第10話 偵察 1


 その場で即、橋の増強工事が始まって驚いたよ。

 荷車から、材木が下ろされている。補給の糧食だけでなく、材料も持ってきていたんだ……。

 どうやら、エモーリ工房謹製の荷車も、そこそこ数を持っているらしい。

 いや、サフラの商人から強制接収してきたんだろうな。

 きっと、ここにいた人達、土塁を積みながら、橋の工事の状況報告もしていたんだろうね。


 ダーカスが石工の国ならば、サフラは木工の国のようだ。

 石の橋に比べて、木の橋ができあがるのは早い。もっとも、しっかりとした基礎の石の橋脚が、すでに作られているというのも大きいとは思うけれど。

 あと、ケーブルシップのケーブルは巻き上げてしまっている。一応、川の流れの中では極めて見えにくいんだけど、橋の工事は橋脚まで登り降りしながらってことになるから、たぶん見つけられてしまう。また、そのあと、切られでもしたら困るからね。


 サフラの軍、工事中でも構わず仮橋を渡って、100人ほどを北岸に残して600人以上が南岸に移動した。

 迷彩のされたテントに、かなり近づかれているのでひやひやする。かといって、今さら逃げ出すなんて絶対できない。

 外から見て、周囲の岩に紛れてほとんど判らなかったということに、賭けるしかない。


 目の前を素通りした600人の中に、ボーラさんを見つけた。

 やっぱり来ているよなぁ。

 で、その近くで偉そうにしているのが、たぶん王様。態度がとても偉そう。

 なんだろうな、ヤヒウの毛ではないし、来ている服の素材が判らない。あんなカラフルでてかてかした素材、この世界にあったんだ。


 被り物は、うーん、まぁ、戦場だから兜なんだろうね。あんなトゲトゲのいっぱい付いたごついのを、日常的にかぶっていたら首が疲れそうだ。

 そう考えると、ダーカスの王様の兜はとても軽そうで楽そう。

 ……まさか、楽だからという理由で、プレデタ○的なあのデザインになったんじゃないだろうな?


 「まずは、コンデンサを確保」

 命令を下す声が聞こえた。

 そうだよね、当然そうなるよね。

 コンデンサを取りに向かえば、その途中にある竪穴に気がつくよね。

 気がつくように、ゴルフのグリーンに立っているような旗を立てておいたからね。


 遠目に、鳩首会議が始まったのが見える。そして、それを王様が蹴散らしてる。

 確かに、今は一刻も早くコンデンサだよ。

 今、ダーカスの魔術師が戻ってきたら、アウトだからね。

 うんうん、君達、頑張ってくれたまえ。


 ……あーあ。

 材木を下ろした荷車に、コンデンサを山積みにして戻ってきやがった。

 バッカだなぁ。

 コンデンサ、端子をむき出しのまま運んでいる。

 しかも扱いが雑で、荷車の上で跳ねているじゃんか。

 ショートしたら魔素が逃げちゃうぞ。

 現に今、「ぱちっ!」って音がした。

 意味も理解しないまま行動するってのは、ちょっと怖いよね。

 あの94個、すべてが終わったあとには、破棄処分だなぁ。あんな衝撃与えられたら、中で雲母が砕けちゃうよ。

 ああ、もったいない、もったいない。



 呪文詠唱が聞こえてきた。

 「魔素の移動をしてますね。

 これで、とりあえずは魔術師たちも復活するでしょう」

 ヴューユさんがささやく。

 「穴、掘ってくんないかなー」

 俺もささやき返す。

 「掘らないって手はないでしょう。

 ほら、これから協議を始めるみたいですよ」

 ルーもささやく。


 デリンさんは干し肉齧るのに飽きたらしくて、丸くなって寝ている。素晴らしくマイペースだなー。羨ましいよ。

 うーん、そばかすメガネが好きな人なら、たまらんタイプなんだろうな、この娘。ま、この世界にはメガネないけど。


 「で、どうです?

 穴掘るとして、あの連中の状態だとどのくらい掛かりそうでしょう?」

 これは切実な問題だからね。


 1つ目。俺達のトイレを含むここの生活上。

 テントの裏側に一応の退避路は作ってあるけど、野グ○には全員慣れていないからね。いちいち見つからないように埋めるのも大変だし、誰かが埋めたところを掘り返しちまったりしたら最悪だし。

 そもそも、水と食料も最低限しか置いてないし、風呂も入れない。

 10日も穴掘りに掛けられたら、ルーにくっつかれたときに、糸を引くかもしれない。


 2つ目。彼らを降伏に追い込んだ場合、その武装解除とか、降伏文書の作成にはダーカスの王様を始めとする皆さんの助けが必要で、そのためにいいタイミングで来て貰わないといけないんだ。

 ダーカスから、こちらはずっと見守っていて貰っている。

 異常事態が起きたら、すぐに来て貰う手筈もできている。

 ただ、あんまり長い時間待たされると、誰でも不安になるからね。で、不安になるのに、見守って貰っているはずの手は抜けていく。

 こちらから、金の鏡で信号を送ることもできるけど、どれほど急いでも2時間の距離は埋めがたい。そういう意味では、10kmの距離を超えての連携は極めて取りにくい。

 だから、相手の動きが事前に予想が付けば、とても助かるんだ。



 で、俺の質問に、ヴューユさんがひそひそと答えてくれる。 

 「意志の問題で、技術の問題じゃないんですよね。

 600人の掘る人と魔素はあるので、あとはどれほど急ぐかという話ですからね」

 「うーん、急いでもらいたいなぁ。

 風呂に入れずに臭くなる前に……」

 「それは相手も同じです。

 持ち込んだ糧食の事情によっても決まるでしょうね」

 「なるほど、多ければゆっくり構えられるし、少なければ急がないとなんですね」

 「相手の糧食、減らして差し上げますか?」

 「どうやって、そんなことが?」

 「例えば、火を付けるとか、集中豪雨でびしょ濡れにするとか……」

 うーん、それもいいけど、あまりに作為的なのは俺達の存在がバレるから避けたいし、ルーの作戦の延長で行くならば、労力とかと一緒に頂いてしまいたいところではある。


 そこで、ルーが話に加わった。

 「『始元の大魔導師』様と筆頭魔術師様。

 ここのところ仲がよろしいのは結構ですが、悪だくみ以前に、持ち込んできた量の見切りですよ。

 あまり食糧を持ち込んできていないのに、それが食べられなくなっちゃったなんてことになったら、穴を掘ってくれる前に帰っちゃいますよ」

 「そらそーだ」

 「まだ荷を積んでいる荷車の状況を見ると、掛けられた布がごつごつして見えるのは、穴掘り道具でしょう。

 箱に入って、整然と積まれているのが食糧ではないでしょうか?」

 なるほど。

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