第9話 魔術師の事情
「ルー、今日は、ハヤットさんのところにお手伝い、よろしく。
俺、今日はちょっと1人でいろいろ考えたい」
そう言って、ルーに手を振る。
どうせ、俺は嘘が下手だよ。
ルーの表情から、俺の嘘がバレているのが判る。俺、嘘は下手だけど、人が嘘ついていたり気を使っているのは判るんだ。
でも、とりあえずはルーがギルドに行けば、地区長のハヤットさん自らが受付をしなくて済むからね。
さて、と。
ゼーリ○ク元帥閣下とお話してきますかね。
自宅の屋敷の同じ屋根の下で暮らしている店子だけど、今の段階では、ルーには内緒にしておきたい。
学校について、校長先生に会いたいって言ったら、すぐに案内して貰えた。
ま、俺、
「これはめずらしい、どうされましたか?」
ってのを、威圧たっぷりに言われたよ。「くぉれは、むぇずらすぃ……」みたいな感じで。
「実は、相談がありまして……」
「ようやく、娘を貰っていただけますかな?」
ふう、見事なカウンターだ。
なんか、一気に話しにくくなったぜ。ルーに手を出しているわけじゃなし、怯える必要はないんだけどさ。
「リゴスの、魔法を学ぶ場所なんですけど……」
「それが、なにか?」
語調を変えるない、ただでさえ怖いんだからさ。
「ぶっちゃけて聞きますが、そこは、私が邪魔でしょうか?」
「いいえ、ぜんぜん」
「ホントに?」
「本当です」
……信じられねぇ。
なんで、そんなに食い気味なほど返事が早いんだ。
「そこは、
「ノーコメント」
それは狡いぞ。
「それなのに、あんな酷い状態に世界を置いていて、人など滅べはいいと思っている」
「ノーコメント」
なんか、頭にきた。
「俺、ここに来てから半年、いろんなことをしてきました。
それって、リゴスの魔法を学ぶ場所が『人など滅べはいい』と思っているとしたら、真逆のことをしてますよね。
俺のこと、殺してしまおうとか、思っていませんか?」
ハッキリ聞いてやった。
「思っているはず、ないじゃないですか」
平然と答えやがって。
だから、それが信じられねーんだよ。
「
きっと、これが組み合わされて、いろいろなことをしたんだと思いますれどね。私の持っている知識や技術とは角度が違っていて、良く解らない。
せめてその素材がなにか判ればと思ったんですけど、ギルドのハヤットさんですら判らない。
あとは、聞く相手としては、リゴスの魔法を学ぶ場所しかありませんけど、教えていただけるでしょうか?」
「それはできません」
目の前に壁が出現したような気がするほど、明確な拒絶だな。
「……なぜですか?」
「禁じられているからです」
「では、なぜ、その禁じられていることをしている私は、邪魔じゃないんですか?」
「『始元の大魔導師』殿。
あなたがなさっていることは、魔術ではありません。
あくまであなたが言う、『科学技術』というものでしょうな。
リゴスの魔法律師も、そこは明確に分けています。
魔素そのものに善悪はない。
魔素流は自然現象に過ぎない。
その魔素から自然発生的に生まれた、相互の治癒魔法なども、成り行きのうちでしょう。
ですが、その現象と己の体内の魔素を、己の力で己のために魔術師が操作すること、その目的で新たな呪文を錬成することが禁忌なのであって、あなたの言う科学技術で魔素を扱うことは律に反しないのです」
厳密に言ってくれたのは解るけど、おかげでなにが言いたいのか伝わってこない。
「良くは解らないのですが……」
「魔術師は、自然と人為を分けて考えています。
……そうだ、例を上げましょう。
『始元の大魔導師』殿の世界の法律の話です。
どうやら、そちらの世界では、剣などの武器を所有されていたら罰せられるようですな」
「はい」
……銃刀法なんか読んだのか、この人。
もっとも、学校は王宮の中だし、俺が持ち込んだ書籍もここにあるんだけどね。手分けして、どの本も誰かが必ず読むようにしているらしいから、知っていても不思議はない。
「では、1つ目です。
家庭の包丁は罰せられますか?」
「いえ、それはないですね」
「それが治癒魔法です。まぁ、雑多な、日常魔法もそのうちですね。
魔術師も使う魔法ですが、特に制限するものでもないのです」
「それは理解しました」
「では、2つ目です。
あなたの父上が合法的に武器を持っていて、お亡くなりになったら相続されてあなたが所有したことになりますね。お父上が亡くなられたら、あなたは即、処罰の対象となり、身柄を拘束されるか、ということです」
「それは、いくらなんでも……」
「酷い話になりますね。
なぜ、武器を持っていても処罰の対象にならないかと言えば、その所有の理由が『自然』によるものだからです。
お父上の所有は、『意志』による人為ですが、人の死は『自然』です。人の死を禁じる法律は、作る意味がありません。
