第七章 召喚後180日から210日後まで(2つの争乱)

第1話 トーゴにて告白 1


 トーゴの円形施設キクラでの、作業1日目を終えた。

 手近な岩にルーと並んで座って、夕日を見ながらぼーっとしている。

 この明るさでは不十分だろうけど、スマホの充電もしている。昼間、そんな時間もなかったからね。

 他に人も殆どいないし、その人達も夕食の準備をしているから、とても静かだ。

 最年少の魔術師さんの仕事が行き届いていたので、俺のやることは予想外に少なかった。

 それが、なんか嬉しい。


 俺がやっていることなんて、そう大したことじゃない。

 第二種電気工事士なんて、日本中で年間7〜8万人も合格している。

 俺以外の第二種電気工事士のだれかが、この世界に来て、だ。

 俺と同じように高校を出ていて、同じようにY○u Tubeなんか見ていたら、同じことができないとは思えないんだよね。


 となれば、俺のやっていることは、この世界で一般化された方が良い技術ってことになる。必死で隠してオカルト隠されたものみたいな扱いにするモンじゃないよ。

 今回のサフラみたいな騒ぎも、もっとみんなで豊かになれれば起きなくなる。サフラの、「自分達だけが、取り残されて貧乏になるんじゃないか」って恐怖は、解らなくはないし。

 もっとも、みんなで豊かになった頃には、『始元の大魔導師』様の仕事は実は荒いものだった、なんて言われるかも知れないけど。

 

 「なぁ、ルー。

 歳をとる頃には、俺、この世界で必要とされなくなると思うんだ……」

 岩場と、太い鉛筆が立っているみたいな円形施設キクラ、そして夕日。

 ルーの髪と瞳の色がアクセントになっている以外、茶色と灰色しかない世界が、赤く染め上げられている。殺風景で無音の中で、俺の声だけが必要以上に響いた気がした。


 「そりゃあ、そうでしょうね。

 歳とってまで、いつまでも必要とされるのは不幸じゃないですか?」

 例によって、しれっと言うねぇ。

 確かに、それも真実だなぁ。


 「俺が必要とされなくなったら、ルーはどうする?」

 俺、なにを言い出しているんだろうな?

 こんな静かな空間、久しぶりだからかも。

 「さぁ……。

 ナルタキ殿がそれを私に聞くのであれば、半年後に帰るのか、帰らないのかをはっきりして貰わないとです」

 むう。それもそうだなぁ。


 「……ルーの返事を聞いて、それから決めるんじゃダメかな?」

 「それは卑怯でしょう?」

 「いや、男女同権だからね。

 女だからと言って逃げるのはよくない」

 「だって、私がナルタキ殿の気に入る返事すれば帰らず、そうでなければ帰るって言っているのと同じですよ。

 男女同権とかの話じゃないでしょう?」

 「……そうだねぇ。

 ルーの言うとおりだ」

 そうだな、整然と論理的に話すことでは、俺はルーに敵わないよ。


 「私が『帰らないで欲しい』って言えばこの世界にいてくれて、それに後悔するようなことがあったら、それは私のせいですか?」

 「そんなこたー、言ってねーだろがよ!」

 思わず、語尾が強くなった。


 「だって、『この世界にいて欲しい』って私が言って、そのあと無責任に早死しちゃったらどうするんですか?

 そういうことも、あり得るでょう?

 私、自分の言いたいことは言えますけど、それに責任は取れないんですよ」

 「そんな責任、神様しか取れないよ。

 でもさ、長生きの努力をする約束は、して欲しいなぁ」

 そう、俺も頑張るからさ。


 「ルーは……、今、生まれてから何日くらい経っているのかな?

