第15話 力の行使


 サフラの魔術師さん達の後ろで、全軍が整列しつつあった。

 呪文もそろそろ詠唱が終わる。

 この5人がかりの魔法が、ヴューユさんの魔力に勝ったら、ゴジ○はきっと消えてしまう。


 「4歩目、今!」

 ルー、構わずこのまま行くしかないと判断したんだろうな。

 俺も、ルーの指示に従ってスイッチを押す。

 5回目の爆音。


 神様はこの世界にもいるんだろうか?

 いたとして、豊穣以外の願いも聞き届けてくれるんだろうか?

 ゴジ○を消さないで欲しいです。


 そして、6回目の爆音。

 って、俺、なにもしていないぞ!


 サフラの皆さんの掘った穴、火山かっていうほど、もくもくと土煙が立ち上っている。

 そして、その縁に、巨大な手が掛かっているのが見えた。

 ぬぼーっとした大きな顔が、そのあとに続く。

 巨大な亀が、背中の甲羅を押さえつけていた重さが減ったためか、その目に久しぶりの光を感じたためか、這い出してきたんだ!

 6回目の爆音は、大量の土砂が跳ね飛ばされた音だ!


 穴から出てきたということは、サフラの軍の皆さんの至近ということ。

 隊列を組みつつあった皆さん、この追い打ちに必死に逃げ出した。中には、腰が抜けちまったのか四つん這いで走っている人もいる。

 魔術師さん達、詠唱を終えた呪文を、とっさに亀に向ける。


 このとっさの判断が、掘っていた墓穴を深めた。

 これは、あとからヴューユさんに聞いたんだけど。

 サフラの魔術師さん達が唱えていたのは、魔法による力場を解消する呪文。

 で、これが実在の動物に影響することなんかない。完全に目的外使用だ。大亀の全身に当たった呪文の力場は、なにごとをも起こしえない。


 ちなみに、ヴューユさんに「力場を無効化する呪文に、対抗する方法はあったの」って聞いたら、「相手が力場を無効化を掛ける、その一瞬だけ解呪しちゃえばいいんですよ」って、笑いながら言われた。

 もう、この辺の駆け引きは、俺には解らないよ。ただ、なすがままにされるのではないってことが判って、それは凄いと思う。



 ともかく、最初から力場なんて掛かってなくて、だから呪文を無視して、もがき続け全力で穴から這い出そうとする亀。


 「5歩目、今!」

 俺、ルーの指示に忠実に従う。

 ゴジ○がまた一歩近づく。

 サフラの軍の皆さんが走って逃げられるよう、出現場所をちょっと遠くに設定しておいたのが効いている。

 で、もしかしたら、だんだん近づく爆発の衝撃に、亀さんも逃げ出したのかもしれないけどね。

 

 ついに、耐えきれなくなった魔術師さん達までが、背中を向けて走り出した。

 「あ、あ、あれは、魔術による幻影ではございません!」

 裏返った悲鳴が聞こえてくる。

 そして、サフラの王までもがそれを聞いて逃げ出した。

 ついに全軍潰走。

 ゴジ○は幻なんだけどね。

 ガ×ラは本物の巨大亀が特別友情出演。

 運がよいのとありがたいので、感無量。

 ひょっとして、『豊穣の女神』様のお陰?


 「あの巨体では、谷は渡れぬ!

 橋を渡り、土塁の中に集結せよ!」

 それでも命令の声が響く。

 軍って組織は凄いねぇ。それでも踏み留まろうって人がいるんだ。

 俺、純粋に感動する。

 

 そして、それ以上に、ゴジ○とガ×ラの共演に感涙する俺。

 実写だかんな。それもCGではない実在の。


 「6歩目、今!」

 「7歩目、今!」

 これで、ゴジ○はガ×ラを追い抜いた。


 「魔術師、魔素の状況は?」

 「残念ながら、全員ほぼ限界です。

 もはや、まともに歩けるのは数人です」

 「くっ……」

 金の棍棒を持った600人で戦える相手じゃないよ。ゴジ○は。

 どうだ!


 ま、俺が「どうだ!」って猛るのもどーかと思うけど、サフラの皆さん、橋を駆け渡って、土塁の中に身を潜める。


 「8歩目、今!」

 「9歩目、今!」

 賭けてもいい。

 サフラの北岸の土塁の中に集結した計850人。この中で失禁している奴、絶対にいるよ。


 ヴューユさん、全身から汗が滴り落ち、湯気が立ち上っているようだ。

 呪文詠唱が高く、低く、響く。

 そして、その右手が上がる。


 「12歩目、今!」

 そこでゴジ○は立ち止まり、上空から土塁の中を睥睨する。

 ここで、ルーが立ち上がった。

 その姿はどこからでも見え、その叫び声は、この広い戦場をよく通った。

 右手を振る。

 「焼き払え!」

 ゴジ○が、大きな口を開く。


 サフラの魔術師さん達、立てる人全員が、高速詠唱している。

 すでに、足腰が立たなくなっている魔術師さんまでが、体内の魔素不足で発動するか判らない呪文を唱えている。

 力場発動。

 土塁全体を覆う、巨大で強固な力場のドームが見えたような気がした。


 そこへ、ルーの地獄の宣言がされた。

 「てへっ♡

 今のナシ。

 もう1回、行きますねっ!」

 

 ゴジ○の下顎が、ゆっくりと縦に裂けた。

 サフラの皆さん、感情を手放しちゃった人以外は、すすり泣いたり、地面を掻きむしったりしている。

 すでに、サフラの陣内に、自力で立てている魔術師はいない。

 「薙ぎ払え!!!」

 ルーの声に合わせて、俺、残りのスイッチをすべてを押し込む。

 ヴューユさんの、力場生成の呪文の効力も解放される。

 

 サフラの軍の周囲に、今までで最大の爆発が起きた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る