第15話 戦術 1
今回お話に地理が入るので、挿絵図用意してあります。
よろしかったらどうぞ。
https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1292598904140120064
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ルーは続ける。
「実は、このことについてですけど、思いついたことがあるので、聞いていただきたいのです」
ん? なにを?
「戦争って、つまるところ『破壊』ですよね。
なら、『建設的な破壊』ができないかなと思いまして。
まずは、王様のお考えで、サフラの心を折るために、圧倒的な力を見せる。そのために、魔法と黒色火薬を組み合わせるという計画でしたよね。
また、永続する恨みを持たせないために、圧倒的な力を見せてもサフラの敵兵力に死者は出さないという条件でした。
そして、もう1つの条件があって、黒色火薬を作るためには、大量の
うん、そこまでは解っているよ。
「しかも、このあとエディとの間に交易路を作るため、ゼニスの山の工事の分も火薬も必要でしたよね」
ああ、そうだ。
「で、大量の肥は、ダーカスのどこにもありません」
……その通りだ。
残念ながら、それもルーの言うとおりだ。
人の排泄物をいくら集めようにも、元々の人口が少ない。この間の、ネヒールの大岩の発破でほとんど使ってしまった。
家畜のヤヒウの方は、基本的に放牧なので、土に垂れ流しだ。糞は拾われて回収されるけど、ほとんど燃料になって燃えてしまっているから、蓄積なんかまったくない。
「でもね、あるんですよ、国内に大量の肥が」
「どこに?」
釣られるように聞く俺。
他の人も興味津々で聞いている。
「トーゴの洞窟の奥です」
「……ああっ!」
地中の亀の1000年分のうん□とおしっ□かぁ!!
たしか、報告書では地下水の流れは、亀の頭の周囲を流れていってしまっていた図が描かれていた。亀の下半身には流れて行ってなかったはずだ。
うまくいけば、かなりの量の硝石が期待できるかも。
「でも、どうやってそれを地上まで運ぶ?」
「サフラの軍隊に、ネヒール川に橋を架けてもらって、穴も掘ってもらいましょうよ」
「なんだってー!?」
おもわず、揃ってベタな反応をしてしまった。
「詳しく話してもらおうか」
王様も言う。
「その前に1つ確認させてください。
筆頭魔術師様は、精密な魔法を使われますが、それは魔術師の横のつながりで、在サフラの魔術師にも知られていますよね?」
「ああ」
ルーの質問に、ヴューユさんは短く答える。
「サフラにいる魔術師に、力自慢はいますか?
ダーカスの
前の筆頭魔術師って、ルーの親父殿じゃないか。
「いますよ。
精密制御はできませんが、馬鹿力持っているのが1人」
「それはいいですね。そういう人って、ありがたいです。
成功率が上がりました」
全員が興味津々の中、ルーが話しだした。
「この作戦は、川下りの調査と、ケナンさんの洞窟探検の結果から導かれています。
地形を確認しておきますが、ネヒール川に沿って、上流側から南岸のダーカス、北岸からの湧き水、南岸からの湧き水、南岸の洞窟出口、トーゴの
それで、南岸からの湧き水が滝になっているところと、洞窟出口が近いんですよ。
それから、もう1つ別件ですが、この間の黒色火薬によるネヒールの大岩の発破に関する報告は、もうサフラを始めとする諸外国にされていると思うんですね」
うんうん、とみんなで頷く。
前提条件は理解できているよ。
ルー、説明を続ける。
「その上で、まずは川下りの調査で、北岸で水が滝になっているところに、仮の橋を架け、北岸に土塁を盛ることから始めます。
あくまで、予算の掛からない、仮の橋と仮の土塁でいいんです。
そして、湧水の元の伏流水を使って、北岸に集落を作り開墾するという噂を流しましょう。
もっとも、ここまではケーブルシップの船着き場も作る予定ですし、開墾もする予定ですから、何一つ嘘はありません。すでに知っている人も一定数いるでしょう」
確かに、川下りの後で、この場所は新しい集落を作りうると報告した。嘘はないよね。
「さて、サフラ側の視点に立ってみましょう。
ダーカスの主要拠点は、すべてネヒール川の南岸です。渡河は必須です。
で、2つ橋があったら、そして、片方はダーカスの王宮に至近だったら、どちらの橋を攻略しますか?」
「それは、ダーカスのアーチ橋は避けたいだろうな。
いくらダーカスの兵力が小さいとは言え、防御魔法も集中して使えるから、橋という幅の狭い場所であれば容易に守りうる。
また、ダーカスの占領を考えるのであれば、完成している橋の破壊は避けたいはずだし、迂回して南岸を押さえられれば、ダーカスのアーチ橋は自動的に手に入る」
ヴューユさんが言う。
「そうですね。
だから、きっと、下流側の湧水のあるところの橋を攻略するでしょう。
そして、攻略できたら、自分たちの軍と装備を渡すために、橋の補強をするでしょうね。なんといっても、サフラは木材を大量に持っていますから」
そりゃそうだ。
そこまでは納得だ。
「次は、自分で補強した橋は退路でもありますから、サフラの軍は橋を守る兵力を割いて、ネヒール川の上流と下流、どちらを攻めるか悩むはずです。
上流は、ダーカスの王宮と
下流は、
「ダーカスから打って出ず、ひたすらに守りを固めると同時に、トーゴに火薬の材料の硝石が埋まっているという情報を、サフラ軍に流すのだな?」
王様が先回りして言う。
「はい」
「なるほど。
ただ、それだけでは、下流にすぐに行くかは判らないんじゃないかな。
ダーカスを落としてから、ゆっくり掘ろうって考えるかもしれない」
一応、反論をしてみる。
「いえ、そうはなりませんよ。
なぜならば、ダーカスの
サフラがコンデンサを幾つか盗み出せていたとしても、それを再充填することはできませんし、サフラの魔術師が体内に持つ魔素と通常兵力のみでは、ほぼ無限の魔素を持つダーカスの魔術師に対抗するのは荷が重いでしょう。
最終的には、サフラの魔術師は魔素の消費を抑えるために、ダーカスの魔術師の妨害に徹するのみとし、あとは通常の兵力差で押し潰そうと考えるでしょう。
戦いに勝てる材料があるのであれば、先にそれを得に行くでしょうし、600人の兵力と、力持ちの魔術師がいて魔法によって効率的に硝石を掘る補助ができるのであれば、採掘にも時間がかからないと判断するでしょう」
そりゃそうだ。
戦いは人数だし、魔術師には絶対勝てないし、魔法は便利だもん。
「しかもですが、ダーカスには『始元の大魔導師』様がいます。
空を飛んでリバータすら倒したという、人の形をした化け物です。
念には念を入れるはずです」
こら、みんな、なんで笑うんだよ、そこで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます