第19話 またまた依頼
王様にお礼を言って、俺とルーはギルドに戻る。
人手が確保できたことでハヤットさんを喜ばせてあげたいし、ギルドへの依頼もあるからね。
ギルドに着くと、案の定、ハヤットさんとバーリキさん、不景気な顔して地区長室で座っている。
ルーは、即、受付に座って、いらいらしている冒険者たちに対応する。
俺は、王宮での話をハヤットさんに伝える。
まずは良いニュースから。
「人当たりがよくて、読み書きもできる、ダーカス出身の女性が2人来てくれるよ」という、これだけでハヤットさんは大喜びした。
ごっついおじさんの小躍りは、あまり見られたもんじゃなかったけれど。
「あと、今までいた娘は、筆頭魔術師様が引き取ってくれるそうです」
そう付け加えたら、ハヤットさん、安堵のあまり深呼吸レベルのため息をついた。
俺、それから自分の依頼の話をした。
「トールケの火の山周囲で、飲用の綺麗な水が入手でき、かつ温泉が引ける場所の選定」だ。
これができれば、避雷針アンテナを立てて、安全を確保したら即、工事だ。
ここで、バーリキさんが反応した。
「リゾートってなんですか?」と。
で、人は休む必要があるって話をしたんだけど、またもや床に這いつくばられたのにはびっくりしたよ。
「『始元の大魔導師』様。
あなたがこのようなお優しい方とは知らなかったとはいえ、私はなんでリゴスを出たあと、ダーカスに来なかったのでしょうか……。
忠誠を誓うのであれば、ダーカスでございましたぁ……」
あー、もーいいから、さっさと立ってくれないかな。
「お尋ねしますが、ダーカスの王宮には、サフラの王宮とのつながりはございますでしょうか?」
「あると思うよ。
たしか、ボーラさんだっけ、あの人なら知ってる」
「では、その方にお話して、大工のマランゴをお呼びください。
サフラで随一の大工です。
ですが、その腕をサフラでは認められず、不貞腐れております。
なので、サフラも容易に手放すことでしょう。
ダーカスは、現在、石工も石材も逼迫しているのは、トーゴにいましたからよく知っております。『始元の大魔導師』様のそのリゾートも、石で作るのであれば先が見えぬ話でありましょう。しかし、木造であれば、木材も出回っている折でもありますから、なんとでもなるのではないかと」
木造温泉旅館!
いいねぇ。それはいいねぇ。
檜風呂までは凝れなくても、風情はやっぱり木造だよ。
でも、俺、大工はたくさん見ているよ。腕は本当に良いのかねぇ?
「そのマランゴさん、腕は確かなの?
どんな技術をお持ちなのかな?
大工の技術は、それなりに解るよ、俺」
「マランゴが一束半の鉋を持つと、周りには人垣ができたものです。
なにしろ、幅一束半の鉋屑がさーっと2身長の長さでぶち切れずにつづくんですから」
えっと、この世界の『束』は手のひらの幅だから、だいたい8cm。一束半だと12cmだから4寸かぁ。2身長だと3.6メートルだから2間だな。
四寸鉋で、二間の鉋屑……。
「それは、マランゴさん、是非来てもらいましょう!
