第17話 戦術 3



 とりあえず、ルーがとんでもないことを言い出したことによる目眩が治まってきたので、口を開く。

 「えっと、みなさまの驚愕は解りますが、おそらくはあの地中の亀は、火を噴く種類とは別の種類のものと思います。

 火を噴く種類だとしたら、もう硝石に引火して燃えているはずですから」

 すべてがフィクションからのデマカセだということにしちゃったら、ルーが可哀相すぎるので、こんな言い方になった。


 なんかさ、俺の部屋で留守番しているときに、目の玉を落っことしそうな驚愕の表情で、ガ×ラ見ている姿が簡単に想像できちゃったんだよね。

 Y○u Tube の関連動画の再生なんて、ランダムで運次第のところがあるから、他になに見ているか考えると怖いけどさ。

 あとで、首が3つある空飛ぶ鱗の生き物も、火を吹くトカゲもいないって、きちんと説明しとかなきゃ、だ。

 

 で、必死で頭を巡らせて、フォローを考える。

 「ただ、そのタイミングで逃げ出させる方法は、もう一つあると思うんですよ。

 あらかじめ、火薬を数百歩ごとに網の目のように仕掛けておいて、その小爆発がだんだん橋に近づくという演出をしたら、退路を断たれるって言うんで、橋に向かって必死に走るんじゃないでしょうか?

 魔法防壁を使おうにも、どこが爆発するか判らなければ使えないでしょうし。

 それぞれの火薬のタイミングを正確に図れますから、火を噴く亀より怖いと思いますよ。

 火薬の爆発に追い立てられる恐怖ってのは、けっこうなもののはずです」

 確か、音と光、衝撃と畏怖、恐慌、だっけ。


 でも、俺の提案は、ヴューユさんによって反対された。

 「いえ、それでは不十分でしょう。

 そもそも、火薬を欲する相手に対して単純に火薬で脅しを掛けるのは、逆効果になる可能性があります。これほど怖いならば、是非欲しいってね。

 そこはお任せください。

 火薬の威力を魔法の力場で、別のものに変えてご覧に入れましょう。

 ルイーザ殿、その火を吹く亀の図をいただきたい」


 ……マジか?

 きっと力場でガ×ラの形作って、その中で火薬を爆発させれば、爆煙で見上げるような怪獣を見せるのも簡単だし、地面に仕掛けるよりは火薬の量も節約できる。爆炎のあまりを口から吹き出させることもできるだろう。

 てことは、この目で怪獣大決戦が見られるのか?


 俺、もう止まらなかった。

 「いえ、ルイーザ殿の知識は不十分。

 『始元の大魔導師』たる私が、ゴジ△、キングギド△等の世にも恐ろしい怪物の姿をお知らせいたしましょう。

 600人の兵力を、皆、チビらせてやりましょうぞ」

 迸るように、口に出してしまう。

 てか、この場で、口を出さないでいられるヤツ、絶対いないぞ。

 

 

 「追い立てられる手があるのであれば良い。

 次を聞こうか」

 どこか、「はいはい」って感じの王様の声に、ルーが続ける。

 「橋を渡って北岸に逃げたところで、私が考える可能性は2つあります。

 穴掘りにもかかわらず、魔術師の体内に魔素が残っていたら、一度、彼らはまとまるはずです。

 魔法によって、火薬の爆発が制御できることは知っていますから、撤退するにせよ、再侵攻するにせよ、『魔法防壁に守られて』と考えるでしょう。ただ、魔法防壁は魔素の使用量の問題で張りっぱなしにできませんから、最終的には撤退に傾くでしょうけれど。

 一方で、魔術師の体内に魔素がまったく残っていなかったら、我先にばらばらに逃げるでしょう」


 ヴューユさん、頷く。

 「それならば、先ほどの話と条件が変わってしまうが、トーゴの円形施設キクラに、充填済みのコンデンサを幾つか置いておいてやればいい。

 それで、穴掘りも含めて相手の行動は制御できる」

 「であれば、橋を渡って、サフラの軍が土塁の中で態勢を整えるためにまとまったところで、その周囲を一斉に爆破しましょう」


 「周囲って?」

 イメージを掴みきれない、俺が聞く。

 「サフラ軍の陣を取り囲んで、全周で爆発を起こすのです。

 態勢を整えるときに、土塁の外には出ないでしょうから、その土塁の天辺を境界にして、その外側を火薬でふっ飛ばすんです。

 デッドエンドになりかねない場所で、優秀な指揮官がいれば近寄らないでしょうけど、そもそも自分達で作った場所ですからね。安心を求めて、絶対に入りますよ。

 そのあとは、なんなら、秒読みしてやっても良いかも知れません。

 爆破5秒前、4、3、2、1、って。で、魔法防壁の呪文を空振りさせてから、もう一度、3、2、1ってやったら、間違いなく鏖殺されたと思うでしょうから、さすがにめげるんじゃないでしょうか?」

 やり方が、汚たねぇ。

 ルー、Y○u Tubeか? なに見て、そんな手を覚えたんだよ?


 「外側の全周というところに、意味があるのだな?」

 王様が聞く。

 「これは、あの辺りを開墾するに当たってですが、防衛上の問題もありますけど、それ以上に生活の便利さから、環濠集落にしたらいいんじゃないでしょうか。

 あのあたり、水はあっても伏流水ですから、その深さまで掘って、堀の内側は水が汲みやすい住宅街、堀の外は水の得やすい耕地に利用するんです。

 その工事も、この爆破で一気に終わるかなと。

 その後に避雷針アンテナを立て、入植者を募れば村ができます。

 また、人がそこまでいないのであれば、『始元の大魔導師』様の持ち込まれた果樹を増やして植えてもよいのではないでしょうか。

 収穫まで何年もかかるものですから、それまでに入植者が決まれば良いわけですからね」


 考えることが、ずいぶんと欲張りだな、オイ。

 土木工事を一気に済ませてしまおうってか。

 それも、一石三とか四鳥くらいで。


 「少し話が飛びすぎてしまいました。

 外側の全周に爆破で堀が作れれば、そこから1人ずつ武装解除しながら解放してやれば良いかなと。

 きっと、今のサフラの木材大放出も、売上は軍備に消えてますからね。ついでに、600人分の武器防具は貰っておけば、より良いんじゃないでしょうか。

 武器防具をそれだけ売ったら、市場価格的には暴落しますけど、今回の仮設橋とか土塁とかの必要経費は賄えちゃうでしょう。

 特に、サフラ王の装備なんて、山のような銀貨で売れるかも知れませんよ。

 サフラでそれを買い戻すのであれば、二重に出費を強いられますし、ね。

 解放されて国に帰って、折れた心を立て直せても、しばらくは野望も持てなくなるでしょう」


 「ふむ。

 よかろう。

 ただ、トーゴの洞窟は筆頭魔術師殿に任せるにせよ、仮橋と土塁はどうする?

 その労力もあてはあるのか?

 ギルドに依頼するには、ちと仕事の色合いが違いすぎるが……」

 王様が、了承し、実際にその案を実行する過程での問題を指摘する。


 「サフラに作ってもらいましょう」

 ルーの返答は早い。

 「ギルドか商人組合を通して、サフラに仮橋と土塁を作る人の募集をかけたら良いと思うんです。

 報酬を支払う、通常の雇用としてです。

 サフラとしては、ダーカスに事前に送り込んで、情報を得られる人員は多いほど良いでしょう。

 積極的に送り込んできますよ。

 それに……」


 「人も盗むか?」

 ヴューユさんが言う。

 「はい」

 ルーが答えるけど、2人の言っていることの意味が解らない。


 でも、話し続けるルーの言葉に、迷いはない。

 「サフラの兵も、ギルドと同じ事情でしょう。

 徴兵されるならば、次男優先です。

 自分の生きる道は、兵役が終わってから自分で作らねばならない。

 武装解除するときに、『土地を与えるから、自分が作った橋と共にここで農民として生きないか?』とスカウトすればいいのです。

 数年も農民として生きれば、農地は自分の愛着あるものとなります。それを守るために、侵略者と戦うでしょう。それが、たとえ旧母国だとしてもです。

 警戒すべきは、土地の所有権を安堵しての侵略でしょうが、よほどの餌が必要です。すでに耕している所有地の所有を安堵すると言われても、そこに旨味はありません。ならば、そのままのほうが確実ですから」

 

 むー、そんなに上手くいくかな?

 「本国に残っている家族を、人質に取るってこともあるでしょう?

 バーリキさんみたいに……」

 と、指摘してみる。

 「上手くいくかどうかは、人数でしょうね。

 100人の単位でダーカスに残って村を作るとしたら、100人分の人質を取らねばならないのです。

 そして、そのことが生む問題は、サフラの王の足元に穴を掘ることになります」


 ヴューユさんが、解りやすくまとめてくれた。

 「つまり、他国に攻め込まれたにもかかわらず、その王を解放し、敵兵士にまで慈愛を持って土地を与え、生活の基盤を与えた王と、自らの兵士を見捨て、しかも臣民であるその家族を人質に取る王。

 そういう対立構図を作るのだな?

 そして、それは、ダーカスに残ってくれる人数が多いほど明確化する」

 「はい、仰るとおりです。

 『慈愛の賢王』の振る舞いを対外的に明らかにしておくと、サフラの王は、なにもできなくなると思うのです」

 なるほどねぇ。

 「人も盗むか?」って、まぁ、作戦としてはそういう表現かもだけど、盗まれる人はきっと幸せなんだよねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る