第25話 トーゴへの出発、円形施設の完成
今回も、河川周りの地図を見ていただきながらのほうが理解しやすいかと思います。
よろしかったら、どうぞ。
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トーゴへの移動準備が整った。
出発はヴューユさんと一緒だ。
石工さんたちも一緒。
俺、そこそこの数のコンデンサと、工具箱を持っていく。
そこそこというのは、サフラとの戦乱が予想されるから、相手に渡していいと想定できる魔素量の量を見切ったコンデンサの数だ。これは、筆頭魔術師のヴューユさんが出してくれた数だ。
で、具体的に言うと、94個。
魔素流が来て、満タンになったコンデンサを見て、「ここからここまで持っていって欲しい」って言われた数。
もう、魔素流対応は、安全に制御できるルーチンとなりつつある。
もっとも、トーゴの
この94個という数は、ダーカスの
その一方で、治癒魔法にすれば940回相当だから、こんなに渡していいのかとも思う。だけど、穴掘りをさせることを考えると、このくらいは置いてやらないとその気にならないかもだって。
で、なんで100個じゃないのかって思うじゃん。
したら、ルー曰く、これが高度に極めた魔術師の怖いところだって。
そう言えば、この世界に来てすぐ、ルーに言われたんだった。
一般的に魔術師は、感覚だけで魔素の量の見切りをやっていて、「それができて一人前」という話だった。
ヴューユさんは、精密で厳密な魔法を使う人だから、その感覚も当然のように磨き抜かれているらしい。
だから、94個という数字が結果として出されたんだろうな。
寿司職人が、米の粒1つの誤差もなく寿司を握れるようなもんなのかもね。傍目で見れば超能力と大して違いはなく感じるけど、間違いなく修行の成果だというヤツだ。
そもそもサフラの軍の人たちが600人で掘ることを考えれば、掘っている人の怪我の治療とか、土の状態の確認とかでも相当に魔法を使う。
魔法で直接掘るのは、よほどに難しいところに限られるだろうと。
そう考えると、治癒魔法にして940回分の魔素ってのは良い量なんだってさ。
ただ、サフラの魔術師の中には魔力自慢がいるって言うから、それなりに効率よく土を掘るだろうとはヴューユさんも踏んでいるみたい。
そのあたり、単に「重さ×移動距離」ではないという、「加減」というか「具合」があるのが、やっぱり科学では割り切れない魔法ってモノなんだなって思うよ。
ともかく、穴掘りはリスクがゼロじゃない。
大人数の人を動かして工事すること、それ自体にリスクもあるし、コンデンサに不具合があれば魔術師の寿命が縮む。
で、ヴューユさんの見込みの結果は、硝石に届いたとしても、兵力は疲れ果てていて、魔術師は体内も含めてすべての魔素を使い切っている状態になると。
その状態になったところへ喧嘩をふっかけようというルーも、そのぎりぎりの状態を見切って作り出すヴューユさんも、相当にイジワルな発想ができるのかも。
「硝石に届くぞ」って、掘らざるをえない心理状況に追い込むという、最初から相手を嵌め込んでいる作戦だもんね。
ああ、くわばらくわばら。
ともかく、俺は一番若い魔術師さんとトーゴの
ヴューユさんが魔法で穴を掘ったら、エモーリさんの工房の面々が、今回の作戦に使う最小限の硝石を、ひそかに回収することになっている。
石工さん達は、ネヒール川に極めて簡易な、渡れるだけの仮橋を架ける。耐久性なんか全然ない、間に合わせのヤツを。
こうしておけば、軍を渡すためにサフラで勝手に補強してくれるはずだ。
それを短期間で終わらせたら、トーゴの開拓村の工事をちゃっちゃっと済ませる予定。
大人数で行って、開拓村の建物の土台を作るのと、船着場を作るんだ。
このあたり、もう規格石材ブロックなんか使わないそうだ。
石組みの建物を建てるわけじゃく、木造建築の土台だけだからね。