『意志』による人為は制限されますが、『自然』の結果は即、制限に繋がりません。また、繋げようがありません。
すなわち、『魔術知の制限』には相当しないのです」
「はい……」
ようやく解ってきた。
前にヴューユさんと話したときも感じたけど、魔術師は自分たちの力について、厳密に自律しているんだ。
「『始元の大魔導師』殿、あなた方の言葉が、期せずしてあなたの行動を説明しています。
『始元の大魔導師』殿の範囲は『自然科学』なのですよ。
魔術師でなくても誰もが実行可能であり、その技術を使えば誰でもその現象を再現ができます。したがって、これは『自然』の範囲にあることで、この世界の人類全体が制御を考えることであり、魔術師が制限することはできません。
魔術師の行動が、その才能のみによって独断で天地の破壊まで為すのとは対照的です。だから、魔術師は魔術師を律するのです」
うん、ヴューユさんから聞いた話と矛盾しない。
そか、俺、
自分の知識で、断線した文様とか、金を埋めて修理した。
だから、セーフなのか。
この世界のどこにでもある金を使って、この世界の一般的な職人の手で修理したら、それは魔術師の技ではないな、確かに。
でも、文様の物質を魔法で錬成したら、それは制限の対象になる。魔術師の技だからだ。
で、この石と『魔術師の服』の材質も、同じように試行錯誤で見つけ出してしまえば、それは魔法ではなくなるのだろう。
たしか、化学の授業で、先生に言われたよな。「化学はアルケミーで、錬金術のことだ」って。で、「錬金術は化学の基礎になった」って。
なんか、すごくよく解ったよ。
錬金術は化学で、科学に繋がる。
でも、「錬金術で作られる賢者の石」はオカルトの物品で、魔術なんだ。きっと試行錯誤では見つからないし、だから魔法の範疇にいる。
で、この石と『魔術師の服』は、「錬金術で作られる賢者の石」に相当するんだよ。『魔術知の制限』に引っかかるんだ。
で、もしかして、文字通りかな?
「この石、もしかして、魔素流で作られる、『天然の賢者の石』ですか?」
「ええ、これだけの量の賢者の石があれば、ダーカスの大車輪くらいの金属は、金になりますよ」
あっさり答えられちゃったよ。
「ダーカスの大車輪」って、
うーん、確かにこっちのほうがカッコいい呼び方かも。
この世界の「天然の賢者の石」も、自然の産物だよな。
「じゃあ、この『天然の賢者の石』の使用は……」
「どうぞご自由に。
ただ、破壊を旨とするような使い方は、お教えはできません」
「解りました」
「……教えて下さい」
「はい」
さらに俺、聞く。
「強大な破壊魔法を、エモーリさんの機械で記録したら、それは人為ですか?
それとも、自然ですか?」
「逆に例を出します。
『魔術師の服』を、『始元の大魔導師』殿の『自然科学』や『科学技術』で再現が可能になったら、それを私達が制限すると思いますか?」
ああ、そうなれば、『魔術師の服』は、科学の産物になる。
そうなれば、『魔術知の制限』の範囲外だよな。
魔術師ではなく、この世界の人類が制御するべきものになる。
ああ、そか、強大魔法の自動化も、同じなんだ。
考えてみれば、核爆弾もそうかもしれない。
世界で10人しか作れなければ、その10人で管理し、その10人が管理される。
でも、その作り方がネットでも見られるようになっちまえば、人類全体で制御しなければならない。
ようやく納得したよ。
じゃあ、リゴスの魔法を学ぶ場所が、俺を殺したいなんて考えたのは見当違いなんだな。
特定の問いに対して、ノーコメントになるのも解ったよ。
むしろ……、逆かもしれない。
俺は、電気工事士の技術と、中学までの義務教育の知識と、Y○u Tubeやテレビで眺めた経験を使っただけだ。
それでも、魔術師さんたちは、大きく楽になったのかもしれない。
この大陸の中の国の1つが、
繰り返すけど、俺の修理は、明確に魔術ではないからね。
最後の疑問を聞く。
「俺が、この世界の
ルーの親父殿は、威厳たっぷりに頷いた。
「構いません。
お好きになさってください。
ただ、
また……」
また、なに?
「『始元の大魔導師』殿が、王とヴューユに話した、王権(政治)と魔術師の権利(魔法)と『始元の大魔導師』の権利(科学)、それから軍ですか、それら力の分権について、『魔術知の制限』からの制約もあるかもしれませんね」
ああ、それはあるかも……。
もう知っているんだ。俺の提案。
解ったよ。
じゃあ、このセリンさんが手に入れてきた機械だけど、単なる模倣はやめる。
より良いものを作ってみせてやるよ。
と言っても、持ち込んだ本で、電気回路の勉強しなきゃだけど。
本郷がいればなぁって、思うよ。
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