスの共同統治を任せたい、と。
現状、エフスには、エモーリ工房の農具が、再び大量生産されて運び込まれている。
冬作の種まきが終われば、春には収獲が期待できる。俺が自分の世界から持ち込んだ、小麦と大麦がいい仕事をしてくれるはずだし。
硝石を取ったあとの、大亀の排泄物も良い肥料みたいだしね。
すでにエフスにはぞくぞくとサフラの元兵士たちが集まりつつあって、開墾も始まりつつある。
そして、ダーカスの王様が、各国の王様に入植者の募集を掛けている。
となると、ケナンさんのパーティーの多国籍さが生きる。
どうせ、なんて言い方もないもんだけど、各国の入植者同士で絶対に揉めるからね。
それをどう裁いても、ダーカスの王様が仲裁に立てば、ダーカス寄りの決定をしたと言われてしまう。それに対して、ケナンさんのパーティーであれば、各国の代表同士の共同統治という形が、極めてすっきり実現できる。
土地を管理する以上、当然、爵位とセットになる。俺を差し置いて、領地持ちということだ。
いや、別に俺、領地は欲しくないけどね。ちょっと、「差し置いて」とか言ってみたかっただけ。ちょっと偉そうだし。
……なんか、考えてみたら、
まぁ、俺もだけど。
そう考えると、ちょっと悔しい。
まぁ、安定した職を、しかも貴族という座でいただけるのだから、それはありがたいことなんだろうね。
うーん、王様になってめでたしめでたしなんて童話、王様になってからの苦労の方が多いなんて子どもたちが知ったら、絶望するかも知れない。
貴族もそうだよね。
任じられてからが洒落にならん。
なんで、王様とか貴族とか大臣とか、果ては政治家とかって、暇で贅沢三昧しているなんて思っていたんだろうね、俺。
夜な夜な宴会開いて、ダンスしているんだと思っていた。
まったく、冗談じゃございませんよ、だ。
ともかく、ネヒール川の北岸の広大な土地が、水と避雷針アンテナの許す限り開墾を待っている。あ、あと肥料も必要だけどね。
トーゴの統治をデミウス夫妻に、エフスの統治をケナンさん達に、そして、その絶対的な首根っこである輸送は、ダーカスの王様が引き続き握る、と。
なるほどなぁ。
よくできているけど、王様、いつから考えていたんだろうね。
そしてもう1つ、ヴューユさん。
一代貴族から、世襲貴族に扱いを変えるって。
基本、一代貴族は男爵相当なんだけど、子爵にアップだそうだ。もっとも、魔術師の協会の承認が得られればだけど。
一代貴族は男爵相当って、具体的に聞いてびっくりしたよ。
ジャガイモしか思いつかないもん。男爵なんて単語。
魔術師は、土壇場で仕える王を裏切ることも想定されている。
例えば、戦争に負けそうになったとき、「究極の破壊魔法を使え」なんて命令されたらその命令には反しなければいけない。
また、魔術師がその破壊の力を持ったまま王朝を持っちまわないように、その子どもは魔術師になれない。
今回は、魔術師の独立性を守ること、ヴューユさん未だ子どもがいないこと、そして、子どもができても魔術師としては家を継がせないという宣誓をもって、魔術師協会として承認できるのかを問い合わせている。
前例がないことだから、決定されて回答がくるまで日数はかかるだろうね。
そして、いよいよの問題。
ルーの扱い。
ルーの業績、有りすぎて、でも、『豊穣の現人の女神』に選ばれたこと以外、特に持ち上げられることもなく来てしまっている。
特に今回の勲功は、爵位を与えるのであれば、伯爵相当だと。
で、ルー、ごくごくあっさりと「不要にございます」って。
で、あろうことか、王様、「まぁ、そうだと思った」って。
で、さらに王様、「欲するものは手に入れたのか?」って。
で、ルー、「邪魔は入りましたが、手に入れました」って。
なんのこっちゃ?
そう思っていたら、またルーに睨まれた。
なんなんだよ、一体。
なぜか、王様がため息をついた。
ついでに、会議に出ている他の人達もため息をついた。
……ああっ、そういうことかぁ。
解っているよ、ため息つかれるときは、「この、にぶちんがぁ!」って思われているの。
手に入れたのは、俺か。
手に入れたって、ルー、すぐ逃げたくせに。
女心ってやつ、俺には解んないよ。どうしたらいいっていうんだ?
王様、ため息つきながら続ける。
「だがな、功ある者に対し、なにもせんわけにはいかぬのだ。
ルイーザ、なにか所望いたせ」
ルー、なんか、低い声で答える。
「それでは、銀の盆に載せた『始元の大魔導師』様の……」
ぎくぎく。
なんなんだ、この一気に部屋中に漂う不穏な雰囲気は?
「首ならダメだぞ」
と王様。
俺の首!?
盆に載せた俺の首!?
なんでよ!?
「それもいいかも知れませんね。
言われると、確かにそれも良いかも……」
こらこら。
「ルイーザ、真面目に話せ。
だが、4枚の葉を所望されるくらいならば、余としてはいっそ首でもよいぞ」
「銀の盆に載せた、『始元の大魔導師』様のための4枚の葉を」
「やはり、そちらか……」
なんのこっちゃ?
「この大陸において、大公の位を極める意味は解っておろうの?」
「当然のこととして」
「余としても、さすがに即答はできぬ」
「心得ております」
だから、なんなんだよー。
俺をどうしよーってんだ?
「『始元の大魔導師』殿。
ルイーザは、王権を求めている。
王権を持っても、治める国がなければ、それを持つだけに留まるが、一旦乱世ともなればそれがものを言う。
王権は、王権を持つ者しか認められぬのだ。
したがって、かつて平時に大公の位を得た例はない」
王権って、俺を王様にしろってか、ルーは!?
バカジャネーノ?
明らかに向いてないだろう!?
「我が王よ。
ルイーザ殿の手柄への褒賞を、私に絡めたものとするのは、筋が違う話になると存じます。
あくまで、ルイーザ殿の身にかかることとするべきと愚考いたします」
そう逃げを打つ。
「『始元の大魔導師』殿の公爵位は内定しておる。この場で、それを話すことは、確定事項にしたに等しい。一先ずは、そこで話を留め、引き続き余は話を聞きたいと思う。
この場は解散とする。
これまでに決まったことにつき、速やかに命を果たすべし」
「御意」
会議は終わり、王様と大臣、俺とルーだけが残された。
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