 1年の日数が俺の世界とは違うからさ、日で聞く方がいいよね?」

 初めて、俺、ルーに歳を聞いた。

 だって、これだけ一緒にいるのに、俺はルーのプライベートな顔をほとんど知らないんだよ。


 今までは、意識して聞かなかったんだけどさ。

 なんか、そろそろ良いかなって気がしたのは、いろいろなこと、みんな許されるかなって思うほど夕日が綺麗だったからかもしれない。

 我ながら、脈絡はないけど。


 ルー、シルバーブロンドの髪を、夕日で染めながら暗算して。

 「9500日くらいでしょうか」

 そう低い声で返してきた。

 スマホを取り上げて、計算する俺。

 34歳!?

 俺より年上じゃんか!


 「えっと、よく分かんないんだけど、この星で言ったら、何歳?」

 「まだ、17歳になって、そんなに経っていないですよ」

 えっ、誕生日、知らなかったぞ。

 それに、数字として「17」って、ますます判らん。


 「1年は281日だったよね?

 ならば、9500を281で割ったら、34歳にならない?」

 「だって、表の年と裏の年がありますから、年齢は17です」

 なんじゃそりゃあ!?

 もしかして、2年が過ぎると1つ歳を取るシステムかよ?


 ちょっと待て。

 地球の365日で換算すると……、俺より2つ年下かぁ。

 さらに、ちょっと待て。

 どう見ても、ルーは34歳はおろか、26歳にも見えない。

 厳密には2つの世界で、1日の長さ自体も違うけど、そのせいとも思えない。


 この国の最長老が138歳だったよね。それも、地球の暦に換算して106歳くらいって認識していた。

 えっと、もう1回、ちょっと待て。

 地球年齢に換算すると……、212歳!!


 ルーのプライベートだからとか、女性に年齢を聞くものではないとか、そんなこととは別に、一度、システムとして聞いておくべきだったな。


 考えれば考えほど解らない。どーなっているんだよ、コレ。

 えーっと、えーっと、あれか、エルフ?

 もしかして、やたらと長寿?

 繊細で弓が上手?

 耳も尖ってい……、ないなぁ。


 「えっと、ルー、ルーは尻尾が生えていたりする?」

 「なにを言い出すんですか、ナルタキ殿?」

 「いや、長生きする種族は耳が尖っているって話があるけど、ルーは尖っていないし、じゃあ、尻尾でも生えているかな? って」

 「ナルタキ殿はこの間のお風呂で、ダーカスのオババ達に大人気でしたけど、だれかに尻尾、生えてましたか?」

 「いや、全然」

 「私も生えてませんよ」


 もしかしたら……。

 この世界の生き物って、俺の世界から召喚されてきたものの子孫じゃないかって、そう考えたことがあった。

 で、それがさ、みんな少しずつ違うんだよ。


 ウツボはやたらとでかいリバータになってる。

 亀もでかくなったみたいだ。

 トラだかライオンだかはまだ見ていないから判らないけど、話に聞く範囲では、トオーラは6メートル近い巨大なネコ科猛獣っぽい。

 ヤヒウは羊以外の何物でもないけど、相当に選抜されているから、頑健で子沢山で、利用価値が高いという以外の差は余り感じない。でも、元はもう少し違っていたかも知れないよね。

 俺がこの世界に持ち込んだ家畜達は、まだ生まれてから1年経っていないものばかりだ。

 体の成長がどこで止まるかなんて、まだ正確には判らないだろう。

 となると、人間は?

 召喚を経験した人間は、どう変わるんだ?


 もしかしたら、召喚された人間も、一回は大きくなったんじゃないだろうか?

 でも、慢性的な食糧不足で、だんだん小さくなってしまった。で、その分、寿命が伸びた、とか? もしくは、体が大きくなると寿命も伸びて、でも慢性的な食糧不足で体だけ小さくなった、とか?

 体格と寿命が相関するかなんてのは、俺には判らない。

 でも、猫や犬が、人より長生きできないのは知っている。


 あとは、俺の世界とこの世界、同じ割合で時間が進んでいない。揺らぎがあって、相当の幅がある。

 そんなのも影響しているのかもしれないね。自分でなに言っているか解らないけど。

 可能性になりそうな項目を、挙げているだけだ。

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