第11話 偵察 2
荷車の観察を続ける。
「ルー、あの荷車に掛けられている布、黄色っぽいなんか変わった色だけど、サフラはああいうの生産してる?」
「いえ、『始元の大魔導師』様がいらっしゃる以前は、ゴーチの木の樹液を染み込ませたものは皆あの色でしたよ。
長期間の防水ができない奴です」
「ああ、ギルドのサンプルで見たヤツかぁ」
「はい、あれが塗り拡げられると、ああいう色に」
これも、なるほど。
今さらの知識だけど、発見があるなぁ。
ヴューユさんが、「集中豪雨でびしょ濡れにする」って言う意味が解ったよ。あれは、防水しきれない弱いゴムシートなんだ。
荷車は多く見えたけど、大量の食料を持ち込んできたわけではなく、正体は材木と穴掘り道具だったらしい。それはそれで周到だけどな。
あと、どうやら武器はおそろいの棍棒のみ、防具は、着ている厚手の革の服と頭にかぶっている木の帽子のみのようだ。
それでも木材を使えるんだから、さすがは供給国。とはいえ、革の服に比べて、相当に古びて見えるけどね。
で、荷車に、特に武器類、防具類は積んでなさそう。
「こっちの世界だと、矢とかも持ち込まないだろうし、あの辺の荷車に積んであるのが糧食と考えると……」
「10日分ぐらいでしょうかね。
ここからサフラの国境まで2日、国境からサフラの首都までもう2日と考えれば、6日分しか余裕がありませんよ。
ここからダーカスに移動して、首都陥落まで状況を持っていくのに必要なのが仮に3日と考えれば、ここでは3日しか使える日程がありません。
確実にダーカスを落せて、食料を略奪できれば帰りの4日分はなんとかなるでしょうけど、それにしても最大に粘っても10日が限界です。
量を食うなって引き伸ばして12日でしょうけど、それをやると、サフラの王様、後ろから襲われるかもしれませんね」
うーん、怖いなぁ。
この世界に来てから、規模が小さいことによるテンポの速さには慣れてきているけど、それにしても籠城戦で10日なんてのは短すぎないかな?
ま、ダーカスの総戦力が40人と考えれば、そんな時間がかかるはずもないんだけど。
それに立て籠もっても、魔法による戦いはまた別なんだろうし。
さらにそれ以前に、ダーカスの街、立て籠もる場所がなかった。
そか、魔法による戦いを前提として、かつ弓矢とかの飛び道具がないと、城壁って必要なくなるんだ。
ダーカスの街のつくりというか、都市計画の意味、ようやく解ったよ。
棍棒と魔法の世界なのに、王宮はあっても、城とか城壁はないんだもん。
何年も掛けて、堀を深くし、城壁を高く築いても、力場の魔法一発で壊されちゃうんじゃ無駄だよね。
いくら、魔術師の余命をいくらか削ることと引き換えになるにしても、コストが違いすぎる。
また逆に、なまじの飛び道具じゃ、力場の魔法の防壁を抜けないよ。
それにさっきのゾーンネの魔法とか、普通に城壁の向こう側に場所指定して使えそうだ。
これじゃ、つくづく、城や城壁を作る意味がない。
無理やり城壁とかの必要な場面を考えるとすれば、両軍の魔法使いの魔素が均等に消費されて、同時になくなった時だもんな。で、そんなこと、滅多にないよ。
弓矢や投石機を作ったとしても、この世界では、その滅多にない状況になってからが出番なんだ。さらに、ここには弓や矢を作る素材も、ほとんどない。
ホント、飛び道具、意味ねーなぁ。
逆に疑問なんだけど、なんで剣と魔法の世界には城がセットなんだろうね?
ゲームの世界だと魔法にかかるコスト、この世界より遥かに小さく見える。MPの補給は宿屋に一泊だけだよ。コスト安すぎ。
で、城壁越し敵兵にザ○キとかバイ☆、城壁にイ☆ナズンとか、城全体にメテ☆とかクエ□クとかア△テマが使えるはずなんだよ。
魔法って冷静に考えると、土木工事とか、大建造物殺しだよね。
それなのに城が存在しているのは、やっばりカッコいいからかな?
ともかく、魔法のせいで城と飛び道具が封じられると、ここは剣とか槍とかの鉄製品がなかった世界だから、戦争は棍棒と盾の戦いに特化して行って……。
実際に戦いになったら、壮絶なものになるなぁ。頭とか潰された死屍累々って、あまりに嫌過ぎる。
そんな状況の中で。
火薬があるからって、銃なんて作った日には……。
絶対作らんぞ、俺。
冗談じゃない。
ここでえげつなく勝って、二度と戦いは起こさないようにしよう。
火薬が知れ渡れば、銃を思いつく奴、絶対いるからね。それはしかたない。でも、戦争にそれを使うのは止めて欲しいし、そうなれば、もう戦争は起きないに越したことはない。未来永劫なんて望まないけど、少なくとも俺が生きている間は、だ。
ま、話が横道に逸れすぎた。
ルーの見込みが正しければ、テントでのお籠り、3日程度の辛抱で済むことになる。
デリンさんは、もう完全に熟睡している。
このくらい太い感じでいられれば、3日なんて直ぐなんだろうね。
俺なんか、全然寝られなさそうだから、3日はとても長いだろうけど。
見守っている先では、飯の支度が始まっていた。
なんか、ダーカスの芋の粉とは違うものみたい。まだ芋の形が残っているのを、ざらざらというか、がらがらと鍋に入れて、河岸段丘の崖から湧いている水を汲んで浸している。
たぶん、これでしばらく戻したら、火を付けて煮るんだろうね。
野戦食とはいえ、質素なもんだ。
俺たちも質素だけど、干し肉とチーズがあるだけまだ豊かだと思う。
「干した芋だよね?」
ルーに確認してみた。
「はい。
だけど、あれは冬に凍らせているみたいですよ。
夜凍らせて、昼間溶けたのを踏んで、水を抜いてさらに干すと聞いたことがあります。
ダーカスの芋の粉より、遥かに保つみたいですよ」
ふーん、フリーズドライかぁ。
美味いのかな?
「悪くないらしいですよ、味」
「……なんで分かった?」
「『始元の大魔導師』様が、食べ物を見て、味を聞かないなんてありえないですから。
たとえ、最前線にいても」
横から、「くっくっくっ」って、ヴューユさんの押し殺した笑い声が聞こえる。
ちょっとさぁ、ルーってば、人のことどう思ってるんだよ。
20人くらいが芋の調理をしている脇で、荷車から木製のスコップが配られている。300本くらいかな。
あんなんで、土、掘れるのかね。
どう考えても、木の板なんて、いくら地面に押し付けたって入っていかない。やっぱり鉄じゃなきゃ、ダメだろうに。
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