船着場の方は、現地で大石を調達して組んだ方が、早く工事が終えられるってさ。
同時に、サフラからダーカスに派遣された人達に来てもらって、ネヒール川北岸の土塁工事をして貰う。正体は間違いなく、サフラの兵かスパイの群れだけどね。
どうも、ダーカスに長くいられると碌なことをしそうにない面々なので、早く移動させた方が良いみたいなんだ。
どうやら、「できるのであればダーカスに混乱を起こせ」くらいの命令は受けていそうだしね。
トプさんとハヤットさんのタッグで見張っているにしても、限界がある。ダーカスは、俺が持ち込んだ動物たちも順調に子どもを産んだり、卵を産んだりしている。そっちへの嫌がらせは、さらになんとしても避けなきゃだしね。
で、土塁工事に頑張ってもらったら、その面々をトーゴの
その隙に、土塁の外側に火薬を仕掛け、点火の電気配線を埋める。
本当は地下配線は直接埋めちゃダメで、PF管という管に通して0.3m以上深く埋めなきゃいけない。
でもまあ、一回限りの使用で、電源に繋がらない配線だから許して貰おう。でも、本当に本当は、やっちゃいけないことなんだけどね。
以上が、ルーの考えた作戦を具体化した手順だ。
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で、俺、トーゴの
川下りをしたとき以来で久しぶりに会ったけど、なんか日焼けして精悍な感じになっている。
工事現場で寝泊まりしていたから、苦労したんだろうねぇ。
ダーカスの
屋根がスレートの石板で、耐久性が高いからできることだ。
ただ、ダーカスの
まずは、一番若い魔術師さんが嫌というほどチェックを繰り返したという文様について、再チェックをする。ルーにもお願いして、トリプルチェックだ。
30分くらいで、間違いのないことが確認できたので、今度はテスターを取り出して要所要所の抵抗値を計る。これで、ダーカスの
ダーカスで作って持ってきた数値の一覧表に、トーゴの実測値も書き入れて比較する。これで、一か所、文様の埋め金の繋がっていない場所が見つかったので、槌で軽く叩いて金を延ばして繋ぐ。ほとんど見えるような隙間はなかったので、金を足すまではしなかったけど、こんなの、やっぱりテスターでもないと、なかなか見つけられないよ。
金属同士が触れ合っていても、しっかりカシメるなりしておかないと電気を流さないことがあるのは、頭では解かっていてもいつも本当に不思議だ。
ともかく、これでこの建物の天辺から、床の真ん中までの機能は確認できた。
俺がこの世界に来たときの
魔術師さんが身を焼くリスクを負うならば、使える状態ってこと。
でも、それじゃ意味がない。
コンデンサを繋ぎ、さらに魔術師の魔法が記録された蓄魔素機と、薄くゴムを引いた手の大きさの金の金網を繋ぐ。
自分の世界から持ってきた、ブレーカースイッチもだ。果たして使えるかどうか。久しぶりの配電盤工事だったよ。
魔素流の処理の、ほぼ完全な自動化をこの場所で実験する。
万が一の失敗を考えると、ダーカスではできないからね。
これが完全に稼働したら、ダーカスの
同時に、これに成功すれば、魔術師でない人間でもマニュアルに沿ったメンテができることになる。
魔術師の数は限られている。
「なにか」があったときは魔術師さん達に対応してもらうしかないけど、ルーティンからは解放したい。そうでないと、この世界の発展は魔術師の数に制約されてしまう。
工事自体は、あっという間。
コンデンサの数も少ないから、リングスリーブでカシメて配線していくのもそう苦労はない。
ただ、実際に魔素流が来るまでは、狙い通りに動くかは判らない。
ま、単純なシステムではあるから、大丈夫だとは思うよ。
そして……。
これがうまくいけば、ゼニスの山、トールケの火の山にも
この世界の発展は、新たなステージに移ることになるんだ。
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