第16話 戦術 2


 ルーは話し続ける。

 「その『始元の大魔導師』様の魔力に対抗するために、話に聞く火薬というものを入手しようと考えるでしょう。

 トーゴには円形施設キクラもありますから、コンデンサが幾つかしかなくても、その充填も可能になります。もっとも、次の魔素流が来るまで待つという悠長な話にはなりますが。

 ただ、逆を言えば、魔素流が来るちょっと前って、攻めて来る日を絞り込まさせることも可能でしょうね。

 また、魔素流を待つ間に硝石も掘れる、火薬自体も作れると考えれば、苦には思わないでしょう。なんなら、建造途中の円形施設キクラに、食料庫でも置いて、数日分でも提供してやれば、さらに頑張って土木工事をするでしょう。

 もしも、そう考えずに短絡的にダーカスに攻めてきたら、単純に魔法による教訓を与えてやればよいのです。

 多少は負けても、退路としての橋を確保している間は、安心して体制を整えようとするでしょうし、そこから土木工事が始まってもおかしくはないでしょうね」


 「その間、トーゴの石工組と開拓組とかはどうするのか?」

 王様が聞く。

 たぶん、その語調だと答えは予想しているよね。あくまで、確認で聞いている。

 「トールケの火の山の麓で、温泉に入っていて貰いましょう。

 『始元の大魔導師』様に、リゾートを大車輪で作ってもらっておけば良いんです。

 サフラが攻めてくるのは、スィナンを抱き込んだあと、きっとイコモの収穫も終わる頃です。また、円形施設キクラも石工の工程は終わり、文様を形作る工程に入る頃でしょう。

 スィナンに、円形施設キクラの完成時期を漏らしてもらってもいいです。

 そうなれば、トーゴのみんなも、骨休めをしてもらうのにいい頃合いですよね」

 あー、そりゃそうだ。

 しかも、この案なら、トーゴにまだサフラのスパイが紛れていたとしても、そいつは自動的に距離を取らされてしまう。トーゴに残るなんて駄々をこねたら、目立ってしょうがない。


 たださぁ、俺が忙しいんだなぁ。リゾートと円形施設キクラを、即完成させるみたいな話じゃん。


 「橋はいいけど、地中の亀までの土木工事も、きちんとやってくれるかな?」

 そう、こちらの問題も確認してみる。

 「この作戦の最終的な戦略目標は、サフラの心を折ることです。そのために魔法と黒色火薬を組み合わせて、圧倒的な力を見せるという計画でした。

 いくらかは、この段階でも硝石が必要なんですよ。

 ですから、先発隊を出して、その分は掘っておきましょう。

 で、その掘り跡をそのままにしておけば、勝手に作業を続けて、さらに広げて掘ってくれますよ。

 橋と同じです。

 種を蒔いておけば、成長させてくれるでしょう」

 なるほど。

 でも、穴掘りって、魔法ならば簡単にできることじゃないのか?


 ルー、話し続ける。

 「この穴掘りに関しては、先程確認した伏線が効くはずです。

 この国の筆頭魔術師は、精密魔法は得意でも、力はないという誤解をサフラ王にしてもらうのです。

 妙に精密正確な穴だけど、妙に細い、みたいな。

 そうすると、力自慢のサフラの魔術師は、対抗心で魔素を大量に浪費しながら大穴を掘ってくれますよ。サフラの王に、『精密さより力』ということを証明して己の力を見せつけるために、ね」


 「穴掘りって、魔法でもそんなに大変なの?」

 我慢できずに、俺、聞いてしまう。

 だって、サイレージを作るとき、ヴューユさん、簡単に空間を歪めて、草を圧縮して空気を追い出してくれたくれたじゃん。あのとき、確か、コンデンサも使ったけど、12回、呪文を唱えたよね。


 答えてくれたのは、ヴューユさんだった。

 「魔法による力は、力積という考え方ですね。

 掛け算と割り算いう概念を、『始元の大魔導師』様がこの世界に持ち込んでくれて、我々も初めて数字として理解できたのです。

 まぁ、リゴスの指導魔術師と、前の筆頭魔術師は知っていたかもしれませんけどね。

 どうやら、魔力の強さと、それを発揮している時間を掛けたものは、魔術師ごとに一定のようなのですよ。

 サイレージは、草ですから、重さとしては軽いものでした。

 また、押し付けている時間も短かったのです。

 ネヒールの大岩の発破制御は、力としては膨大なものが必要でしたけど、その時間は『瞬間』でしかありませんでした」

 なるほど、ヴューユさんの言いたいことが解ってきた。


 「ですが、穴掘りとなると、土は重いですし、穴の底から土捨て場まで運ぶとなれば時間も掛かります。下に巨大な動物がいて、暴れだしたりしないようにと考えれば、さらに慎重さも必要でしょう。

 サイレージの牧草ともネヒールの大岩の発破制御とも、桁の違う魔素を消費するでしょうね。

 ですから、掘ってもらえるのであれば大歓迎です。

 いくら魔素が使い放題だと言っても、亀のいるところまで掘るとなれば、今の円形施設キクラにある、フル充填のコンデンサのすべてを使い切ってしまうかも知れません」


 そんなにか……。

 まぁ、そうかもなぁ。

 サイレージは部屋の中の移動にしか過ぎなかった。

 ということは、その時に比べて、重さは10倍、移動距離は50倍となったら、サイレージと同じ体積の土を動かすのに500倍の魔素を消費するということだ。ヴューユさんは12回の魔法でコンデンサを空にしたことを考えれば、これだけでコンデンサを42個使ってしまう。

 で、穴の直径と深さを考えたら、その100倍の土を運ぶとして、4200個のコンデンサか……。

 ヴューユさんの言うこと、ぜんぜんオーバーな話じゃないんだなぁ。


 やはり、いくら便利だからと言っても、土建業を魔法でやるのは大変らしいね。地道に掘るか、掘ってもらうかといえば、掘ってもらうに越したことはない。

 魔法も使えるだろうけど、600人の軍隊で人海戦術と組み合わせて掘ってもらえるのであれば、これはありがたいなあ。


 おまけに、亀も日光浴ができれば洞窟も生臭くなくなると思うし、トーゴの鍾乳洞の食料庫が無臭になったら、これは地味に嬉しいな。



 「そこまではいい。

 ただ、その後、すべてを放り出して帰ってもらわないと、歓迎会をしただけで、作戦としては成立しないが……」

 トプさんが初めて口を開いた。

 うん、確かにそれが最大の問題。

 今のところ、敵に塩を送っているだけだもんな。


 「『始元の大魔導師』様の世界に行っていたときに、私、見たんです。水汲み水車ノーリアを見たの同じところで、です。

 先ほど、筆頭魔術師様が、『巨大な動物がいて、暴れだしたりしないように』って心配されていましたけれど……。

 あの巨大な亀っていう生き物は、口から火球を吐くんですよ。しかも、手足を引っ込めて、そこからも火を噴いて空を飛ぶんです。

 だから、あの生き物を怒らせれば、サフラの軍隊は逃げていきますし、亀もいなくなりますから、硝石、安心して掘り放題になりますよ」

 ……ちょっと、待て。

 いや、全面的に待て!

 それは亀じゃあねぇ!

 それはガ×ラだ!!

 ルー、お前、Y○u Tubeで、なに見てたんだよ!?


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