第21話 決めなきゃいけないことがたくさん


 で、会議の目的は地名決めじゃないからね。

 ここからが本番だ。


 まずは、商人組合のティカレットさんとこの、番頭さんの処分。サフラからのスパイの元締めって身分がバレちゃったからね。

 で、取り調べもして、バーリキさん以外もすべて捕らえている。


 ティカレットさんからは、土下座一歩手前の謝罪があったそうだ。

 「知らぬこととはいえ、ダーカスに仇成したことは本当に申し訳ない」と。

 で、まずは、ティカレットさんへのペナルティをどうするかって話。


 実際、架橋祭まで、ダーカスの発展に協力してこなかったのは事実なんだよね。

 で、商人組合長としての権限停止とか、いろいろな案が出ているので、俺も提案してみた。


 トーゴの、流通路整備の資金を持って貰ったらどうかって。

 具体的には、港湾施設の整備、木造船の整備、そして、トーゴの先のリバータの入り江のリゾート整備。港湾施設はまだ、石の桟橋があるだけだからね。

 で、これだけだとさすがに可哀相なので、リゾート整備後の施設に、ティカレットさんの名前をつけていいよって。

 港湾施設も、倉庫群にならば名前を付けてもいいよって。


 俺は「ナルタキ・ランド」は死んでも嫌な人だけど、ティカレットさんは「ティカレット・ランド」を大喜びするタイプらしいからね。


 概ね、商人に流通の投資をさせるのは良い案だってことになったんだけど、ルーは凄く不満そうだ。

 理由は解かっている。

 ルーのお尻の触り賃は高いんだ。たぶん、日本円にして1億円くらいはする。そして、他にも被害を受けたダーカスの娘達は多い。

 そんなスケベオヤジの名前をつけたリゾートなんて、間違っても行きたくないと。


 「大丈夫。それが狙いです。

 リゾート建てさせて、全部上手く行くようにして、その上で客が来なかったら、名前を変えざるを得ない。

 本人としちゃ、いろいろ自覚せざるを得ないでしょーよ」

 そう言ってみる。

 それで、なんとかルーは納得したけど、いや、納得したフリだな。ダーカスの若い娘たちの間では、この際にということで、なにやら計画が進められているらしいし。

 まったく、女性が強いからね、ダーカスは。

 この先の水着回があるとしたら、どんな惨状があるのやら。


 で、番頭さん本人、もうサフラには帰れないと。結果的に、サフラの敗戦の一因となってしまったから、と。当然、ダーカスにもいられないって。

 仕方ないから、とりあえずトールケのリゾート送り。

 家族も、サフラに置いておくとどうなるか判らないって言うから、一緒でいいよって。

 現在、トールケのリゾートは調理人2人と、総支配人の体制だから、経理ができる人は必要だよね。それに、家族も奥さんがいるらしいから、仲居さんにいいよね。


 ただ、ペナルティは必要だから、1年間の無給。でも、メシは食わせると。

 1年経てば、給料も出るし生活は保証されるよ、と。

 そうでもしておかないと、ダーカスの一般市民から、「いきなり無罪放免かよ?」なんてある意味当然の意見が出るかもしれない。その延長で、まかり間違って番頭さんが殴られちゃったりしないように、苦労をして貰うことにしたんだ。


 戦争の後とかって、しばらくはどうしても人心が荒れるからって、大臣の意見。

 大臣がこういうこと言うの、ちょっと珍しい。ただ、一番最初の取り調べに大臣は同席しているから、なんか考えることもあったんだろうね。本音はともかく、ダーカスは慈悲の国だからさ。その顔を崩すわけには行かないし。

 それで1年経って、本人がダーカスに忠誠を誓うのを選ぶのであれば、国籍を変更を認めるってことで。

 まぁ、「みそぎ」ってヤツなんだろうね。



 次。

 ガ×ラの行き先が判明。

 硝石は、引き続いて回収が進んでいるけれど、ぽっかり開いた穴に大亀が戻ってくることはなかった。

 もしかしたら、ゴジ○と火薬の爆発が、よほどに怖かったのかもしれない。

 でも、定期便で、トーゴに残っているデミウスさんからお手紙届いた。

 ネヒール川の河口に近いほどの下流で、砂州に頭を乗っけてやっぱり寝ていたそうだ。それはもう、よだれを垂らしそうな顔で。


 で、どうするかって話になったんだけど、当然の結果になった。

 「放っておけ」

 以上。


 いくらでかくても、川を完全に塞ぐほどではないし、当然航海路としても邪魔ではあるけど、避ければいいだけだ、と。あれだけ臆病だと、開墾した田んぼに入り込んでくることもなかろうってさ。

 むしろ、生きている間は、観光資源にしようって。で。もう1000年くらいは生きているかもしれない。日光浴もできるようになって、より健康になるだろうし。そしたら、それはもう、トーゴの象徴でいいじゃないかと。



 さらに次の議題。

 二重スパイを演じたスィナンさん、非常時の河川輸送路の高速化を成し遂げたエモーリさん、戦いの勝因を作る協力をしたデリンさん。それぞれへの褒賞について。

 それぞれ、誰が欠けても、この勝利はなかったからね。

 俺とヴューユさんは、貴族扱いでノブレス・オブリージュがあるから、当然のこととして別扱い。

 ケナンさん達と、ルーに対しては、さらに別に検討するということで。


 スィナンさんとエモーリさん、称号とか貴族に列するとか、すべて断ってきたらしい。

 理由を聞けば、それはそれで納得だけど。

 「貴族になったら稼げない」

 ぐうの音も出ないよ。

 ノブレス・オブリージュに縛られたら、製品に儲けを乗せられなくなるからね。


 さらに、ひそひそされているのを聞くと、あの2人、よろしくないお店に遊びに行くこともあるらしくて、親の遺言で一切の歌舞音曲を遠ざけているはずのエモーリさんの歌が聞けるそうだ。

 そか、おねぇちゃんのいる店があったのかぁ。知らなかったなぁ。

 それは是非、行ってみなけれ……。

 ルー、なんで人の顔、じろじろ見るかな……。琥珀色の瞳が、トラかライオンみたいだな。

 行かねぇよ、俺は侯爵様だし。

 ちぇっ。


 で、仕方ないから、スィナンさんとエモーリさんには、個人としての什一税の免除だそうだ。

 工房の方は、ダーカスの税収の基幹になっているので、減税できないらしいけどね。

 あと、俺が持ち帰った、王室用のお値段の高い方のお皿を1枚ずつ。これは、王様が、特別に認めると。

 まぁ、2人とも工業系だからね。工芸製品は、この2人には税免除よりよほど嬉しかったみたいだ。経済的には、もう十分潤っているからね。

 ま、世界に10枚しかなくて、そのすべてがダーカスの王室にあるわけだから、箔付けてきな価値だけでも計り知れないよね。


 デリンさんについては、ヴューユさんから提案があった。

 やはり、デリンさんにも、経済的に報いてもあまり意味がないと。有り余っているからではなく、渡しても管理できない人だからと。

 ルーの親父さんからも口添えして貰って、リゴスに留学させてはどうかと。デリンさんのイメージ能力は、魔素物理の研究に大きく役立つだろうって。

 で、その研究者ということであれば、魔術師である必然性はどこにもないんだそうだ。

 なるほど、いいかも知れない。

 どこか浮世離れしていて、生活能力がないからね、デリンさん。才能を見いだされて生きる道があるのであれば、それはただ単純にいいことだと思うよ。

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