工事はお任せしたいですね!」
思わず興奮する俺。
元いた世界でも、そこまでの大工はそうそういない。
尺鉋で同じことができる神様も日本にはいるけど、俺はまだ会ったことがないからねぇ。
宮大工なんかだと、一般民家を作る頭領と住む世界からして違うし。
……あと、橋を架ける人と、土塁を作る人も、サフラから欲しかったんだった。
不特定多数を集めるってことで、王宮ではボーラさんの名前は出なかったけど、マランゴさんという特定の人を呼ぶのであれば、きちんと話が通る人に働きかけるのが良いからね。で、そうならば、いっそ、不特定多数分も一括して全部ボーラさんに話を持っていけばいいや、ってね。
だって、ボーラさんは、俺をサフラに連れて行くという密命を受けるほど、サフラの王宮で信頼されている人だ。
だから、こっちの狙いどおりにスパイを大量に紛れ込ませて、それでも確実に作業員を送ってくれそうな気がするよ。
そこまで考えたあたりで、ルーが疲れた顔をして地区長室に入ってきた。
どうやら、一通りの受付仕事を終わらせたらしい。
「ハヤット、1回ぐらい、なにかご馳走してくださいよ」
って、冗談めかしているけど、これ、絶対本気だよな。
疲れている人に追い打ちをかけるようだけど、サフラから大工を呼ぶ話とか、ルーに繋ぐ。
「ヤヒウの壺焼きを1回奢っているんだから、ボーラにはマランゴをこちらに送り届けるくらいはして貰わないと」
ルー、まず真っ先に言うことが、それかい?
それって、ハヤットさんに対するビリヤードだよね。ご馳走しろの2回目なんだ。
「ダーカスの王様自らが、ボーラに対し、サフラとの平和的共存発展の提案をしました。
それを裏切るつもりなら、こちらだってボーラを利用するのに良心は痛まないです」
ルー、続いてそう言い切る。
ま、そうだよね。
「となると、いっそ、馬鹿正直に、サフラに助けを求めるのはどうだろう?
王様がボーラさんをつうじて平和的発展の提案をしていて、その手助けをして欲しいって話になるのであれば、サフラが裏切ったときの悪評はより高くなるよね」
そう提案してみる。
ギルドか商人組合を通してなんて言っていたけど、ボーラさんから直接サフラの王宮に話が繋がるならば、公文書で出してもらえばもっと早いよね。
……戦争って怖いなぁ。
なんか、改めて思ったよ。
こちらが勝てば、そんな見込みが成立してサフラを追い込めるけど、負けたらそんな事実も飛び越えて、一気に悪役にされるんだろうね……。
「じゃあ、王の署名をいただく手紙の原案を作ります。それを王宮に持って行って書記さん浄書してもらって、公文書で出してもらえば記録にも残りますからね」
そうルーが判断してくれて、この話は終わった。
あとは、最初に話が戻るけれど、温泉旅館の場所の選定をする仕事の依頼だ。
「私が行きましょう」
とか言い出すハヤットさんを、ルーと2人で止める。
なんかもう、話の分かりそうな2人が来てくれるって言うんで、羽根を伸ばしたくて仕方ないらしい。でもさ、引き継ぎもなしにその2人をギルドに放り出すのは論外でしょーよ。
ただ、ハヤットさんにも一理あって、あの辺りの地理に詳しい人、ギルドにいない。他国から来た冒険者ばっかりだからね。
いないってか……。
なんだ、俺のコンデンサ工房にたくさんいるじゃん。
コンデンサやゴムを作り始めたときに、硫黄をトールケの火の山まで取りに行ったメンバーが何人かいる。
その人達に頼もう。
じゃ、ギルドに依頼を出すこと、なにもないじゃん。人手を集めるのは王宮を通してだし、トールケの探検もうちから人を出すことになるし。
それじゃあ、帰ろうかねぇ。
「ちょっと、ちょっと待ってください」
ハヤットさんに呼び止められる。
「前フリだけして、ギルドに依頼せずして帰られるのは結構ですけど、この場で残っている問題がもう1つありますよ」
「ええっ、そんなのってありますか!?」
判っていて聞く俺。
「このバーリキを連れて行ってください。
とりあえず、地区長室では行水もできないし、トイレもままならないですよ」
うーん、ハヤットさん、よっぽど自分の部屋を取り返したいらしい。
「目立たないよう、夜中にコンデンサ工房まで連れてきてください。口の固い誰かに依頼でいいです。
バーリキさん、リゾート建設、海に行く前に手伝ってくださいよ。
ほとぼりが冷めるまで、角度違いの場所に身を潜めるのは、悪いことではないしょうから」
そう提案する。
「はい、よろこんでー」
うーん、どっかで聞いたような返答だなぁ。
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