第7話 特撮の仕込み


 2日後に、魔素流が来る。

 今回のはダーカスから外れた場所から、トーゴに入るそうだ。

 おかげで今回の魔素流については、心置きなく実験ができる。

 ここにあるコンデンサへの充電が、魔術師さんの手を借りずに自動的にできれば、ひとまずは大きな前進だ。


 そして、焦眉の急はこちらの方。

 土塁工事は、ものの3日ほどで終わったらしい。

 魔素流の来る前日に、つまり明日に、土塁工事に関わったをこの場所に案内して、充填前のコンデンサを見学させる。

 仮架橋も終わっているから、そこそこの人数でも来てもらうことに問題はない。


 この見学のお誘いの言葉も、戦勝後の布石になっている。

 「ダーカスは平和共存を目指しており、そのために円形施設キクラの増設工程を情報公開をしている。

 技術的詳細は開発中なのでお教えできないが、それは従前から言っている通りのこと。予定されている各国の王との会合ののち、平和条約の締結を条件に、すべてを公開する。

 今は現時点での状況について公開するので、どうぞおいでを」

 と。


 あくまで善意でお誘いしているんだよね。

 ダーカスからの定期便でも、30名くらいは呼ぼうと。

 サフラだけでなく、他の国の人もみんな来るだろうね。

 それを戦争に利用したら、どう評価されるか、ってことだ。

 


 見学の案内は、最年少の魔術師さんと、ダーカスからの定期便で行った応援の王宮スタッフで行う。

 俺とヴューユさんと残念なは、入れ替わりに土塁工事現場に行き、架橋工事を終えた石工さん達の助けを借りて黒色火薬を仕掛ける。

 それが終わったら、俺たちは物陰に身を隠してサフラの軍の動きを見極める。石工さん達はトーゴの開拓地へ。開拓者団地の建物の基礎作りに移動だ。


 あと、さすがにいつまでも「残念な娘」では可哀相なので、名前を聞いたよ。したら、デリンさんだって。

 デリンさん、一瞬で失神しちゃったから、怪獣の鋳型のイメージは大丈夫かな? って確認した。

 したら、一生克明に脳裏に映し出せるほどのインパクトがあったから、完全に大丈夫だと。

 ま、それを信じましょう。ヴューユさんも大丈夫だって言うし。



 ともかく。

 俺達の懸念が杞憂でなかったら、魔素流来襲からものの数日で、サフラの軍勢が押し寄せてくるはずだ。

 「今回の魔素流後ではなくて、次の魔素流後に戦争が延期になることはないの」って聞いたら、ルーは明確に否定した。

 こちらはまだ残暑で汗をかくようだけど、サフラは秋の足音を感じているはずだって。

 収獲と冬支度を失敗したら、あっけなく国全体が滅びる。サフラの冬はそのくらい厳しい。

 だから、秋が深まる前に来るって。

 戦争って風物詩だったんだね。知らなかったよ。


 ただ、ルーが言うには、必ずもう1つ前兆があるはずだって。

 例えば、事故死したことになっているバーリキさんの件をほじくり返して、結んだばかりの平和条約の破棄と、攻め込んでくる大義名分にするかもって。

 口実はどうとでも付けられる。ただ、平和条約の破棄と、大義名分を明らかにしておかないと、単純に国家的悪事にされて、戦勝を確定できないって。

 タイミング的には、その口上を述べる使者が来るのが、今日とか明日とかでも不思議はないとさ。


 宣戦布告ってヤツかなぁ。

 物騒なことだ。

 ……なんて他人事にはしていられない立場だったよ。



 さて、事態がどんどん進んでいる以上、作戦を実行する瞬間まで、より作戦の効果を高める努力はするべきだろうな。

 でも、特撮モノの知識なんて、そうあるほうじゃない。

 でも、もう少しなんとか、もう少しなんとか、なんて思って円形施設キクラの周りをうろうろする。ダーカスならまだしも、それこそここではなにもない。

 円形施設キクラを3周したところで、大量の石材の粉に目が吸い寄せられた。石材を積む時は、すり合わせをしてぴったり隙間なく積んでいく。そのすり合わせの時に出た廃棄物だ。


 これって、火薬の回りに巻きつけておいたら、爆発が派手に見えるよね。

 ただでさえ、黒色火薬は煙が多い。それに、この石の粉も混じったら、より実在感が増すはずだ。だって、煙だけだと向こうが透けて見えるかもしれないけど、石の粉が入ったら多分透けない。その分、実在のものに見えるはずだ。


 そもそもだけど、火薬はよくて地表での爆発だ。爆弾を「空中に浮かせておく」なんてできないからね。

 となると、地表の爆発での爆煙が、鋳型のゴジ△のてっぺんまで届かないと情けないことになる。「胸まではいいけど頭が透けてた」じゃあ、マヌケじゃん。

 それが、この粉で結構いい感じになるんじゃないのかな。


 こういうときに、ネットが使えないのは本当に不便だと思うよ。いろいろな本は買って持ち込んだけど、さすがに特撮の技法の本はなかったと思う。

 でも、思考の方向まとまったので、一気にいろいろな案が浮かんできた。

 つまり、爆発を華々しくするものを、火薬の回りに置こうってこと。


 トーゴの洞窟は鍾乳洞だ。

 鍾乳洞は、石灰岩でできているんだった。この星も、昔は繁栄を極めていたわけだから、貝なんかもいたのかもしれない。今もいるかもだけど。

 で、石灰岩はカルシウムからできている。小学校のとき、そう先生に教わった。運動会の準備で、校庭に白線描いたときだ。

 誰かが、「この粉は毒だ」とか言い出してプチ騒ぎになった時に、先生がこれは消石灰で安全だって言ったんだよ。


 だから、鍾乳洞の石の粉、つまりカルシウムを火薬の回りに入れたら、炎色反応で爆炎がより派手になるかもしれない。

 うんうん唸っていたら、中学の理科の知識が薄らぼんやり湧き上がってきた。

「かりる橙」で、カルシウムはオレンジ色……、だったんじゃないかな?

 これ以外は、リアカーと馬力しか思い出せないけど。

 でもさ、黒い身体から透けるオレンジ色の炎、いいじゃないか。


 それから、トーゴの開拓組が、イコモの藁を置いていってくれている。石材を乾かすための燃料としてだ。

 でも、実際に燃やしてみたら、煙は凄いわ、一瞬で燃え尽きちまうわで、その目的には使えないってことで積み上げてある。

 これも一気に燃え上がるし、燃えながら舞い上がるだろう。煙も出るし。

 となると、さらにさらに、それっぽく見えるんじゃないかな。


 うん、こういうのを考えるのは、なかなかに楽しい。

 中学のとき、もっと真面目に勉強しとけばよかった。

 さすがのルーも、こういうことにはアテにならないからね。


 さて、考えもまとまったし、残り少ない時間を使って、準備だ。現地で使える時間は限られている。配線の手間もある。がんばらないと、間に合わないよ。

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