第20話 日常が戻ってくる


 ダーカスに着いて。

 いきなり、課題が1つ減っていることを告げられた。

 トールケのリゾート、もう数日で完成って。

 いくらなんでも早すぎる。

 だって、トーゴの開拓組と円形施設キクラ建造組が、風呂と台所しか完成してないっていうリゾートに押しかけて行ってから、10日ちょいぐらいしか経っていないんじゃないだろうか?


 理由を聞いたら、リゾートの根幹に関わる話になっていた。

 開拓組と建造組、風呂と美味い飯三昧に、たった2日で飽きたそうだ。

 心ゆくまで食っちゃ寝を楽しんでいる御老体のパターテさんを尻目に、ごそごそと蠢動を始めたらしい。デミウスさんっていう重しもないしね。

 で、最後は、大工頭領のマランゴさんに一喝されたらしい。邪魔だって。

 うーん、まだ嫁も貰っていない男の集団は、落ち着きがないってことなのかねぇ。まぁ、俺もだけど。


 で、マランゴさんが「そこまで暇なら手伝え」、と。

 120人からの元気な男も、退屈を紛らわすためになんでもするよって。

 というか、見事な鉋屑を奪い合って、すげえすげえとキャッキャウフフしているうちに、マランゴさんを尊敬しだしちゃっていたらしい。


 そこで、マランゴ工房の人達、全員で切ると削るに邁進。名工の弟子はまた名工みたいで、ぴかぴかに見えるほどなめらかに削られた柱材や壁材が、どんどん作られた、と。

 組む、建てるは開拓組。

 円形施設キクラ建造組が、石工の技でサイドからサポート。

 なんせ、みんなもう読み書きができるから、マランゴさんが描いた図面と、柱毎に振られた番号から仕事内容を理解して、削るそばから持っていって組んだらしい。

 そして、組むだけで100人もいるし、土台とかでここはどうかな? ってところがあっても、石工さんによって即手直しされる。

 だから、最後は、大工さんたち、削っても削ってもやたらと急かされる。

 

 最後は、マランゴ工房の面々から白旗が上がったそうだ。

 ということで、温泉旅館は、もう内装に入っていて、それもあっという間で終わると。


 江戸時代なんて、火事のあと、数時間で元通りに家が建っちまう世界だったらしいからね。話を聞けば、不可能じゃないって気がしてきたよ。

 ま、確かに、建物も江戸の建物と同じなんだろうな。建前が終われば8割り完成ってね。この世界には、クロス仕上げとかのインテリアもないし、配管配線工事もない。

 特に、ここはトイレは昔ながらの外の別棟で、温泉場と共に渡り廊下でつないだそうだし、水は温泉を使えって言えちゃう場所だからね。


 でも、配管配線工事がないって凄いよな。

 まぁ、俺の世界でも200年前にはまったくないし、100年前でも一般民家の配管はともかく、配線工事なんて極めて単純なものだったんだろうからね。よくもここまで生活に入り込んだものだ。

 この世界でも、そんな日は来るのかねぇ。

 

 

 で、話は戻る。

 建築の総力体勢は、思わぬ成果もあって。

 1つ目。円形施設キクラ建造組は、木造の屋根の掛け方を覚えた。

 これから、複数の円形施設キクラ建造にあたって、これは有利だ。

 2つ目は、トーゴの開拓村の住居。

 冬前には開墾組の住居ができているといいな、なんて心配していたけど、こんなん、一瞬でしょう。

 今回の戦争の舞台の仮橋を掛けた石工さん達が、引き続いてトーゴで建物の基礎を作ってくれているからね。その上に木造の家を建てるのであれば、リゾート建築よりもっと速い。

 なんせ、自分達の家だから、さらにマランゴさんたちを急かすだろうさ。

 たぶん、そのあとは、土塁で囲われた場所に家を建てることになるんだろうね。最低限の建築物が、冬前には完成するだろう。


 もしかして、マランゴさんなら、木造船も作れるかもね。


 ともかく、考えられないほどのスピードは歓迎だけど、リゾートで仕事してくるとか、覚えてくるってのは、わけが解らないよ。


 

 で、木造の建築物、たぶん省力化という要因もあって連棟形式だから、江戸の長屋みたいな生活が始まるんだろうな。

 となると、あとは、女性だな。お見合いパーティーでも開いてやらないと可哀相だよ。ダーカスにいる適齢期の女性なんて、本当に少ないからね。

 あとでルーに相談しておこう。



 次は、エモーリさんに定期便のゴムボート加速の秘密について聞きに行った。

 したらさ、あまりに当然の答えが帰ってきた。


 「水車という動力があって、ケーブルの動きを切り替えるためのクラッチがあって、そうすれば、次に考えるのはギヤボックスですよね」

 ああ、それはそうかも。

 言われて初めて気がついたけど。

 この世界に自動車はないから、考えがそっちに行かなかったよ。

 でも、エモーリさんはからくりが本業だもんね。それは考えるわ。

 他にもいろいろ考えていることがあるって、エモーリ工房、歯車がたくさんあった。


 ただ、さすがにシステム全体に負荷がかかるので、常時の運用は避けたいと。

 さらに、ボートが川を遡るときにはこの方法でいいけど、下るときは魔法とかのなんらかの方法で加速しないと、上り下りの速度差で、巻き上げたケーブルが川の中でとぐろを巻く。それが絡まったりしたら、川の流れの中でほどくことはほぼできないので、常時の運用は危険すぎると。

 なるほどね。

 それも解るよ。

 でも、種明かしをしてもらって、ようやく納得したよ。



 次は、王宮でいろいろと打ち合わせ。

 忙しいっちゃ忙しいけど、なんか、日常が戻ってきたみたい。

 まず、会議でいちいち発言が迂遠になるので、土塁を積んだ新しい開拓地に名前をつけようってことになった。話していて、万度「土塁を積んだ新しい開拓地」とかって、めんどくさすぎたんだ。

 「トーゴの開拓地」もあるから余計にね。


 で、第1案が「ナルタキ」だったので、それはなんとかブロックした。

 冗談じゃないよ。前々からアメリカ人ってスゲーと思っていたんだ。デ○ズニー・ランドって、自分の名前じゃん。よく恥ずかしくねーな、って。

 「ナルタキ・ランド」なんかできてみろ、恥ずかしさのあまり、余裕で死ねる。

 第2案が、「ウラルト」と「エフス」。

 ウラルトは、四角い土地にちなんでいるらしいし、エフスは「豊穣の女神」にちなんでいるらしい。


 ま、いろいろ意見はあったけど、決を取ったらエフスになった。

 広大な開墾地に相応しいってさ。

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